しっちゃかめっちゃかい

藤泉都理

しっちゃかめっちゃかい




 刀剣系、格闘系、魔法系、精神系、生物系、ボス系、干渉系、変換系、銃火器系などなど、転生するたびにあらゆるチートスキルを付与された男は、己の人生に激しく絶望した。

 前世の記憶を持って新しい生を迎える度に、男はチートスキルなど不要だと叫んだ事か。

 チートスキルを持っていた所為で、とにかくもう、厄介な生物に纏わりつかれ、厄介な事に巻き込まれ、すべてを吸い上げられて、こき使われて、いい想いをした事など一度たりともなかったのだ。チートスキルなんて自由の権化かと思いきやとんでもない。とても過密な制限を課される人生を送らなければならないのだ。

 もう要らないないない。チートスキルなんて消えちまえ。

 死を迎える時に叫び、生を迎える時にも叫んだ。

 しかし悲しい哉。

 今迄その切望が叶えられた事はなかった。

 そう。今迄は。


「よっしゃあ!!!転生した爺さん(無能力)になったどおおお!!!」


 男は年甲斐もなく飛び跳ねた。

 転生した先が、爺さんだろうが構わない。無能力だ、無能力。


 空を飛ぶ甲殻類がぶつかってこよう(痛い)が、炎付きバンブーダンスをするキノコが見て見てとせっついてこよう(熱い)が、地面の中から魚が飛び出して眼前を通り過ぎてこよう(刺さりそう)が、空飛ぶ甲殻類を潜水艦だと勘違いして、『空から潜水艦っ?!』だと叫ぶ人間が自分の周りをぐるぐる駆け走ろう(目が回りそう)が、『亀よ鏡よ刑務所よ我を救い給え』とぶつぶつ呟く人間が自分の背中に負ぶさってこよう(重い)が、『猫は飲み物さぁ飲むが良い』と人間が顔面に猫の腹を押し付けてこよう(あ、癒される)が。

 何の問題もない。

 なんせ、無能力なのだこの爺さんは、無能力。

 今は何か、きっと不可思議な現象が起こって、不可思議な生物たちが纏わりついてはいるが、すぐに居なくなるさ。なんせこの爺さんは無能力。

 ああ、いい。

 無能力最高。

 さあ、どうしてくれようか。

 まずはこの爺さんの財産を知っておくか。

 財産が零だったら、零だったで構わない。

 いやいや、むしろ零であった方がいい。

 これからどうやって財産を築き上げていくかを考え行動する楽しみがあるのだから。

 ああ。いいねえ。いい。無能力。自由だ。無限の彼方へゴーだ。






 輝く未来に心を躍らせた男は知らなかった。

 自分の顔面に腹を押しつけられている猫が実は、本物の猫ではなく機械世界の住民で、機械世界最後の天然の花を一緒に探してくださいと頼んでくる事を。

 男は知らなかった。

 無能力だと何かと心もとないでしょうからと、猫に勝手に機械生命体に改造される事を。

 最強最悪の機械生命体に改造されては、なんやかんや厄介な生物に纏わりつかれ、厄介な事に巻き込まれる事を。

 輝く未来に想いを馳せる今の男は、何も知らなかったのであった。




「イエーイ!無能力さいっこう!」











(2024.9.28)



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しっちゃかめっちゃかい 藤泉都理 @fujitori

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