第5話

 それで、もう過去の話で終わるはずだったが、そのおよそ五年後、年賀状が届いた。


 門倉からである。

 普段年賀状のやり取りはしていないのに、と不審な思いで裏返すと彼が知らない女性と写った写真があった。

「結婚しました」とだけある。

 僕はなんだか、すっかりあほくさくなってしまった。


 以来、僕はサークル同期会には出る気をなくしたが、それ以前に呼ばれもしなくなった。

 確かにあの頃の僕は、孤独癖のある冴えない男子学生で、必ずしも好青年ではなかったが、自分をいろいろ試し、成功も失敗も併せのんで、声も顔つきも性格も思考も、良くも悪くも変貌した。

 よくここまで変わって来られたな、という感慨みたいなものさえある。

 が、彼らは僕のことは過去の姿しか見ていないし、門倉の与えた印象を鵜呑みにしたままなのなら、僕と再会したい気持ちがなかなか湧かないのも道理である。


 自分に起きた奇跡は、自分だけが知る。

 その奇跡に感謝して今を生きるのが、これからの僕の道なんだと思う。



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胸をはなれない 悠真 @ST-ROCK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説