第5話 RC (ラジコン)ドリフト

 24ランドで見つけたラジコンRCドリフト、その走りは小さいながら見事なドリフト走行を再現し、俺の目の前を走って行った。


「なんだあれ、RCカーでドリフトをしてるだと〜‼︎」


 思わず声に出てしてしまう程の走りに俺は驚き、その光景を疑った。

 知っているRCカーと言えば子供が公園で無邪気に走らせている物しか俺は知らない、いわゆるトイ・ラジコンtoy rcってやつだ。

 だが目の前で走らせてるRCカーは大人が真剣にコースで走らせているホビー趣味RCで、実車に近いリアリティ溢れるボディと、様々なカラーリングにステッカーを施し最新の新車から旧式な車、珍しい物になるとアメ車や有名なイタリアのスポーツカーまでもがここでは走っていた。


「すげ〜! 色んな車種がドリフトをして行くぜ〜」


 RCながらドリフトでカウンターを当てて行く姿はまさに実車に近い走りで魅了されて行く。

 実車で走っていた俺でさえ、これには感動して自身で走らせて見たいと思う程だった。


「あれどうやってタイヤを滑らせてドリフトしてるんだ? こんなツルツルなコースなのに立ち上がりでなんで姿勢制御がちゃんと出来ているんだ? テクニックか! テクニックでなんとかなる物なのか?」


 RCに無知である俺はRCカーのドリフトがどんな感じで走るのか色々と模索するが答えが出なかった。

 これは自分で買って確かめないと納得出来無いと思うその時だった。

 一際目に入るRCカーが1台通り過ぎて行く。


「んっ、あれ? あの3ドアハッチバックのボディは……AE86か?」


 ストリート仕様ながら桜色と白のツートンに塗り分けられ白い部分には桜の花びらと、桜色の部分には猫の足跡が付いたステッカーが貼られたAE86レビンが俺の目の前を通り過ぎ、去って行く。


「あのAE86、何者なんだ?」


 コーナーを進入してから出口まで綺麗なドリフトで駆け抜けて行く桜色のAE86レビンは無駄が無く走り去り、男らしい豪華な走りとは違う、柔らかくそして優しいドリフトをして行くのだっだ。

 俺はそんな走りを『綺麗だ』っと眺めていたが調整をしていたのだろうか数周でコースから外れ、持ち主がRCカーを回収しに近づいて来たのだ。


「なんだよ、もう走るの終わりかよ……んっ! えっ? 女の子‼︎」


 その小さな華奢きゃしゃな体付きは、高校生位の女の子で黒い髪を後ろに束ね、ポニーテールをゆらゆらと揺らしながらRCカーを回収して行った。

 彼女はこの男だらけのむさ苦しい中に、紅一点で走らせていたのだ。


「あんな可愛い女の子がAE86を走らせていたのかよ、信じられない……」


 今時の女の子ならもっとカッコいい、日産のS15シルビアや180SX、マツダのRX-7などを好むと思うのだが彼女はAE86レビンを選んでいる。

 これは某アニメの影響でAE86を選んだのだろうか? それとも別の意味で選んだんだろうか? 不可解ながら世の中には色んな好みの人が居て複雑だなぁ〜っと、彼女を目で追いながら思っていた。


「可愛いなぁ〜あんな女の子の横で一緒に走らせたら最高だろうなぁ〜」


 思わずボソッと声に出しのが聞こえたのか、彼女は一瞬こちらを『チラッ』と見た後に顔を赤くして、そそくさと隠れるように奥のピットテーブルへと戻り小さくなっていた。


 (アレっ、さっきの言葉が聞こえたのか? いや、ゲームの爆音の中で聞こえる訳が無いと思うのだけど……何んで彼女は逃げていったんだろう……)


