第2話
シャンティの夫であるユンイェは空を仰いだ。
シャンティが倒れてから彼なりに調べてみた。まずは近隣の国々の神々に聞いて回ったり自身で実際に呪詛の痕跡がないか探ったりもした。するとある事がわかる。それはどうやらギリシャという遠方の女神が呪っているらしいという事だった。
部下に探らせるとシャーンという女神だともわかる。ユンイェは呪詛返しができないかを父やそういった事に詳しい神に訊いた。するとある神が教えてくれる。
「……遠方ですので難しくはありますが。呪詛返しはできると思いますよ」
「……そうか。なら今すぐにでもやっていただけないか?」
「わかりました。やってみましょう」
神――インドの神であるヴィシュヌは頷く。また、三日は待ってほしいとヴィシュヌは言って屋敷を去っていった。
その後、ヴィシュヌは三日の時間をかけて呪詛返しを行う。ギリシャの女神はなかなかに力の強い相手だ。これは高位の神とみた。
仕方なく自身の力のありったけを使う。そうしたら女神の呪詛の気配は途切れた。代わりにヴィシュヌは霊力の使い過ぎで倒れてしまったのだった。
あれからヴィシュヌは回復したが。シャンティの病状は良くなっていなかった。どうやら、解呪もしないといけないらしい。ユンイェは近くにいるようにした上で自身の気を彼女に少しずつ分けた。するとシャンティの体調は日に日に回復していく。
「……シャンティ。今日は元気そうだな」
「ああ。ユンのおかげだ」
「無理はするなよ。まだ体調は本調子ではないんだからな」
「わかった。すまんな」
「シャンティ。何か食べたい物はないか?」
ユンイェが訊くとシャンティは少し考えてから答えた。
「……杏が食べたい」
「わかった。杏だな」
ユンイェは頷くと厨房まで行って取りに向かった。小刀や皿なども両手に持ちながらだが。シャンティの部屋まで戻ると寝台の横の机にそれらを置く。椅子に掛けて小刀を持ち、桃の一つを取る。切れ目を入れてから縦向きに皮を剥いた。意外と慣れた手つきで桃を切り分けていく。六等分くらいにすると皿に盛り付け、竹串に刺した。
「……ほら。桃を剥いたから。食べてみてくれ」
「ありがとう。いただくよ」
シャンティは竹串を受け取る。そして桃を口元に持って行き、齧り付く。ジュワッと果汁が口内に溢れた。甘みと少しの酸味が良くてあっさりともしている。これなら食べやすい。そう思いながら噛みしめた。シャンティは桃を一つ食べると竹串を返す。
「少しは食べられたな。もう一つはどうだ?」
「……くれないか」
「わかった。ちょっと待ってくれ」
ユンイェはもう一つを竹串に刺して手渡した。シャンティはこの後、桃を丸々一つ分を食べきった。
意外と食欲はあるらしいシャンティだったが。それでも予断を許さない。ユンイェは毎日、食べたい物やしてほしい事を訊いた。シャンティはそのたびに彼ができそうな事を言ってくれる。こうして二人の時間はゆっくりと流れていくのだった。
龍王語り〜半陰陽の妃〜 入江 涼子 @irie05
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