文学フリマへの憧れ!

諏訪野 滋

文学フリマへの憧れ!

 同人。なんと深奥をくすぐられる言葉でしょうか。言葉の定義をちょっと調べてみましょう……「同じ趣味・志を持っている個人または団体」とあります。


 ちょっと昔語りをさせてくださいませ。私もご多分に漏れず、幼少期から漫画・アニメ・小説にどっぷりつかっておりまして。やはり類は友を呼ぶもので中高を通して同好の野郎数人で群がっては、漫画週刊誌を回し読みしたり、前日放送されたアニメについていっぱしの評論家気取りで議論を戦わせていたりしたものです。

 そのような、バンドをやっていたり近所の女子校と交歓会を開催していたようなまぶしい連中からはダンゴムシを見るような目で見られていた(ダンゴムシの名誉のために言うと、彼は陸の環境に適応できた数少ない等脚目です。凄いのです!)私たちアンダーグラウンドなボーイズの中に、ちょっとお家が裕福なN君がいました。彼の部屋には最新の高価なゲーム機やら大量のコミックやら雀卓・パチンコ台(!)などが所狭しとひしめいており、私にはそこがこの世の桃源郷のように思われました。寝っ転がりながらコントローラーを操作しているとN君のお母様が(なんとまあ、お若くて綺麗!)ほほ、と笑いながら「ジュースとお菓子でもどうぞ」と鉢に盛られたポテトチップスなどを差し出してくれ、怠惰な自分の申し訳なさとともにあまりの居心地の良さに、恩を感じなければいけないはずのN君に嫉妬を覚えるほどでした。彼の家が通学路の途中だったこともあり、私たちは彼の所に毎日入り浸っては、めいめい好きなことをしつつ、くだらないサブカルチャー談議に花を咲かせていたのでした。

 さて、定期テストも近いというのにいつものようにN君の家で遊び惚けていたある日。麻雀から一人あぶれた私は無遠慮にもN君の押し入れを何気なくあさっていると、頭上から雪崩のように落ちてきた大量の本に埋もれることと相成りました。身を起こしながら何だろう、と一冊手に取ってみると、私が大好きなアニメのヒロインのあられもない姿が、都合16ページの単色印刷刷りの中にこれでもかと凝縮されているではありませんか。え、なに、これ公式設定? そんなわけはありません、これが私の二次創作作品との出会いでした。うおぉ、とかじりついていると背後に気配。おそるおそる振り向くとそこには小太りのN君がいて、黒縁めがねをくいっと上げながらにやりと一言。

「好きなだけ持って帰り給え、諏訪野君」

 え、マジ、心の友よ! 無言でうなずいて無数の同人誌をさっそく選別しかけた私でしたが、ふと考えてみると自分の部屋にはこれを隠す場所がない……何しろ兄妹3人での共有部屋です、今でいうこのR18本が見つかってしまえば、私は社会的のみならず家庭的に死ぬ。私は途方にくれました。かといってこのお宝をここに置いてちょこちょこ読みに来たとして、流石の私もそれを彼らの面前で使度胸はない……ああごめんね〇〇ちゃん(アニメのヒロインです)、僕は君をよこしまな目で見てなんかいないんだよ、これはこの同人誌の作者の一存でやったことであって僕自身は決して……心の中で早口に謎の言い訳をしながら、結局私は肩を落としてすべての同人誌を押し入れに整理整頓し直したのでした。受験勉強で鍛えた記憶力をなめるんじゃねえ、脳内ストックで十分、と捨て台詞を残しながら……


 前置きが長くなりました。そんなわけで私は同人コミックというもの、ひいてはそこから同人なるものの存在を知ったのでした。周囲の仲間たちとの内輪話だけでは満足できなくなった私は、どうしたら遠隔の同好の士とコミュニケーションが取れるのだろう、と頭を悩ませました。当時、アニメを中心とした読者感想(いまでいうSSやお題をもとにした大喜利みたいなものでしょうか)、あるいは葉書イラストでの一次・二次創作の投稿作品を中心に構成されたアニメ雑誌がありまして(ファン〇ードって言うんですけれどね……年齢ィ……)、これぞ全国販売していた同人誌だったと今にして思います。それにかじりついて熟読しながら、自分も参加側になれたらなぁ……とひたすらため息をつく毎日でした。そんならお前も葉書送ればいいじゃん、という話ではありますが、願望だけは一人前の癖に送る度胸もなく……ヘタレと叱ってやってください……イラストもちょっと描いてみたりしたなぁ(遠い目)。

