第14話 偽物と共に
「おかしいな……」
ヒロトたちにネズミの召喚獣を送ってから、すでに1時間以上が経過していた。通常ならとっくに合流できているはず──この沈黙は、あまりにも不自然だった
「もしかしてモンスターが現れたのか……!」
「ありえそうです。声は少し近くなった感じでしたから」
二人は来た道を引き返し、ヒロトとアルラーのいる場所へ帰ろうと歩き出した
「仮説が外れるなんて……」
「仕方ないさ。どれもこれもこの森がそうゆう風に妨害しているんだろう」
レオンの顔が、妙にはっきりとは見えなかった。ハンスも同じだ。まるで薄い靄でもかかっているように、輪郭が曖昧に揺らいでいる。そして不思議なことに、その違和感を意識した瞬間──思考がすっと霧散してしまうのだ
僕はひっそりとアルラーさんに話しかける
「アルラーさん、彼らってシェイプシフターの可能性は?」
「それはないと思うわ。シェイプシフター特有の目や血の匂いがしないもの」
「けど、なんか引っかかるんですよ……こう、なにか、言い表せれないですけど……」
「それは私にもあるわ。だけど敵って気配がしないのよ。なら今は信用はせずに少し後ろで観察しましょ」
そういうとアルラーは少し僕から距離を置いた。話を聞かれていないか心配だ……
「いない……いったいどこに……」
レオンとハンスはヒロトたちがいるはずだった野営地に到着していた。しかしそこにはヒロトたちの姿はなく、森の奥へと続く足跡が、はっきりと4つ
「もしかして、奥に進んでいった……?」
「ええ……しかもこの足跡、2つは私たちとまったく同じ靴跡です」
「……シェイプシフターか……?だがあいつらは、本来“存在しない人間”にしか化けられないはず……」
「……特殊個体かもしれないですね」
「シェイプシフターの特殊個体だと!?そんなの聞いたこともない!……だけど、今はその可能性が高すぎる……危険だが、僕らも奥に進もう」
そうしてレオンたちは森の奥へと足を運んで行った。足跡を追跡するように……
「そういえばレオン、ネズミの召喚獣はどうしたの?」
「ああ、進んでいるうちにいつの間にかいなくなっていたよ」
「そっかぁ……」
他愛もない会話。自然な受け答え。違和感を感じるのに”感じない”。そんな感覚を感じながら僕らは森の奥へとさらに進んでいった
「ねえレオン、魔法撃ってもいい?」
「いいけど、僕たちに被害のないようにね」
「はーい」
アルラーは軽く笑いながら、威力を抑えた魔法を数発放った。小石を飛ばし、火を灯し、氷を生成して木にぶつける。まるで気まぐれな遊びのように見えたが──
木の表面に張り付いた、水滴のような薄い膜。その中に、まるで誰かがなぞったような筆跡が浮かび上がっていた
『本物は──これを読んでいる“あなたたち”』
「……偽物がいると確定したな」
「そうですね。後ろからこっそりついて行って少しの間観察しましょう」
「そうだな、そうしよう」
なぜ彼らの偽物がいるのかは分からない。しかし、アルラーはそれを見抜いていた
玄関の扉を開けると異世界でした カルパス愛好家 @KARUPSU
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