* * * * *


 はっと目を開けた。

 何の変哲も無い自分の部屋の天井であることを確かめ、何度か重たい瞬きを繰り返し、目元を片手で覆う。

 大きく息を吸って吐いてから、肘をついて今にも軋んだ音を鳴らしそうな身体を起こした。

 まだ夢の感覚が拭えず、取り敢えず自分の部屋を見回す。

 さっきまで目の前にしていたはずの炎も、恐ろしい目も、手も、ない。掴まれたと感じた腕を目の前に出してしげしげと眺めまわしたが、掴まれた感覚を残しただけで跡も何もなかった。

 寝る前と同じ、いつも通りの慣れ親しんだ自分の部屋だと分かり、再び大きく息をつく。

 頭痛がひどく、しばらく頭を抱え込むようにして深い呼吸を繰り返した。

 まるで酷い風邪を拗らせたかのように、喉はからからに乾き、頭から首にかけては大量の汗をかいて枕を濡らしてしまっている。

 来ていたシャツもあまりの湿気で気持ち悪い。

 ベッドの頭下にある直方体のデジタル時計を手に取り、今が午前4時すぎであることを知った。

 当然の如く、窓を見やってもまだ陽の光はない。


「なんだ……あの夢……」


 眉間を抑え、呻くような独り言を零した。まだ息は荒い。頭痛も止まない。

 一人しかいないこの部屋で、答えをくれる人は勿論の事ながらいなかった。


 恐ろしいほどに鮮明な夢だ。

 夢と言うものは、起きればほとんどが消え失せてなくなってしまうというのに、こんな夢に限って目が覚めた今でもはっきりと思い出せる。

 こんな夢を見るようになったのはいつからだっただろう。

 夢はまるで物語を綴るかのように徐々に進行しながら、今ではあの燃え盛る毒々しい炎の色を俺に見せつけるようになった。

 昔から夢とは思えない夢を見ていたが、ここまで生々しいものではなかった。


 ──疲れた。


 休むために寝ているのに、寝ても疲れるというのはどういうことだ。

 とにかく水が飲みたくて、ベッドから立ち上がり、水道の方へ向かう。洗わず無雑作に置いてあるコップをひとつ取ってシンクで軽く濯いでから、水を浴びるように飲んだ。

 眠れば夢を見る。

 見るたびにこうして疲れる。寝ている気がしない。

 また同じような夢を見ると思うと寝たいとは思えず、窓を開けた。

 冬の風が吹き込んで、肌に滑った汗を瞬時に冷やしていく。街が暗いせいで、目を見張るほどの星々が瞬いていた。


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記憶に君を。 ~悠久なる君へ 外伝~ 雛子 @hinako0424

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