胸をはなれない
悠真
第1話
大学三回生の僕は、冷え込みの厳しい二月の試験明け、一泊二日で一人旅に出ることにした。
行先は和歌山。
本州最南端と呼ばれる地、串本を目指して地元の滋賀から夜中から未明にかけてオンボロ車で走る、いわば強行軍である。
恒例となっていた卒業するゼミの先輩らとの旅行企画を受け持ったことによる、現地下見が目的だった。
旅行会社を使わずに、ガイドブックと地図だけを駆使して観光スポットや宿泊先を独自に選んでスケジュールを組んでいたが、完璧を期すために僕は現地入りすることにした。
限られたお金と時間を使って、京都大阪経由で紀伊半島を海沿いにぐるりと回るルートだった。
あまり遠出をしたことがない僕は、和歌山初訪問どころか、自分の車で大阪まで出向くのも初めてだった。
地図を眺めていても、さっぱりイメージがつかめない。
どこの道を曲がって和歌山方面に向かうのか、頭に入れようとしたが、その手掛かりがなかった。
それで行けるところまで行って正しいルートをたどっているか確認することにして、体調に気を付けてとりあえず決めた時間に家を出た。
夜十時の出発だったと思う。
国道を京阪方面へ進むうち、早々によく知らない道に入っていく。
京都市内もほとんど電車でしか訪れたことがないので、山科を越える辺りから土地勘のないまま、直前まで眺めていた地図の記憶だけを頼りに車を走らせていた。
車の暖房をかけすぎて眠くならないように気を配っていたが、その代わり、始終身体が冷えている感覚があり、実に心細い旅路になった。
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