第5話
今度はサシャから村長へと、会話のバトンが紡がれた。
「我々もできる限りの事はしたのです、しかし手持ちの武器や罠では弾かれ、躱され、耐えられてと無力の極みなのです、1つの武器を除いて」
そう言うと、長老は布に包まれた細長い何かを悠吾の目の前に差し出す。
「これは...?」
「龍の逆鱗から作り出した剣でございます」
そうして中から出てきたのは、極限の輝きを放つ白い刀身だった。
「あ!これ俺の鱗ダ!」
「その通りです!龍神様の逆鱗で作り上げた剣なのです、しかし、何故か我々が扱っても切れ味など無いも同然なのです...」
「え?鱗は触っても大丈夫なんですか?」
「あぁ、数時間経てば剥がれた鱗なんざタダの鱗サ!」
悠吾の抱いた違和感を、すかさずデスグラシアがフォローする。
「今なら分かります!ユーゴ殿ならこの剣を使いこなせると!」
悠吾は恐る恐る、その白銀の剣を持ってみる。
(重い...剣ってこんなに重いのか)
そして、悠吾が剣を持った瞬間、ある変化が現れる。
まるで血管を流れる血液のように、歪な赤い線が刀身の端から端まで迸っていく。
「ユーゴ殿!?これは!?」
「僕にも何が何だか...」
その場にいる者のほとんどが状況を理解出来ないでいる中、デスグラシアが淡々と語る。
「俺の体を離れた鱗が、もう一度俺のマナに触れてやる気を出したってことだナ」
「なんだそれ...でも、その通りかも、この剣は生き返ったんだ!」
「遠出してまで剣を作ってもらって正解だった...ユーゴ殿!我々も出来る限りのお力添えを致します!きっと、いえ、絶対に!今ならジャイアントアラクネーに勝てまする!」
「お願いしますユーゴ様!」
長老とサシャの熱い眼差し、そして、ここにはいないリポカ族の人々からの熱い思いを、悠吾は感じ取ったような気がした。
「分かりました、僕も貴方達への恩義には必ず報います!では明日、奴を倒すための策を練りましょう」
「ユーゴ殿!」
「ユーゴ様!」
希望が見えたと、長老とサシャは感動の表情で向き合っていた。
そして、悠吾が明日のために睡眠を取ろうと思っていた頃に、今まで姿の見えなかったケイが戻って来た。
「ケイ、おかえり!"女王"はどうだった?」
「ただいま、やっぱり少しずつこっちに近づいてきてるな」
「ん?」
「あ、もしかして睡眠の邪魔でしたか?」
ケイは目を擦る悠吾を見て声を掛ける。
「いや、大丈夫、気にしないでよ、というかさっきまでどこに?」
「見張り番です、やぐらから"女王"の動きを見ていました」
「そっか、そういえばさっき決めたことなんだけど、俺やるよ!絶対に奴を倒す!そのために明日作戦を練るつもりだから、一緒に考えてくれないかな?」
「もちろんです、これでようやく"女王"に怯えずに済む」
喜ばしい状況には変わりないが、ケイの顔には何かが喉につっかえたような、拭い切れない不満が見て取れた。
「サシャ、少し外に来てくれないか?」
「ん?いいけど...」
そういうと二人は外に出てしまった。
「サシャ、その...なんで俺や村の者じゃないんだろうな...」
「ケイ?なんのこと?」
ケイは振り絞るように、自分の思いの丈を吐き出す。
「俺は予言通りに事が進んでいるのが...納得いかないんだ...」
「え!?一体何の不満が...」
「俺はリポカ族の皆が好きだし、守りたいと思ってる、産まれた時から皆と一緒だったしな、でも"女王"を倒す役目はどこの馬の骨とも分からない異邦人だなんて...一体どんな悪戯なんだよ...」
サシャも少しばかり似たような気持ちを抱えていた。悠吾にではなく、デスグラシアに。
「ケイに不満があるように、私にも不満はある、正直龍神様のことを許してるわけじゃない...本当にこの村を守ってくれるのか怪しいとすら思ってる」
「サシャ...」
悠吾達のことを全肯定していると思っていたサシャから、否定的な言葉が出たのが意外だったのか、ケイは気持ちの共有による喜びよりも、驚きが勝った。
「でも私達が総力を挙げても"女王"に叶わなかったのも事実でしょ?私達だけで燻ってても、リポカ族は守れない...」
サシャは現実と向き合い、自分達でジャイアントアラクネーを倒すという幻想が叶わないと諦めた末に、悠吾達に頼るという答えを出していた。
長い沈黙の後、ケイはふぅと溜息を着き、喋り始める。
「妹の方が真面目に皆のこと考えてるのに、俺は自分勝手だったな」
サシャの覚悟は、ケイの重みがかった心を綺麗さっぱり洗い流した。
「自分勝手なんかじゃない!そう思うのは仕方ないよ、でも人には出来る事と出来ない事がある、それを補い合って生きていく、リポカ族が今までやってきたことでしょ?」
サシャの素晴らしい言葉に、ケイはポカンとした後大笑いをしてしまう。
「アッハハハハハ!」
「私、何かおかしいこと言った!?」
「違う違う、自分のちっぽけすぎる悩みに笑えてきちゃって」
ケイの重苦しかった顔は、憑き物が落ちたように爽やかな顔へと変わる。
「よし、気持ちを切り替えなきゃな!話聞いてくれてありがとな!」
「うん、なんだか私もスッキリできた」
そして、この会話を盗み聞きしていた者達もスッキリした顔付きだった。
「とりあえずは一件落着って感じかな?」
「ダナ!」
「責任は重大なんだ、頑張ろうぜグラ!」
「オウ!ってグラ?」
「デスグラシアは長いからグラ、悪くないだろ?」
「うーん...まぁいいカ、じゃあ頼むぜユーゴ!」
「おう!」
今夜は深い眠りに着けそうだと、ケイ、サシャ、悠吾、グラは考えるのであった。
テラリウムアドベンチャー 八雲 那覇斗 @colao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。テラリウムアドベンチャーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます