第2話

 途中でさすがに自分の走っている道に自信がなくなって、僕は市街地の道端に車を停めた。

 車内のマップライトで地図を見直す。

 インターネットが登場する十年前の時代だから、専らアナログな手段しか経路を検索する手段がない。


 今いる場所を確かめているうちに僕は、ある良いことを思いついた。

 当時京都市内に、大学のサークルの二個下の後輩である”エイミー”こと瑛美が住んでいた。

 彼女に電話をして道を聞いてみればいい。

 本当に良いきっかけがつかめたと、僕は気分が高まった。


 実は僕はその頃、エイミーに思いを寄せていた。

 彼女は、クリエイティヴな女性で、イラストを描くのが得意だった。

 人と話すのがあまり得意でなかったようだが、うれしいときや面白いときはとびきりの笑顔で応えてくれた。


 半年前、僕がサークル内で作成していた会報の記事が物議を醸しだし、サークルリーダーから厳しい批判にさらされた。

 そのイラストを担当していたエイミーも一緒に突き上げられ、彼女がメンバーの集まる皆の前で、大粒の涙をこぼして「ごめんなさい」と泣き続けていた。

 そのようなことがあったせいで、僕は庇っていた彼女を強く意識するようになっていった。


 そう、あの頃の恋には理屈なんてなかった。


 僕は、そばの公衆電話から彼女のアパートに電話を入れた。

 初めて彼女に掛ける電話に緊張した。

 深夜なので電話口ですぐさま僕が名乗ると、いつも通りのエイミーの優しい声がした。


 途端に電話の向こうが急ににぎやかになる。


「エイミー、誰? 誰?」


 そういう女性の声がしたが、その他にも男女の笑い声が聞こえた。

 エイミーが僕の名を告げると、なおにぎわいが増す。

 今度は、僕が訊いた。


「誰が来てるの?」


 彼女は、サークルの先輩たちが遊びに来ているといった。


 僕はその夜彼女のアパートに皆で行く約束があったことを知らなかったし、そもそも知らされていなかった。それで僕は少なからずショックを受けた。

 サークルのメンバーのほとんどが僕の彼女にたいする恋心を知っていて、この扱いだったため、メンバーへの不信感を一気に強くした。


 エイミーは、今そこにいるメンバーの名前を五人ほど上げた。

 リーダーはいないようだったが、そのうちの一人があの門倉だった。



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