源次郎万次郎磯
閑古路倫
第1話 源次郎万次郎磯
ようこそ、おいで頂きまして。
お耳汚しの、一席で御座います。
まあ、世の中には、お偉い方がいらっしゃいます。
毎日をお忙しく、お過ごしになられて、たまの休日。
ゴルフとか競馬とか、えっ、競馬はお前の趣味だろうって。
いや、お偉い方たちは私達と違って、チョット儲けてやろなんて、お馬さんにお金を
なんてことはしませんな。
どうするかってぇと、自分の持ち馬を走らせて賞金を、いただこうとするわけですな。
お馬さんも何百万何千万はざらですな。
何億円なんて、お馬様もいらっしゃいます。
まぁ、
ところで、昔の偉い人と言えば、何と言っても殿様です。
このお話しに出てくる方も、殿様、殿様が御家来衆を引き連れてと言ったら、演じるのは私一人ですから、てんてこ舞いになちゃいますから。
予算の都合上、お連れの御家来も一人とさせて頂きます。
水戸の殿様が、良く晴れた日に那珂川の河口にある願入寺下の岸辺で釣り糸を垂れていました。
「引きがないな、これ、
落語ではお付きの御名前は、三太夫ですな「殿、おおそれながら、私、水練は苦手としておりまして、内申書にもその様に書かせて頂いております」
「何、内申書とな、まぁ、冗談ではあるが」
「それにしても、この河は深そうだなぁ、ちょっと覗いてみよ」
三太夫さん殿様の太刀を
が、何しろ水練が苦手ですから腰が引けている、いわゆる屁っ放り腰ですな、ちょっと面白い格好だ。
よせばいいのに殿様「わっ!」と大声でおどかしたものですから、三太夫さん慌てて殿様の太刀を河に「ドップン!」と落としてしまった。
「も、申し訳ありません」
「すぐに、取って参れと、言いたいものの、いやいや、わしも悪かった」
「誰ぞあるか?」
そこに控えておりました地元、大洗村の名主の老人「おおそれながら、この河の深さは
早速、源次郎万次郎が呼び出され潜ることになりました。
さすが、名人ではありますが、どこまでいっても底が見えない。
コリャ、息が続かないと思った
ようやく河の底に着くと、不思議なことに息ができる。
そこに、竜宮のお姫様と見違う程の美しい娘が殿様の太刀を抱えてやって来て言うには「ここは、尋常の者はこれないし、また、長くいることもできません」
「この、刀はあなたにあげますから、ここの事は決して、他の人に話してはいけませんよ、約束出来なければ帰せません」
「必ず、誰にも話しません」
源次郎万次郎はそう言うと、水面を目指して泳ぎ出しました。
やっとの思いで、河から上がると、水底で見であるぞ、褒美を取らそう」
源次郎万次郎は、褒美として大金を頂きました。
さてさて、村に帰った現次郎万次郎ですが。
体一つでお金を稼ぐ、男やもめの気楽さで宵越しの銭は持たない江戸っ子ならぬ、水戸っぽ。早速、お金を持って居酒屋へ!
酒は、百薬の長なんて申しますが、適度に飲んでこそ、酒は飲んでも飲まれるな。
大金もらって気が大きくなったおかげで、財布の紐は緩むは、お酒のおかげで、口の回りも絶好調、有る事無い事、ついでに河底のお姫様から百尋ワカメのことまで、べらべら喋って上機嫌。
翌朝、目覚めて、酒も醒めて「あぁ、やっちまったな」財布が軽くなったこと程には、約束を破ったことは気にならない。
気にしたところで、腹の足しにもならね〜な、てなもんですな。
そんなことがあった後の、大潮の日、大きく潮が引いて普段は決して見えない沖の磯場が現れ、海岸から
この時ばかりは、村中、老いも若いも、男も女も、一斉に磯に繰り出して、貝やら魚やらワカメやらを手づかみで取り放題ですな。
源次郎万次郎も釣り竿担いで、磯伝いに沖の磯場に向かい、釣りを始めましたな、これが、もう大当たり。餌を付ける間もなしに魚が釣れる。
面白い様に釣れるもんだから、時を忘れて釣り続けているうちに、普段は海中にある磯場ですから潮が満ちてくると、水面が上がってきて足の指が濡れる。
「お、冷てえ」気づいて周りを見ると、伝って来た岩場が水面の下になって、源次郎万次郎が乗っている磯が離れ小島になってしまった。
「泳いで戻らにゃならんか」
釣り上げた魚は
「運ぶのも楽じゃねえな、釣りすぎた」
さて、釣竿と魚籠を背負って海に入るかと、したところで。
源次郎万次郎の乗った磯場の回りを、一匹のサメが泳いでいるのが目に入った。
サメは源次郎万次郎より大きく見えた。
今、自分が乗っている磯場は源次郎万次郎の足首位まで沈んでいる。
これが、膝まで沈んだら、サメは磯場に乗り上げて俺を喰いに来るだろう。
それまでに、一番近い磯場まで泳がなきゃ助からね。
源次郎万次郎は釣り上げた魚を思い切り沖に向けてなげてみた。
サメは投げた魚を追って磯場から沖に向かってお泳いで行った。
この隙に泳ぎ出そうとしたが、サメはそれより早くに戻っていた。
どうにか良いタイミングで、泳ぎ出そうと魚を投げる方向や、一度に二匹、三匹投げてみたりした。
釣った魚もどんどん数を減らしてゆく、磯場も段々と沈んでゆく、あとちょっとで膝の上まで沈んでしまう。
源次郎万次郎は力の限り魚を沖方向に投げると同時に、大きく息を吸い込み海面に向かって身を投げ出した。
その日の夕方、那珂川の河口の辺りで、海から上がって来た一匹のサメが何かを咥えながら、さらに河をのぼり願入寺の辺りで見えなくなるのを、見た者がいたそうな。
源次郎万次郎磯 閑古路倫 @suntarazy
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