第26話 もしかして……
「今日はすごいもん見たなぁ……」
お風呂に入りながら俺はぽつりと呟く。すごいもん……それは休み時間に見たちぐはぐな印象を抱いていたゆるふわ系美少女こと田原早紀さんの事である。
「あれ……どっちが素なんだ……?」
初めて会った時は凄い丁寧……というかちょっと引くくらい丁寧な喋り方をしていた田原さんだったのだが、彼女の友達が現れるとその態度が一転し見た目相応な口調になったのだ。陰キャである俺よりも低い姿勢を取っていたのに凄まじい速度で俺を置き去りにして行った時は危うく口が開いたまま閉じなくなるところでした。
「流石に丁寧な方が素か……?いや俺が話しやすいように合わせてくれてた可能性もない訳じゃないか」
もしかしたら田原さんがめちゃくちゃ優しくて、常人じゃ出来ない程の気遣いが出来る人であれば陽キャの性格が素なのかもしれない。ただもし陽キャの性格が素だった場合俺はもうおそらく田原さんと話す事は無くなるだろう、あまりにも住む世界が違い過ぎる。
「というか同じクラスじゃないからそんなに話す機会ないか。考えるだけ無駄だったな」
田原さんがクラスメイトであれば気まずさと共に頭を悩ませる必要があっただろうが、彼女は別クラスの生徒だ。どこかで顔を合わせることはあるかもしれないが必要以上に喋ることはきっとないだろう。夏目悠は考えるのをやめた……というかそろそろのぼせそうだから風呂上がろ。
お風呂から上がった俺は少しのんびりとした後VRTの世界に入る。ここ最近はとりあえずVRTやろうと体が自然に動くようになっている。少し前の自分からは全く想像もできない行動に俺は改めて恐怖を感じる。VRTの沼って怖いなぁ……。
「さてと……どうしよっかなぁ……」
現在の時刻は21時半、睡眠時間を削れば4時間弱自由な時間がある。しかしここで重要なのは自由な時間があるだけで何をするか全く決めていないし、何かをするためのフレンドがほとんどいないという事なのである。
マル、ヒナ、タチと仲の良いフレンドさんはいるが自ら声を掛けに行くのは少し気が引ける。前までは気にすることなくマルを連行することが出来ていたのだが流石にヒナと苺であることを知れば話は変わる。タチを遊びに誘うのは……まだちょっと個人的にはハードル高いのです。
「まぁ今日は適当にワールド巡りでもしよっかなぁ……って通知だーあぁ!?」
ピコンという通知が届き、メニュー画面を開いた俺に衝撃的な光景が飛び込んでくる。「木更波多さんが招待を送りました!」という文字列がずらりと並んでいたのである。やだ……こわい……。
もしかしたらSOSのサインなのかもしれない、そう思った俺は何も考えず木更さんのいるワールドへと入ることにした。しかし俺の予想とは裏腹に待っていたのは以前も木更さんがポータルを開いてくれたピンク色のワールドだった。
『こんばんは!』
そしてワールドに入ってすぐ、木更さんは俺の目の前にやって来て素早く文字を書きこちらに手を振ってくる。
「こ、こんばんはー」
至って普通に振舞う木更さんを見て俺の頭は混乱し、心は動揺する。SOSというわけでもなければあのインバイト連打は……?
『ナツさんがログインしてたのでつい声を掛けてしまいました!ご迷惑ではありませんでしたか…?』
「あー、うん。今日は特に何かしようとか決めてなかったから全然迷惑じゃないですよ。むしろ誘ってくれてありがとうございます木更さん」
どうやらただ遊びの誘いだったらしい。あれか、ピンポン連打するみたいな感覚だったのかな?出来ればリアル同様インバイトは一回までにして欲しいかなって。普通に怖いから。
『こちらこそ来てくれてありがとうございます!』
「いえいえ、どうしますか?どこかゲームワールドとか探しますか?」
『もし嫌じゃなかったら今日はゆっくりお話ししませんか?』
「もちろん良いですよ」
『やった!ありがとうございます!』
その後俺と木更さんはVRTの事や互いの好きな物や他愛もない事を話し、楽しい時間を過ごした。
ここまでは良かった。ここまではとても健全なVRTライフを送れているし、木更さんとも仲良くできてうれしいなという気持ちがあった。
しかし翌日の事である。今日も元気にVRTをしようと思いログインしたその時のことである。ピコンという電子音と共に画面に映し出されたのは「木更波多さんから招待が届きました」の文字。そして昨日同様通知欄を埋め尽くすほどの大量のインバイト。
一応確認のためにワールドに入るも、落ち着いた雰囲気のワールドに木更さんが一人佇んでいるだけ。
毎回俺がログインするたびにインバイトが飛んでくるのは何かの気のせいだろう、そう思いながら翌々日もVRTを起動するも即インバイトが飛んでくる。
言葉を選ばずに言うのであればめちゃくちゃ怖い。も、もしかしてだけど俺……やばい人とフレンドになっちゃったのでは……?
現実(リアル)とVRの差がすごい! ちは @otyaoishi5959
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。現実(リアル)とVRの差がすごい!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます