第2回 雨濡れという物語の構造~第4話からの始まり
いよいよ物語の剖検となるわけですが、この作品は前述の通りかなりの実験作でもありました。
短編の読みやすさに長編の連続性を添える、というコンセプトにある通り、基本的にはどこから読んでも一応の理解はできるような作りになっている……つもりであります。
実はこの作品、物語の公開順序にも一捻り加えてあって、4、7、2、6、1、5、3話の順番で公開されました。
人間の持つ記憶の不可逆性というものを逆手に取り、どこから読むかという選択により読者それぞれで物語の明らかになる部分が違うという、かなりひねった構成になっておりました。
そのため、基本的にはどこから読んでも一応の物語の内容はわかるような作りになております。そのせいで、物語の筋道がイマイチわかりにくいという副作用も出ていたような気がします。
因みに、カクヨムの仕様上、リストの一番下の作品の更新でないとフォロアー様の『新着通知』に反映されないそうです。
即ち、7話を2番めに掲載したため、以降の1、2、3、5、6話の掲載、更新が全く通知されないという……本末転倒な結果に終わりましたw
えらく凝った投稿の仕方をしているのに誰も見ていないという、観客不在のひとり小芝居のような、誠に寂しい結果に終わりました。
最初に投稿された第4話。
絵描きの「音取」という男の自分語りから物語はスタートします。
実は、この時点では彼は一話限りのゲスト出演のつもりだったのですが、書いているうちにすごく愛着が湧いてしまって、レギュラー扱いのようなキャラにしてしまいました。彼の感性は私によく似たところがあって、書いていて非常に楽しい人物です。
物語のテーマの一つに『中年たちの青春』というものがあります。
ラブコメ、恋愛物というと、大多数が若い男女(学園モノなど)の瑞々しい心情か、中年の不倫モノのような少し粘度の高い物語が多いと思います。
実際、読み手の年齢層がどのあたりなのかはわかりませんが、前述の大多数の作品は最も割合の多い部分にフォーカスしていることは言うまでもありません。
今回の物語では、敢えてそこを外して『中年の純情、瑞々しさ』という、人によっては嫌悪しそうな要素を採用しました。(このあたりで既にメインストリームからは大幅に外れているw)
主要人物である『天護いなさ』は、未亡人であり既に36歳。物語の
ちょっと話はそれますけど、未亡人ものの開祖であり恋愛マンガの金字塔『めぞん一刻』(多分知らない人はいないと思います)
連載開始時の年齡は、たしか五代裕作20歳、音無響子22歳……だったはず。
これだけ見れば相当に若い人たちのドラマです。
しかし、最終話……ここでの年齡は明確に触れられていませんが、恋敵「三鷹瞬」との「管理人さん」をめぐる終盤でのプロポーズ攻勢の時に出てきた年齡は、音無響子29歳、三鷹瞬31歳である。必然的に五代裕作は27歳、ということになろうが……彼ら彼女らは「もう、大年増ですわ」と言っているのである。
現代感覚からすれば、ずいぶんな上方遷移であるが流石に30で大年増は言い過ぎではなかろうか……という想いが、今の私にはあります。(この辺、一般のひとたちからすると、どうなんでしょうね?)
