第13話

 朝課外が終わって、月曜日の今日は全校朝会があるから教室から最も遠い体育館まで移動する。

 別に急いでいないから、普段通り自分以外のクラスメイトが全員出るまで静かに待つ。みんな友達と楽しそうにお喋りしながら教室から出て行く。

 いいなぁ、と密かに嫉妬しながら電気を消して、教室から出て廊下を一人で歩く。前を見ても後ろを振り返っても誰もいないから孤独感が増す。

 恐らく四クラスの中で一年一組が一番朝課外の授業が終わるのが遅かったんだろう。

 自分が運動音痴であることは悲しいけど充分理解してるので、誤って階段を踏み外さないように一段一段ゆっくりと下りていると、

「灯莉!」

 後方から大好きな人の声が聞こえて喜びを感じながら笑顔で振り返る。

「優……。てっきりもう先に行ってると思ってた」

「行ってねぇよ。トイレ行ってたんだ。で、お前はまたいつものようにみんなが出るの待ってから最後に出たのか?」

「うんそうだよ。私、友達いないから」

 できるだけ感情を込めずに答えたけど傷つく。私、友達いないのかぁ……。

「いるだろ俺が」

「うん優だけ。クラスに女の子の友達いないから」

 悠花含む三人の友達とは全員クラスが分かれてしまった。昼休みや放課後は遊びに行ってお喋りしているけど、クラスが違うと今日みたいに終わる時間も違うし一緒に移動することがなかなか難しいのだ。

「やっぱり、移動する時一人だと寂しいしこれからは必ず一緒に移動するようにしようぜ」

「ありがと。でも私は一人でも平気だよ。何度も言ってるでしょ? 私に気を遣わなくても大丈夫だって。優は瀧山たきやまくんと中澤なかざわくん、クラスに二人も友達いるんだし私のことは心配しなくていいから二人と一緒に移動しなよ。優は私にいっぱい話しかけてくれるし問題ナッシングだよ。それより、瀧山くんたちと一緒に行かなくてもよかったの? 二人共友達と一緒に体育館に向かってったよ」

「友達、ねぇ……。俺は友達二人に当然のように置いて行かれたわけだが。結聖ゆうせいには何も言ってないからしょうがないけどもう一人にはすぐ終わるから待ってて欲しいって頼んだのに……、」

 覚えてろよ。せっかち天翔。優は露骨に不機嫌そうな表情と声で呟いた。もしかして地雷を踏みつけてしまったのだろうか。そうだとしたら申し訳ないから早く話題を変えよう。でも何がいいかなと悩んでいると、

「あっ天翔のことが好きな人だー!」

 優がいきなり棒読み口調でそう言った。意味が分からなくて首を傾げると、「天翔のことが好きな人」と今度はにこにこ笑いながら私の顔を指差す。

「こら、人を指差したらいけません!」

 別に怒っていないけれど先生のようにぴしゃりと注意する。

「悪い……」

 そしたら優は反省している生徒のようにしょんぼりと俯いて、表情が一変したことに動揺した私は口が半開きになった。その間に優が頭を軽く掻きながら、

「後、言い間違えた……。天翔がお前のことを好きなんだってよ」

 なるほどそういうことか、と納得したけどもう二度と言い間違えないで欲しい。私が優以外の人間を好きになるなんてあり得ないから。

「ふーん……。何でそれをわざわざ優が私に伝えるわけ?」

 それよりも、それを知った優がやきもちを焼かなかったのかどうかの方が気になったけれど、その質問をすると私が優に抱いている気持ちが確実にバレるからやめた。

「……脈ありかどうか確かめて欲しいって天翔から頼まれたからだよ。さっきの言葉でお前の反応を見て、それをそのまま天翔に伝えるつもりだったんだ。険しい顔してたけど嬉しかったか?」

「ううん嬉しくない……。優も本当は嫌だったけどいつもお世話になってるから断れなくて仕方なく頼みを聞いたの?」

 優は一瞬目を丸くした後に「ああ」と俯きながら頷いた。

「何で分かったんだ? 本当はやりたくなかった。脈ありかどうか確かめるなんて……」

「だって優も険しい顔っていうか、しょんぼりした顔してるし本当は嫌だったのかなぁって思って……。どうしてやりたくなかったの?」

 再び尋ねると優は、困っているような、焦っているような表情で「それは……、」と目を逸らした。

「人の恋を応援してる暇なんてないからだよ

。……お前には言ってなかったけど、ずっと片想いしてる相手がいるんだ」

 息を呑むほど驚いて、そのまま青ざめて倒れそうになるのを二本足に力を入れて何とか立つ。

「誰!?」

「教えない」

「何で!?」

「教えたら死ぬから……」

「死ぬの!?」

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