 あんな可愛い子に面識などは無く、思い当たるはずも無い。

 だが奥のテーブルで縮こまってしまった所を見ると俺とは関わりたく無いのだろうと思い、仕方無しに俺はサーキットコースから離れアパートへと帰る事にした。


 アパートにたどり着いた俺は今さっき見たRCドリフトにかなり興味を持ち、ノートパソコンを開いてリサーチを始める。

 実車のドリフトを半ば半分なかばはんぶん諦めてる俺だが、やはりドリフトがしたくて仕方がない。

 ドライビングゲームではあの悪魔的白い猫が現れるが、RCなら運転席から見る訳では無いので安心して走らせられると思ったのだ。


「えっ〜と、ラジコンドリフトっと」


 検索の冒頭に出て来たのはタミヤと言うメーカーだった。

 タミヤは沢山のRCカーを作り世に出していて、オフロードやオンロードカーなどを販売している。

 RCカーのレースなどもやっているようで種類も豊富なようだ。


「あれっ、俺の好きなAE86ボディが無いじゃないか! 他のメーカーにあるのか?」


 パソコンのマウスをドラッグして下へ画面をずらすと今度はヨコモと言うメーカーが現れた。

 ヨコモも、やはりオフロードやオンロードなどを販売していてRCカーレース等もやっているようだ。

 だが1番力を入れてるのはドリフトの様で、ここのバーナーをクリックして詳細動画を観始める事にした。

 動画には大きなサーキットコースで撮影したのだろう、広々なコースでRCカーが魅力溢れるドリフトをしてアピールしている。

 これを観た視聴者なら欲しくなるのは当然で、俺も欲しくてたまらなかった。


「うお〜っ、かっこいい。これ買いだよなぁ、買い!」


 だが値段を見て絶句をする、YD-2と称されるシャーシいわゆる車の部分だけでも3万円ぐらいはするのだ。

 操作する送信機プロポやバッテリー、充電器、一式を含むフルセットとなると5万円相当は行くのだった。


「なにっ! RCカーってこんなに高いのか?」


 RCカーはおもちゃtoyだとばかり思っていたが、本当はホビー趣味で有りお金と時間掛け、こだわって作るオモチャである事に俺はわからず、安く買えると高を括っていたのだ。

 働いていない俺には5万円はとても大切な金額で有り、一気に払える物では無かった。


「どうすればいい……諦めるか?」


 俺は天を仰ぐように部屋の天井を見上げ、その後に周りを見渡すと本棚の中に入れて整理してある昔遊んでいた家庭用ゲーム機とゲームソフト、アニメのブルーレイボックスが目に入った。


「失業保険も切れたし、これらも売ってなんとかするか……」


 今はほとんど遊んでいないゲーム機とブルーレイボックスなので丁度良い機会だと思い、ネットオークションに出品してお金に変える事にした。

 次いでついでにネットフリマの方も覗き、RCカーの安い中古がないか探し始めて見る。


「ヨコモYD-2の良い中古は無いかなぁ〜?」


 探しては見たが時期が悪いのか相場に合う品は出て来なかった。

 あるのは純正品で素組みの使い古されてボロボロの物や、高く売れそうな部品だけを抜いて歯抜けになったお粗末な物が定価の倍近くで売られていたのだ。


「なんだこりゃ! 変な物しか売って無いじゃないか。時間を置かないと良いヤツは出て来ないな、こりゃ〜」


 RCカーの事は一旦保留にし、次なる問題である就職先をどうするか考えた。

 実は何度か求人先に直接応募はしたものの、面接の場面で腰痛の話をすると断られてしまっていたのだ。

 成す術が無いと諦めて仕方なしに派遣会社を通し入った会社ではなんだか知らないが、すんなりと事情を理解してもらい、腰に負担が掛からない部署を案内してもらい雇ってもらう事が出来たのだった。