出産適齢期など勘案すると、
正直な所、分別のない若い頃に見つけた相手など、間違いだらけで然るべきなのです(暴論)。こんなはずじゃなかった、などといわれますが、「こんなはず」なんてあるわけがないのです。ある程度失敗を重ねて、真に見るべき部分は何なのか、自分の見る目が成長しない限り同じ失敗は何度でも繰り返します。
個人的な見解ですが、現代日本の世相において20代で将来に渡っての最適なパートナーなんて見つけられるわけがないと思うのです。離婚不倫未婚がこれだけ多いというのは、人を見る目が低下しているのに結構適齢期などという本質のない言葉に踊らされ同調圧力に煽られてとりあえず結婚した、というのが実態なのではないでしょうか。
はっきり言って、そんな相手と子育てをするというところまで真剣に考えて結婚する人間がどれだけいるのか疑問です。
経済と子育て、社会を担う役割、というのを家族という極めて個人的な単位に一任するというのは現代において既に破綻しているのではないかとも思うのです。
これについての作者なりの一つのアンサーは、拙作『F.D.外伝・自警団第四分団飛行隊~ゆめうつつ~』にて語られております。(隙あらば宣伝を挟んでいくスタイル)
子供を育てる、というテーマは私には重いですし、実体験のない私が語る資格があるのかという問題もあります。現代人は、言っている内容よりも「誰が言っているか」の方を重要視します。私が言ったところで屁の突っ張りにもならんのでしょう。
今作においては、お互いを尊重し、結果社会に貢献しうるパートナーというものをひとつ目安として、そのためのきちんとした相手を見つけるという部分に限定して男女関係を構築するつもりで書き始めました。
若干のネタバレになりますが、今後も主要メンバーの出産や子供に関する記述は出る予定がありません。
話を「音取和志」に戻しましょう。
この時点では、彼は名前も決まっていませんでした。ゲストなので当然ですね。
しかし、人物像的にはかなりの部分が固まっているキャラでもありました。
若い時には会社勤めをしていたのですが、その環境や生き方に馴染めず、若い頃から好きだった絵画の世界に生きる決意をした、という背景を持つ男です。
完全なネタバレになりますが、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ネタバレなので読み飛ばしてください ◆◆◆◆◆◆◆◆
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彼は、一種のサヴァン症候群のような「能力」を持つ人物です。
ただし、専門家の診断としてそのような分類をされているわけではなく、そう言った傾向が見られる、程度のものです。
一般的に、サヴァンの能力を持つものは、スーパーカレンダー能力やフラッシュ記憶といった、常人離れした能力を持つ代わりに社会性に乏しく、共感力が欠如していたり、一般的な生活能力が弱かったりする傾向が見られます。
しかし、これらの症状は所謂、「中央値」を見た場合に顕著に見られるものであり、実際には、これに類似する症状がもっと広範囲に分布し、能力の優秀さも、苦手な部分も千差万別で程度問題でもあるのです。
程度が少なければ、それは「記憶力のいい人」「得意分野のある人」止まりで、特別な呼び名は付けられないことでしょう。
ですが、社会では他人を差別する際の「言い訳」を必要とします。
あいつは◯◯だから▢▢、といったレッテル貼りに都合のいいような「名称」を付けることに安心感を覚えます。また、社会的援助をするための線引も必要となります。
彼の場合は、生活力が低いけれど、絵を描く能力に秀でている(具体的には一度見た景色を写真のように記憶し完璧に再現する能力、となります。ただし、彼は人物の顔までも景色として捉えてしまい、結果、人間と風景の判別が苦手という特徴があります)という身体所見がみられます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ネタバレここまで ◆◆◆◆◆◆◆◆
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彼は、一般人のどういう行動が好感を持たれ、どういう行動が不快なのか、そのあたりの線引が苦手なために、他人とあまり関わらずに生きてきました。人を覚えられないために会社勤めが上手く行かなかったのですね。彼は、自らの欠点を天性のものと受け入れ、風景を愛しそこから生じる感情を共有できる人間を、初めて「他者」として判別すると云うプロセスを経て世界を認識しています。
『異邦人』のメンバーと自然に話せているのは、店内で和やかに話す彼らのいる空間にやすらぎを覚え、それを構成しているのは何なのか、という分解と再構築を果たせたために「普通」に接することが出来ているのです。
実は、音取が風景を見に海辺を歩いていたところを自殺者と間違えられて永峰に声をかけられた、というところが初の出会いだったりします。
この時、風景を見ていたんですよ、と答えた彼に永峰は具体的に何を、と尋ねた所
「天気の変わり目を見るのが好きなんです。慣れてくると天気予報が要らなくなるんですよ。毎日見てると、その精度が上がってくるんです」
「へぇ……? わかるもんなのか?」
「はい。こんな感じの鰯雲が出ると、天気が崩れる前触れですね。2日後くらいに雨が降るんじゃないでしょうか」
「はー、そりゃいい。外を歩くのが楽しくなるな」
と、永峰が心から愉快そうに言ったのが彼の琴線に触れ、永峰という人物に興味を持ち得た、という裏設定があります。
物語の見どころとしては、「いつもの」とオーダーできるお店というものへのあこがれ的なものを表現する、その入口としての導入を描こうというイメージで考えました。
事実、この後の物語では彼が『まかない珈琲』と呼んでいる150円の従業員用珈琲を提供される間柄になるという描写がされています。
いろんな人が行き交う『異邦人』という場の象徴とも言える人物を最初の提示として選んだ、というのがこの第4話のテーマだと思っているのですが、いかがでしょうか。
雨濡れの気象予報士~君の明日の剖検 天川 @amakawa808
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