第4話 返済
AE85を廃車して長野県から帰宅した俺は借金を返すべく就職先を探していた。
骨折をした左足と首の鞭打ち症は良くなっては来ているのだが、腰椎圧迫骨折に置いては末だに激痛が走り俺を苦しめる。
今のままだとまともな仕事には就けそうには無かった。
「くそ〜この腰さえ完治していれば……」
早く働いて返済をしなければいけない焦りと腰の痛みによる苛立ちは、俺の精神を
毎日返済の事ばかり考えては頭が一杯になり、だんだんと自己嫌悪に陥り生きる気力さえ失って行く。
「はぁ〜どうやってお金を返せばいいんだ、スーパーで買ったもやし一袋25円でなんとか生きてはいるけど借金を払わなければ怖い人がやって来て何処に連れて行かれるかも知らないし、なんとか働き口を見つけないとなぁ〜」
そんな不安を持ち続ける中で不思議なが事が起きる。
スーパーから徒歩でアパートに帰ると、郵便ポストに封筒が入っていた。
また赤いハンコが押された請求封筒だろうと思い取り出すと何でもない封筒が入っていた。
封を開け中身を見ると完済しましたと言う手紙と領収書が入っていたのだった。
何かの間違いだろ? っと思いながら次の日にも別の金融機関から封筒が届き、こちらも完済しましたと言う手紙と領収書が入っていた。
(俺、返済などしていないんだが……なんでだ?)
次々と送られて来る完済の封筒と領収書は、俺が払い切れない群サイでの事故処理代金で、全てが支払われ帳消しになっていた。
なんでだ? っと思い頭を傾げているとスマホから着信音が鳴り始める。
俺は慌ててポケットからスマホを取り出し、電話に出た。
「もしもし、群城です」
「おっ、群城くん。元気にしているかい?」
電話先の相手は沢村さんで支払いの請求で電話をして来たのだと勝手に思い、なんとか誤魔化そうと考えた。
「あっ、沢村さん。支払いの件ですか? それ、もう少し待って頂けますか?」
俺は取り
「いや、そうじゃ無くてね。この間、君の彼女と言う人が現れてね。『彼の代わりにお借りしたお金を返します』っと言って支払って言ったんだよ。群城くん君、あんな美人な女性と何処で出会ったんだい? 隅に置けないね〜」
ありえない事だった、俺は生まれてから一度も彼女と言う者を作った事は無い。
別に容姿が悪い訳では無いし、太っている訳でもいない、ただドリフトが好きで車を手に入れた時から夢中になり異性よりもドリフトに全てを掛け、ここまでやって来ただけなのだ。
まぁ、そんな事は言っても本音は彼女も欲しいし、性欲だって無い訳では無いのだけど……。
「あの〜その彼女って黒くて髪毛が胸まであってストレートヘアーの人ですか?」
「なんだいいきなり、そうだけど……群城くん君、自分の彼女の特徴も忘れたのかい?」
間違い無い、病院で見舞いに御節の重箱を置いて行った女性だ。
だがなんで俺の為にこんな事をするのかわからなかった。
考えられるのはその女性が支払った金は群サイで事故を起こした時の返済金であり、それ以上の事はしていない。
まるで罪滅ぼしをしているかの様にも思える行動だった。
「群城くん、どうしたんだい? 無言になっているけど……要はそれだけだからもう切るよ」
「すいません、わざわざ電話ありがとうございました」
電話を切り、借金の返済から免れた俺は安堵する一方でその謎の女性が誰なのか気になって仕方が無なかった。
「これでモヤシ生活からはおさらばは出来きたけど、しかし……返済した女性って誰なんだろ?」
誰だかわからない女性の事を考えるが結局身近に知ってる人はいなく、見当がつかずにいつしか考える事を忘れていてしまっていた。
日は流れ陽気は暖かくなり春が訪れる。
桜が咲き始める頃になっても俺の腰の痛みは安定せず就職先もまだ見つから無いままだ。
失業保険も満期に近づき懸命にスマホで求人サイトを開け働き口を探がすが腰が気になって前へと進められない。
何もしなければ痛まない腰も同じ姿勢でいたり、膝より下に腰を曲げると激痛が走り就職に踏ん切りが付かないのだ。
数時間も求人サイトと睨めっこしていると目の疲れと飽きが来て、調べる気力も失せたので気分転換に遊びに行く事にした。
群馬県は何処に出かける時にも車が必要だ。
だが当然、AE85改のようなドリフト車のバケットシートには今の俺は座れる訳がない。
幸いな事にあの廃車したAE85はナンバーを取っていない競技用の車なので自家用車としては使っていない、普段の暮らしには影響の無い車だ。
そして日常の中ではもっぱらゲタ代わりにスバルの軽自動車『ステラ』のスーパーチャージャーを乗って生活をしている。
競技用車と自家用車を持っていた事になるのだが、公道でこのステラに乗っている時はあの幻惑の白猫は現れ無い事が乗って見てわかった。
もしかしたら交通ルールを守ったスピード位なら大丈夫なのだろうっと思って運転をしている。
そのステラの座席は若干シートが低いが座布団を敷けば平行になるので数時間の間なら腰に負担が掛からない事も実施済みだ。
そんな事で俺は気分を変える為にゲームセンターに行く事にした。
ゲーセンはアパートから15分圏内にあり、大型ホームセンターが潰れた所を改修して作り直されたかなり広いゲーセンだ。