「給料は以前より少なくなったけど取り敢えず1人での生活は安泰だなぁ」


 気持ちに余裕が出来た俺は、運も味方してくれたのかネットオークションに出品したゲーム機とソフト、アニメのブルーレイボックスが予想以上の金額で売れて行た。

 そんな大した事の無いゲームソフトやブルーレイボックスなどだが、購入者が競り合いに夢中になってくれたお陰で値段がうなぎ登りに上がり、高値で売れたのだ。


「うおっ、スゲ〜この金額ならYD-2シャーシと送信機のプロポセットが買えるぞ〜。だけど……今後の事を考えるとなぁ〜」


 俺は売り上げた金で新品のYD-2送信機付きフルセットを買うつもりでいたが、ホビーと言う物はハマるとお金が掛かる事を知っていたので中古で安いYD-2シャーシを買い少しづつオプションを付け加える事にしたのだった。

 そう思った時、中古で買うならネットフリマだろうっと、さっそく画面を開き検索を始める。

 あれから日にちも経ったし今回は良い出品があると踏んだからだ。

 期待しながら探すが余り良い状態の出品物は何かった。


「ちぇ、今回もいい物無しかよ……んっ? なんだこの激安なYD-2フルセットは!」


 見つけたYD-2フルセットは『画像が全てです』っと書かれ、値段もかなり安かったのでコメントの内容などを読まず、思わず即決で購入してしまったのだった。


 数日後、商品がアパートに届き俺は急いで宅配の対応をした後に待ちに待ったYD-2を取り出す。

 すると外で走らせていたのだろう、滅茶苦茶汚いヨコモのYD-2シャーシと使用感いっぱいに傷だらけのプロポ、充電器やバッテリー一式が現れモチベーションが下がって行く。


「うおっ、汚な! なんだこれ……あれ? ボディは無いのか?」


 安さに負け冷静差に欠けた俺は、急いで買ってしまった事を後悔しながらYD-2シャーシと送信機プロポを取り出し、出品者に取り引きを終える評価を為に確認を始めた。


「なんだよこれ、ジャンク以下じゃないかクレーム付けてやる!」


 ノートパソコンを開き出品者に物言いをしようと取り引き画面を開け、コメント欄を良く見ると『ほぼジャンク状態です。画像の物が全てです。ボディは有りません』と書かれていたので文句の付けようが無く、何も言えずに評価を付けて取り引きを終えた。

 このYD-2シャーシにはボディが無いのでそのままネットフリマでボディを探す事にした。

 ボディはやはりAE86トレノの綺麗な状態の物が欲しいから入念に探し始める。


「AE86のボディ、あるといいなぁ〜♪」


 画面をどんどん下にずらし、沢山売っている事がわかる。

 気色悪い色をしたボディやフロントバンパーが無いボディなど、色物好きが好みそうなボディばかりだった。


「なんだよ、色物しか無いのかよ……」


 マウスをどんどんスクロールさせもっと下にさげて行くと、まともそうなボディが1つ俺の目の前に入る。

 それは赤く塗装されたストリート仕様のAE86トレノボディで若干高めで売られていた。


「なんだよ、沢村さん仕様かよ……でも背に腹はかえられ無いかぁ……」


 AE86 好きな俺には、早く欲しくて無条件でその値段に応じ、購入したのだった。

 今回はコメント欄も読んで画像もしっかりと見たので変な物では無さそうだ。

 これで全てが揃い走れるようになると思った俺はボディを載せるのを待たずに、YD-2シャーシを動かそうと送信機とプロポにバッテリーを入れ電源を入れる。

 一瞬『ピッ』と動いたがすぐに消え、その後はうんともすんとも言わず動かなくなった。


「おいっ、なんで動かないんだよ……」


 寿命が終わったバッテリーとも知らず、俺は何度も充電器にバッテリーを繋ぎ合わせ、YD-2の動作確認をする。

 バッテリーの寿命が尽く事に気づくのは、それから数時間経ってからの事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 20:10 予定は変更される可能性があります

ドリフティングG 天夢佗人 @blue-promaxis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