第25話 すごいの見た
「おはようナツ」
「おはようマル、そして朝から肩を思いきり叩くのはやめておいた方が良いと思うぞ」
学校の中で比較的居心地が良い自分の席にて俺はいつもの如くうつ伏せになっていた。まだ眠気が頭を元気に駆け回る中、突如として俺の両肩に衝撃が走る。顔を上げるとそこにはへらへらと笑いながらこちらを見つめるマルの顔があった。
「まぁまぁ…ちなみに俺の言いたいこと、分かるよな?」
「その姿勢はやめろって?」
「違う……正確に言うと違ってはないが違う」
「じゃあ一体何を言いたいんだい丸山君は」
「ミステリー系のドラマには絶対いる口調の奴になるな、そういう口調の奴大体役に立たないからな?」
なんて失礼なことを言うんだ……いやまぁ大体こういう奴は噛ませ犬的な立ち位置にいるけどね?中には有能な奴がいるかもしれないじゃん。
「昨日俺の言ったこと、忘れたとは言わせんぞ。パブリック行ってフレンド作って来たか?」
「あぁそのことか」
「どうせ行ってないだろお前」
「ふっふっふ……あまり俺を甘く見るんじゃあない」
「まさか……」
「そのまさかだ、なんとパブリックに行ってフレンドを作って来たぞ……一人だけど」
そう、昨日俺はマルに言われた通りちゃーんとパブリックに行きフレンドを作った。まぁ出会い方自体は最悪だし、今後木更さんとの関係が続くかどうかは分からないが一応フレンドは出来た。
「嘘ついてるって訳じゃないもんな?」
「嘘つく必要がどこにあるんだよ」
「いやほら、ナツのことだしとりあえずパブリックには行ったけどフレンド出来なかったみたいな可能性があるじゃん」
「それは……否定できないけど今回はちゃんとフレンド出来たから」
「そうか……じゃあ今日はお赤飯にする?」
「遠慮しとく」
「ふぅ……あともう少しで帰れる」
お手洗いを済ませ、濡れた手をハンカチで拭きながら廊下に出た俺は大きく息を吐く。今日の授業も後半に差し掛かり、あと一つの授業を受けたら帰れる時間になった。しかしラスボスと言わんばかりに立ち塞がるのは数学の二文字。
どうして最後の最後に数学を持ってきたのか先生達と軽く討論したくなったが、「どうせ先生の都合です」という最強のカードを切られて負ける未来が見えたため、ため息を吐くことで嫌な気持ちをほんの少しでも発散させる。
「まぁ最後の授業だしほんの少し気合入れるかぁ……」
「あっ昨日の!」
「ん?……あ、どうも」
教室へ戻ろうとした矢先、俺の目の前から見覚えのある人物が歩いてくる。ゆるふわなミルクティー色の髪、校則を破らない程度に改良を施した制服。昨日「親方、空から女の子が!」してきた女子生徒だ。
「き、昨日はどうもありがとうございました。私1年4組の田原早紀って言います」
「1年6組の夏目悠って言います、昨日のことは全然気にしないでください」
「っ……ナツ…めくん……」
「ん?どうかしました?」
一瞬俺の名前を呼んでニヤリとしたように見えたが……気のせいか……?
「い、いえなんでもないです!!それと夏目君が居なかったら私大怪我してたかもしれないので本当に助かりました。改めてありがとうございました。」
昨日同様に彼女の見た目からは想像もつかないような丁寧な言動に俺は違和感を覚える。この見た目から繰り出されるたどたどしさを感じさせる喋り方に頭が混乱しそうになる。
「あの夏目君、もしよかったら──────」
「早紀~私を置いてくなんてひどくな~い?」
「あっ、桃香ごめ~ん。寝てたから起こさない方が良いかなって思っちった~」
「っ!?!?」
桃香と呼ばれた茶髪の女の子が後ろから田原さんにしなだれかかる。すると何という事でしょう、先ほどまでとても丁寧さと陰キャ臭のした話し方から一転、彼女の見た目相応のゆるふわな喋り方をしたのである。
「そこは私を囁き声で起こしてよー」
「囁き声じゃ桃香起きないでしょ~」
「起きるかもしんないじゃん?それとそこにいる男の子誰?」
「昨日ノート運ぶの手伝ってくれたんだ~。だから改めて感謝感謝してた」
「そっか~うちの早紀がお世話になりました~」
「あ、はい……どうも」
……今目の前で起こった出来事に俺の頭が追い付いていない。数学の授業はまだ始まってすらいないというのに難問を解いた後みたいな疲労感が頭を襲ってくる。もう次の時間寝てよろしいか?
「てことでじゃあね~夏目君」
「はい、それじゃあまた」
「てか次の授業だるくね~」
「まじそれな~」
「……すごいもん見たな」
嵐の様に過ぎ去っていった二人を見た俺は誰もいない廊下でぽつりと呟いた。
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