しかも24時間やっているので巷では『24ランド』と言われいる。
運転の途中で腰が痛くなるのを嫌い、腰痛コルセットと痛み止めを服用して遊びに行く事にした。
車の乗り降りする時は、腰を労りながらゆっくりと座席に座り降りる。
ゲーセンの駐車場に辿り着くと早速店内へと入って行く。
店舗内に入ると色々なゲーム筐体が置いて有り、凄い音と派手な光で客を歓迎していた。
俺はそんな店内で1つのゲーム筐体を探していっる、それはドライビングゲームだ。
リアルで走らせる事が叶わないのなら電脳世界でなら楽しめると思ったからだ。
一目散に向かい、行った場所には最新のドライビングゲーム筐体が置いて有り、丁度誰も居なくデモ画面だけが流れていた。
これはチャンスとばかりにゲーム筐体の座席に座り込む。
だが最新のドライビングゲームゆえ、実車に近づけようとしているので座席は深く、腰が痛む俺には座り込むのに苦労をした。
ゆっくりと座り込み、小銭を入れるとゲームが進行して行く。
画面の説明を見ながら操作方法とゲームのシチュエーションを選ぶのだ。
車種を選びトランスミッションの選択画面に移行する。
「車種はやっぱりAE86だよなぁ〜色は細かい色が選べ無いから白黒のパンダトレノにしよう。後は
リアルでドリフトをしていたAE85のミッションはHパターンと言われいる前後左右に入れるマニュアルシフトでクラッチを切ってから順番にシフト入れるミッション方式だがシーケンシャルシフトはクラッチがいらなく、前後に入れるシフト方式なのでゲームながらにかなり楽しめそうだっだ。
ゲームのシチュエーションはタイムアタックとCPU戦との対戦があったが俺はタイムアタックを選びドリフトを楽しむ事にした。
「AE86トレノのMTにしたぞ〜後はっと」
次の画面はコース選択だった。
「コース選択? 初級から超弩級まであるが……リアルで走って来た事だし中級コース位は楽勝でしょう」
俺は中級コースを選び、ゲームを始める事にした。
スタートラインに自信の分身である白黒のAE86トレノが現れる。
視点は運転席側から眺める方式を選び、リアリティーを求めた。
音声と画面のガイダンスでカウントダウンが始まり緊張が高まっる。
『3・2・1・Go!』
スタートと同時に右足でアクセルを踏み込みタコメーターがオーバーレブする直前でシフトアップをして行く、1速から2速、2速から3速、3速から4速へとシフトをアップさせAE86の速度は上がって行く。
スピードが出ているがゲームなので
コーナー手前で右足で軽くアクセルを緩めた後、同じ右足でブレーキにを踏み直し、右にハンドルを切る。
ゲームの中のAE86はそれに従うようにスピードが落ち、ハンドルを切った分だけ前輪が旋回方向に向いてグリップしながら曲がって行く。
1つ目のコーナーを抜け、アクセルを踏み込むとまた次のコーナーが現れる。
今度は急激なヘアピンコーナーで2速までシフトダウンしてリアタイヤを滑らせ、ドリフトしてコーナーを抜けなければならなかった。
俺は実車でやっている通りに一度外側にハンドルを切り、そこから内側にハンドルを戻してドリフトを試して見る。
だがゲームなのだろうか、外に振るアクションはキャンセルされ車体は内側にすぐに向き、ドリフトをして行った。
「なんだよ、こう言う所は実車と違うのかよ」
少しガッカリしながらもゲームを進めるが中盤に差し掛かると無数の険しいコーナーが待ち構えている。
俺はそこをドリフトして駆け抜けて行くその時だった、例の白い悪夢が舞い降りて来る。
「よし、この中盤を越えればもうゴールは目の前……うぉ〜!」
大声を出してしまう程に叫ぶ俺はゲームの中でもあの白い悪魔がハッキリと現れ、避ける為に反射的にハンドルを切ってしまった。
ゲームの中のAE86は外側のガードレールにぶつかり止まってしまのだった。
「う、嘘だろ……ゲームだぞ。それでもアイツが現れるのか!」
そこからは何度やり直してもドリフトをする度に白い猫が現れ、俺の運転の邪魔をする。
俺にとってこのゲームは障害物回避ゲームになっていたのだ。
もし、後ろにギャラリーが居たならばコイツなんで何も無い所でハンドルを切って避けているのだろうと指を刺され爆笑し、恥をかく事に違いない。
結局、ゴールは出来ずにタイムオーバーとなって終わってしまった。
変な汗をかきながらゲーム筐体の座席から降り、ヨタヨタしながら近くの休憩所で体を休み椅子に座り込みむ。
ため息をしながら
「あの白い猫はいつまで俺に
YouTubeのドリフト動画でもイメージトレーニングでもドライビングゲームでも、あの白い猫は現れ俺のドリフトへの道を妨げる。
そんな時に店舗内の奥から『シャー』っと言う音や『ウィーン、ウィーン!』っと言う音が聞こえて来る。
なんの音だろう? っと俺はその音の方に引かれ歩み寄った。
近くに寄って見て見るとゲーセン内にサーキット場が有り、そこでは
俺はそれに驚きながら興味を引かれるのであった。
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