第42話
その手にせめて触れることができれば、彼女のその強すぎる想いを少しは受け止めることができたかもしれない。
レティシアの気持ちに、俺はどう答えればいいのだろうか?
三人の勇者たち。……皆と一緒に、楽しく仲良く旅をしてきた。
途中、まあ多少は喧嘩をしつつも、俺たちはずっと一緒に行動してきて……家族のように思えていた。
しっかりしているような抜けているようなレティシア。
甘えん坊なところがあるが、三人の中だと一番冷静なリアンナ。
基本ぽんこつだけと誰に対しても優しいフェリス。
……俺はそんな三人に対して恋心というよりは親目線で見ていた部分が大きかった。
「レティシアたちのことは……俺は家族のように思っていた」
「つまりそれはもう、結婚してるってこと……?」
「そういう意味じゃない。……年齢差もあったし、娘みたいなものだと思って、大事に旅をしてきたんだ。……だから、異性としてそもそも見ていなかったんだ」
「人の着替えみて反応してたじゃない」
「うるせぇ、そこは生物的に仕方なかったの!」
……そりゃあ、たまに異性として意識してしまう時はあったけどさ!
今はそういう意味での言い方をしているわけじゃない。
「……まあ、そういうわけでな。俺はまだ、レティシアたちのことを異性として見られてない。でも、それも含めて、どうにかお互いにまた会えるようになってから、考えていくっていうのはどうだ?」
俺の問いかけに、レティシアは一度こちらを見てから、微笑を浮かべた。
「……そうね」
……良かった。彼女が笑顔を浮かべてくれた。
俺は安堵の息を漏らしながら、彼女へと視線をやる。
ちゃんと、話し合って良かった。色々と不安だったけど、レティシアは十分まともだ。
「それじゃあ、俺は一度戻るよ。じゃあな」
「……ええ、そうね」
レティシアは微笑を浮かべ、俺は自分の魂を一度日本の体へと戻そうとした時だった。
……体が、何かに弾かれた。
……これは、結界か?
いつの間に、こんな高レベルの結界が。……というか、たぶん、今の魂だけの俺だと感知能力なども減っているようだ。
「効いたみたいね」
「……レティシア?」
「……次、またいつ会えるのか分からないわよね?」
「そうだけど……」
「だから、あたしは考えたのよ。……あんたの魂を、こっちの体に入れてあげればいいんじゃないかって」
あれ? なんか嫌な予感するんですけど?
「どういう、ことだ?」
「前に、幽霊屋敷のレイス捕獲をしたことあったでしょ?」
「……あったな。レティシアがビビりまくってた」
「あんたもね? あの時に結界魔法を使って、レイスが外に出られないように閉じ込めたでしょ? 今、ここに同じ結界を張って見たのよ」
「そしたら?」
「大成功」
ですよねー。
今の俺はつまり幽霊と同じような存在ということなんだろう。
「その時、レイスたちを逃がさないように捕獲して近くのぬいぐるみとかに封印したわよね?」
「……そうだな」
「そういうわけで、あんた、どれがいい?」
彼女がそう言って差し出してきたのは、部屋に飾られていたくまのぬいぐるみ三つ。
なんだろうか。とてもとても、嫌な予感がする。
「……いや、あのな? 俺は」
「だーめ。……逃がさないから。もうシュウジがどこにも行かないように、あたしが守って、見守ってあげるんだから。……じゃあ、このぬいぐるみにしてあげるわね」
その瞬間、レティシアが魔法を発動させた。俺が干渉していた精神だけの状態だったため、あっという間に魔法の檻に捕らえられた。
抵抗しようとしたのだが、今の状態だとどうにも本来の力が出せず、そのままぬいぐるみに魂が入ってしまった。
「な、何をするんだ!?」
「とりあえず……器に入っていなさい」
レティシアが呟くと、俺の精神がどこかに飛ばされ、気づいたときには小さな人形の体に閉じ込められていた。
それから、レティシアは俺を愛おしそうにだきしめてくる。
「……あぁ、シュウジ。シュウジの匂い」
それただのぬいぐるみの匂いだから!
―――――
新作書きました
悲劇の英雄は曇らせたい ~理想の死に別れを演出したかったのに、ヒロインたちが激重感情すぎて死ねない~
https://kakuyomu.jp/works/822139840211168976
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生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病んでるみたいです 木嶋隆太 @nakajinn
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