こうして僕は友を失う!
崔 梨遙(再)
1話完結:1000字
友人の守(まもる)と、守の友人の進(すすむ)と、金曜の晩に飲みに行った。多分、これも30代前半の時だったと思う。
駅のホームで電車を待っていたら金髪白人美人が1人で立っていた。僕は言った。
「おい、あの金髪美人に声をかけようぜ」
「いや、誘っても無理やろ?」
「俺はやめとくわ」
「わかった、ほな、お前等は電車が来たら帰れや。僕はあの金髪美人を口説く。僕一人で頑張って口説くんやから、成功してもついてくるなよ」
「エクスキューズ・ミー」
「はい、なんですか?」
「キャン・ユー・スピーク・ジャパニーズ?」
「少し話せます」
「食事行きませんか? コーヒーでもいいですけど」
「コーヒー飲みたいです」
「ほな、行きましょう!」
そこまでは良かったが、ニヤニヤしながら守と進が会話に入って来た。
「なんやねん、お前等。もう帰れって言うたやろ。美味しいところだけ持って行くなや。声をかけたのは僕なんやから」
「まあまあ」
「何が、“まあまあ”やねん」
「俺達も仲閒に入れてや」
「アカン、さあ、お姉さん、カフェに行きましょう?」
ついてくる守と進。僕は鬱陶しかった。
カフェで4人がけのテーブルに座ると、守と進も便乗して座った。
「もう、お前等、帰れや」
「まあまあ、そう言わんと」
「俺達も仲閒に入れてくれや」
僕は不愉快になって、ほとんど話さなくなった。こんな気分で、楽しい会話なんか出来るはずがない。僕は子供の頃から“他人のふんどしで相撲をとる”ような行為が大嫌いなのだ。要は、他人の手柄を横取りする奴が大嫌いだ!
解散になった。金髪美人の最寄り駅の関係で、僕と進は別れて守が金髪美人と一緒に途中まで帰ることになった。
帰宅すると、守から電話がかかってきた。
「帰りに誘ったら彼女がついてきたかもしれへん。なんかそんな雰囲気やったわ」
荒い息、興奮しながら守は喋っていた。僕は怒りを通り越して呆れた。家に誘っていたのならまだ努力を認めても良いが、結局、誘う度胸も無かったのだ。
「他人のふんどしで相撲とって、喜んで興奮しながら武勇伝として語るんか? お前は情けない奴やなぁ。美味しいところだけ持って行った奴が自慢するな」
と言って、僕は電話を切った。こうして、守は友人から知人になった。こうして僕は、友人を失っていく。僕は守を軽蔑した。軽蔑する相手を友人とは呼べない。
こうして僕は友を失う! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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