 そしてその中でコミックマーケット、いわゆるコミケなるものが開催されていると知りました。コミケが近づくにつれ、投稿者様たちが「ブースの抽選当たりました!」「新刊、準備してます!」「例によって印刷間に合わず、今年もコンビニでコピーです」などといった素敵な賑わいをみせるたびに、地方住みの私は身もだえするのでした。東京かぁ…N君みたいに年2回必ず参加するような経済的余裕ねえしなぁ…いやそれって言い訳じゃん、やる気あれば万難を排して這ってでも行くはず、恥ずかしがってんじゃねえよ……そう、私は確かに自分の趣味や性癖に対して恥ずかしいという意識を持っていたのでした。好きを好きと言えないチキン野郎、再びヘタレと笑ってください……


 そんな私も年齢だけはいい大人になり。漫画はやはりちょこちょこと読んではいましたが、小説に関してはほぼ読みをやめ。アニメも特定のシリーズはチェックしていましたが、以前のように片っ端から総なめするような情熱は失われ。

 それが何がどうとち狂ったか、小説を書き始めたりなんかしたんですよ。ええ、ええ、わかってますよ、仰りたいことは。ほんとはお前、R18イラストを描きたいんだろう? それが今更イラスト始める気合もなく、しかも描いてるところを家族に見られたら人生崩壊するってんで、泣く泣く百合小説なんかに手を染めちまったんだろう?(こちらも読まれたら社会的に死ぬ)

 それでもですね、小説書いてみるとこれが本当に楽しいんですね。おりしも世はネット時代。投稿サイトなるものがあって、そこではお互いの作品に対して感想を述べることが出来るときたもんです。功罪ありますが、ほんといい時代になりました。一つ不思議なことは、二次創作したいという気持ちが今のところないんですねこれが。多分、二次創作では満足できない身体になっちゃってるんじゃないかなあ……あと、自分で書くようになって創作の大変さを知り、大好きな原作に私ごときがおいそれと手を加えることがはばかられるようになったのかも知れません。俺成長したよ、見てくれてる〇〇ちゃん!(アニメのヒロインです)


 ようやく本題です(おいぃ……)。私も人生の先が見えて来て、いい加減ちっぽけなプライドを捨てる時が来たのだと悟りました。好きを好きと胸を張って世界に対峙する同人たちが集う、この世の桃源郷。そう、文学フリマに初めて行ってみようと思ったのです! 何を大げさな……ごもっともですが、何事も初めてというのはかように奥ゆかしいもの。何を着て行こうか、どのお店を回ろうか、時間スケジュールに破綻はないか、終わったらどこで食事しようか(戦利品を眺めてニヤニヤするためです)、もはや気分は初デートです! あ、そんなに引かないで……

 大体、ただのバイヤーの私が恥ずかしがってどうするのって話ですよ。売り子さんなんか、自分の妄想が100%詰まった本を自分の前において、泰然自若として山のごとく動かない不撓不屈のメンタルの持ち主なのですから(すいません、ほめてます)。

 ちょっと楽しみ方が全然わかっていないのですが、予習をした上でおめあてのブースに直行し買いあさる→自分の性癖に合致する本がないかどうか、目を皿のようにして徘徊する、の流れでOKですよね? 妖怪じゃん……

 その場でたまたま好みの本に出合う、これも良きですね。かつての書店はそのような出会いの場でした、何気なくふと手に取った本が生涯の付き合いになることはしばしば。皆さん、書店に行って本を買いましょう! あなたの街の書店がなくなる、これは我々が大好きな文芸にとって大変な危機であることは明らかです。そしてお気に入りの作者様の書籍、購入して応援しましょう! 小説家として生計を立てることが出来るという可能性を示すこと、それもたくさんの小説書きさんたちの立派なモチベーションの一つとなりますし、大好きな小説を末永く支える助けになると思うのです。持続可能な商業小説、SDGsです!(よくわかっていない)なんなら積ん読でもいい、ネトゲに課金するくらいならとにかく本を買え!(自分への戒め)


 最後はなんとなく社会派ぶった、いい風な話で締めてみました。文学フリマ福岡行きます、特に恋愛小説と百合小説の情報募集中です~。あ、SFと歴史も好きです! 雑食です! また文学フリマに関わらず、即売会の思い出や回り方のことなどお教えいただければ嬉しいです。

 とりとめのない話で申し訳ありませんでした。購入した本を見ればそいつの全てがわかる! の精神で突撃したいと思います。とりあえず、家での隠し場所だけは確保しておきましょうかね……

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