悠久なる君へ~3300年の記憶~

作者 雛子

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★★★ Excellent!!!

 古代エジプトに関して私達は知っていることといえば、ギザの三大ピラミッド、パピルス、神聖文字、民衆文字、イクナートンの宗教改革、アマルナ美術、ツタンカーメン、ラムセス2世、カデシュの戦い等を教科書などで学ぶだけで、その行間からはあまり歴史の躍動を感じることはできなかった。あの話題性に富んだツタンカーメンですらその死の原因のみが論じられることが多く、私達はエジプトの生活を、文化を想像することが難しかったのだ。古代エジプトの、そのナイルの河畔に立って風景を眺めてみたい、その空気を吸ってみたい、町の様子を、ファラオの生活を知りたいと思う人は多いはずだ。本作は読者のその欲求を十二分に満たしてくれるだろう。
 本作『悠久なる君へ~3300年の記憶~』は3300年前のエジプト新王国時代、第18王朝期の話である。宗教改革後の混乱期をファラオのトゥト・アンク・アテンはその手腕によって収めていくことになる。アンクは黄金の光と共に復活したアンケセナーメン、もとい弘子と共に行動することになる。私達は弘子の視点によって当時のエジプトのファラオとそれに連なる者の生活、そして民衆の生活を知ることができるのだ。そしてアンクを、我々がよく知るファラオの名前ではなく、時代に沿ってトゥト・アンク・アテン(後にアムン)、アテンの生ける現身として描写しているのも、運命に抗う一個人としてのファラオとして、偏見を排してこの物語をみることができるのだ。アテン神からアムン=ラーの信仰を復活させた時に弘子に告げるその名は、私達に彼の新たなファラオ像を創り出してくれる。
 また、弘子を探す父と母、兄替わりの男性と、友人側の物語も印象深い。大切な人を探して現代のエジプトの遺跡を巡る描写は、弘子視点で古代の描写に切り替わった時のスパイスとなっている。そして、アンクが大切な人を呼んだように、現代の人たちもまた弘子を呼ぶ。3300… 続きを読む