≪第1話のシナリオ≫
■場所:ホテル(夕方)
城谷香織(三十四)が、シャワーを浴びている。
額には痣があり、左手薬指には指輪をはめている。
■場所:ホテル(夕方)
香織が、髪の毛を乾かしている。
男の声「香織ちゃん」
香織の背後から、チャラ男が抱きついてくる。
男「今日もありがとね」
男は、香織の首筋の匂いを嗅ぐ。
男「これ、いつもの」
男は、香織に三万円を差し出す。
■場所:ホテル(夕方)
香織は、三万円を受け取ろうとする。が、男が意地悪をする。
男「また、頼むよ?」
香織「うん、わかった」
男「香織ちゃんは素直で可愛いな」
男は、香織の頬にキスをする。
■場所:ホテル(夕方)
男は、香織に手を振り部屋を出て行く。
扉が閉まり、香織は溜め息を漏らす。
時刻は四時過ぎ。
香織「夕食のお買い物に行かなくちゃ」
香織は、手に持った三万円を握りつぶして男にキスをされた箇所を手の甲で
拭く。
■場所:スーパー(夕方)
香織は、買い物をしている。
カゴの中には、商品がぎっしりと詰まっている。
香織「っあ、そうだ」
商品のほとんどには、半額・割引シールが貼られている。
■場所:スーパー(夕方)
お菓子コーナー。
香織は、女児向け食品玩具を手に取りくすりと笑う。
そして、それをカゴの中へ入れレジへと向う。
■場所:駐車場(夕方)
香織は、買った商品を車へと積み込んでいる。
女性の声「お嬢様」
香織は手を止め、辺りを見渡す。子供が道路へと歩いて行く姿を目撃する。
香織〈危ない〉
香織は、駆け出す。
■場所:道(夕方)
子供は道路の真ん中でしゃがみ込んで遊んでいる。
車が子供へと迫ってくる。
運転手は、スマフォの操作に夢中で気づいていない。
■場所:道(夕方)
香織は、子供へと駆け寄り子供を抱きかかえる。
次の瞬間、香織は車に轢かれてしまう。
■場所:香織の視点(夕方)
母親は泣きながら軽症の子供を抱きしめている。
香織〈あぁ、良かった〉
救急隊員たちが、香織に救命処置を施している。
香織の耳が遠くなっていく。
香織〈これで、私の人生は終わりかな〉
香織の視界がどんどん暗くなっていく。
香織〈それにしても、くだらなかったな〉
香織の視界は真っ暗になる。
■場所:アルトラン家:ナディアの部屋(朝)
ナディア・アルトラン(十七)が、ベッドで横になって眠っている。
サラサ「ナディアお嬢様、起きてください」
メイドのサラサが、ベッドの傍らに立っている。ナディアが目を覚ます。
サラサ「おはようございます」
サラサは、深々と頭を下げる。
ナディアは、上半身を起こして辺りを見渡す。
■場所:アルトラン家:ナディアの部屋(朝)
ナディアは、きょとんとした顔でサラサの顔を見つめる。
ナディア「あなたは、誰ですか?」
サラサ「おや、珍しい。寝ぼけているのですね。私の名前はサラサです。お忘
れですか?」
ナディア「サラサ、ちゃん?」
サラサは、きょとんとする。しかし、瞬時に我に返る。
サラサ「お嬢様、お戯れが過ぎます。早くしないと学園に遅刻してしまいます
よ?」
ナディアは、首を傾げる。
■場所:アルトラン家:ナディアの部屋(朝)
ナディアは、鏡の前に座らされ髪を梳かされている。
ナディア〈これは、夢なの?〉
ナディアは、鏡越しにサラサの顔を見つめる。
ナディア〈私は、死んだはず。此処は、天国なの。だったら、この子は天使?〉
ナディアは、自分の姿を見つめる。
ナディア〈鏡に映るこの可愛い子は私なの?〉
サラサ「では、お嬢様。着替えましょうか?」
サラサは、制服を持ってくる。
ナディアは、制服を見て頬を赤く染めていく。
■場所:アルトラン家:廊下(朝)
学生鞄を持ったサラサを先頭に、制服を着たナディアが恥じらいながら歩い
ている。
ナディア〈私、三十四なのに。この年で制服とか、罰ゲームじゃない〉
男性の声「やぁ、ナディア。おはよう」
ナディア「ひゃい」
ナディアは、盛大に驚く。
■場所:アルトラン家:廊下(朝)
コリーダ・アルトランが、執事のモラウス・ダリシュを連れナディアやサラ
サに近づいてくる。
ナディアはサラサの背中に隠れている。
サラサ「おはようございます。旦那様」
サラサは、コリーダに深々と頭を下げる。
ナディアは、警戒心丸出しでコリーダを睨み付けている。
コリーダ「どうかしたかい。私の顔に何かついているかな?」
サラサ「ナディアお嬢様。ご自分のお父上のお顔もお忘れですか?」
サラサは、ぼそりと呟く。
■場所:アルトラン家:廊下(朝)
コリーダは、首を傾げる。
ナディア〈この人が。私の?〉
コリーダは、柔和な笑みを浮かべてナディアの頭を撫でようと手を伸ばす。
ナディア〈殴られる〉
ナディアの脳裏にノイズが走る。
ナディアは、恐怖を感じて全身を強ばらせる。
■場所:アルトラン家:廊下(朝)
コリーダは、ナディアの頭を撫でる。
ナディア〈っえ、殴られない。そうか、この人は私の本当の父親じゃない〉
ナディアは、柔和な笑みを浮かべているコリーダの顔を見つめる。
コリーダ「おや、少し顔色が悪いみたいだね。モラウス、医者の手配を頼む」
モラウス「かしこまりました。旦那様」
ナディア〈ダメ。こんな優しい人を困らせてはいけない〉
ナディア「私は大丈夫です。お父様」
ナディアは、コリーダの腕を掴む。
■場所:ミスレア王国(朝)
大小様々な島が浮いている。
島には、様々な建物が建っており人々が暮らしている。
川や森、山まである。
島と島を空飛ぶ馬車や箒に跨がった者たちが行き来している。
■場所:空飛ぶ馬車:車内(朝)
