第14話

「ああ、間違いなく死ぬ……。それに俺の好きな人を幼馴染に知られるの超恥ずいし」

「確かに、私も恥ずかしくて死ぬかもしれない」

 本当は優が片想いしている相手が誰なのか死ぬほど知りたかったけど、死なれたら困るし、我儘を言って嫌われたくなかったから大人ぶることにした。

「ちょっ、それ、どういうことだ!?」

 クールな性格の優が今まで見たことないぐらい狼狽えながら私のいる段まで下りてきた。頑張ってやっと二人並んで通れる狭い階段は、優が左隣に来たことで一気に窮屈になって、お互いの肘と肘がぶつかった。

 このままでは落ちてしまうかもしれないと高所恐怖症の私は身が竦んで慌てて一段下りた。それから心を落ち着かせるために階段の壁にもたれかかる。

「実は私も片想いしてる相手がいるの。だけどその人は鈍感で全然気づいてくれないの。……大馬鹿者なの」

 薄汚れた壁は冷んやりしていて気持ちよくて七月には嬉しいけどごつごつしていて少し痛い。

「へぇ……。本当に大馬鹿者だな。早く気づいてくれるといいな」

 うん、と頷きながら思わず優のことだよって大声で突っ込みたくなった。本当に鈍感すぎる、ここまで言っても気づかないなんて一生気づかないんじゃないかと心配になる。

「小さい頃から苦手なこととか嫌いな食べ物とか何でも教え合ってたけどさ、好きな人に関してだけはお互いに今まで秘密にしてきたもんね……。これからも秘密のままにしておこっか」

 自分が履いている深緑色のスリッパに視線を落としながら、私は独り言のように呟いた。でも、返事がなかなか返ってこなかったから私は一段上にいる優を見上げた。私の薄い眉とは対照的な濃くてきりっとした眉を寄せた優は苦しそうだ。いや、優が苦しそうになる理由が分からないし、日陰にいるから暗い表情をしているように見えただけで気のせいだろう。

「なぁ」

「なに?」

「……お前が俺に私を置いて消えないでって頼んできたこと、まだ覚えてるか?」

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消えちゃ駄目、幼馴染曰く共依存するのも駄目らしい。 虎島沙風(とらじまさふう) @hikari153

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