ナディアは、窓の外に広がる光景に興奮が収まらない。
サラサ「お嬢様、はしたのうございます。おやめください」
ナディア「だって、凄いのだもの」
サラサ「まるで、子供ですね」
窓の外をペガサスに乗った騎士たちが通り過ぎていく。
ナディア「ねぇ、サラサちゃん。あれは、何?」
サラサは、騎士たちに手を振っているナディアの横顔を見つめ苦笑する。
■場所:空飛ぶ馬車:車内(朝)
サラサは、ナディアに対して笑ってしまった自分を恥じる。
サラサ「彼らは、この国を守る騎士団でございます」
ナディア「そっか。騎士団ね。かっこいいな」
サラサは、ナディアに何かを言おうとして口をつぐむ。
■場所:空飛ぶ馬車:車内(朝)
ベルの音が鳴る。
サラサ「学園に着いたみたいですね」
サラサは、ナディアの顔を見つめる。
ナディア「どうかした?」
サラサ「っい、いえ。行きましょう」
ナディア「うん」
ナディア〈学園か。どんなところだろう?〉
サラサは、馬車の扉を開ける。
■場所:モルダート学園:校門(朝)
ナディアが、サラサの後を追い馬車から降りる。
第三生徒会役員一同「おはようございます。アルトラン生徒会長」
第三生徒会役員一同が、ナディアを出迎える。
ナディアは、モルダート学園の立派な校舎に圧倒される。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
ナディアは、第三生徒会役員一同を引き連れて校内を歩いている。
教師や生徒たちは、ナディアの存在に気づくと恐れを成して逃げていく。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
窓の外では、生徒たちが魔法を操っている。
ナディア〈うわぁ、凄いな〉
ナディアは、窓から身を乗り出す。
サラサ「お嬢様、危のうございます。他の生徒が見ていますので」
ナディア「はい、ごめんなさい」
ナディア〈怒られちゃった〉
サラサは、溜め息を漏らす。しかし、どこか嬉しそう。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
生徒たちは色めきだつ。遠くから、第一生徒会役員一同がやって来る。
サラサ「こんな時に」
ナディア〈誰かしら?〉
サラサは、怪訝な表情で先頭を歩くリーシュ・イングルベルを見つめる。
側には、執事のジル・アラトスの姿もある。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
第三と第一生徒会役員一同は対峙する。
お互いの生徒会役員たちは、臨戦態勢。一触即発。リーシュが、制止する。
リーシュ「やぁ、第三の生徒会長であるナディア・アルトラン。そして、メイドの
サラサ。今日も良い天気だね」
リーシュは、キザっぽく挨拶をする。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
サラサは、舌打ちをする。ナディアは苦笑いを浮かべる。
ナディア〈うわぁ、何処にでもいるのね。こう言う人は〉
リーシュは生徒たちの人気者。あっという間に生徒たちに囲まれてしまう。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
リーシュは、生徒一人一人と会話を楽しんでいる。
ナディア〈でも、凄い人気者なのね。あんなに生徒たちから慕われて〉
ナディア「ねぇ、サラサちゃん。あの男の子は何者なの?」
サラサ「皇子です。ミスレア王国国王フィゼル・イングルベルの子である王位継承
権第三位のリーシュ・イングルベル。この学園では、第一生徒会長を務めていま
す」
サラサは、溜め息を吐く。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
ナディアは、リーシュを見つめる。
ナディア〈皇子って、王子様よね。私の想像していた王子様とはなんか違うな〉
リーシュは、ナディアにウィンクをする。ナディアは苦笑いを浮かべる。
サラサ「でも、所詮は王位継承権第三位。上の兄が二人死なない限り王にはなれな
い可哀想な人です」
ナディア〈まぁ、サラサちゃん。辛口なのね。あの男の子と何があったのかしら〉
ナディアは、女子生徒の一人と目が合う。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
悲しげな表情の女子生徒は、ナディアに背を向け何処かへ行ってしまう。
ナディア「待って」
ナディアは、女子生徒を追いかける。
サラサ「お嬢様、何処へ?」
サラサは、ナディアの後を追いかけようとする。が、生徒たちに行く手を阻
まれ見失ってしまう。
■場所:モルダート学園:校内(朝)
ナディアは、辺りを見渡している。
女子生徒「やっぱり、アルトラン生徒会長は皆が言うように恐い人じゃなかった」
ナディア「貴女、私に何か伝えたいことがない?」
女子生徒「はい、お願いがあります。私の友人を助けて下さい」
女子生徒は、泣き崩れる。ナディアは、ハンカチを取り出して女子生徒の顔
を拭く。
ナディア「ほら、涙を拭いて。可愛い顔が台無しよ?」
ナディアは、女子生徒に微笑む。
〈第1話 終了〉
子爵令嬢に転生した幸が薄い主婦(34)は、村人(17)と毎日をただ平和に暮らしたいだけなのに。 @meganecoking
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