第39話
まあ、いいか。
拒絶されたら、その時はそのときか。
「柚香、少し見せたいものがあるんだ」
「え? なになに? なんだか露出狂みたいなセリフだけど」
なにワクワクしてんだ。何人の股間に視線を向けているんだ。
「柚香って……異世界とかって信じるか?」
俺は、少し躊躇いながら問いかけた。正直、唐突すぎる話だとは思う。けど、いずれは話さなきゃならないことだ。
「なんか今度は宗教の勧誘みたいだね」
柚香は冗談交じりに笑いながら答える。俺も思わず肩をすくめた。
「……まあ、俺も言っててそう思ったよ。で、どうだ?」
「あったら楽しいかな? って思うよ。でも、どうなんだろうね」
彼女の言葉に俺は微かに頷いた。
「……だよな。俺もそのくらいの認識だったんだよ」
あの時まではな。
そう呟きながら、俺はふと手をかざした。
「けどさ、これを見たら、どう思う?」
俺は軽く指を鳴らすと、周囲の空間に魔力を注ぎ込んだ。すると、俺たちを囲む空間が、ふわりと歪んでいく。まるで、空気そのものが震えているように。
柚香の目が驚きで見開かれる。俺の指先から生まれた光の粒子が、宙を舞い、瞬時に形を作り上げていく。
宙に浮かぶ不思議な模様や、幻のような光景が、まるで異世界の景色を垣間見せるかのように映し出されていく。
あくまで、この周囲、柚香と俺にだけ見えるように作り出した幻覚の魔法。
プラネタリウムのような世界。
その世界を見ていた柚香が驚いたようにキョロキョロと周囲を見回していた。
「……え? 何これ?」
驚きと困惑が交じり合った声を上げる柚香。俺は苦笑しながら、力を制御し、ゆっくりと魔法を解除していく。
「こういうのが、俺の力。……異世界で手に入れた力なんだ」
柚香はしばらく黙ったまま、その光景が消えていくのを見つめていた。
しばらく柚香は呆然としていたあと……柚香は目をキラキラと輝かせる。
「す、凄い! こんなの、現実にあるなんて……」
彼女の声には、驚きと興奮が入り混じっていた。俺はその反応を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「……信じられないかもしれないけど、俺が異世界で得た力だ」
「さっきの力って他にも色々できるの!?」
「まあ、な」
「もしかして、女湯を覗き込んだりも?」
「できなくはないが……」
今聞くところそこ?
「もう、修二のえっち」
「いや見てないが」
「え? 見てないの? もったいなくない? あっ、私以外のを覗いたら目潰しだからね?」
怖いよ! 笑顔でいうことじゃないよ!
柚香は感心したように俺を見つめる。その目には、少しの尊敬と好奇心が含まれていた。
「でもな。……まあ滅茶苦茶簡単にいうと、生贄になるはずだった勇者たちの代わりに俺が魔物と戦って三人の勇者の命を救ったんだ。で、俺はその時死んだと思ったらなぜか日本に戻ってきて……過去の自分に憑依したみたいな感じになっていたんだよ」
「うん、よく分かんない」
「だろうな。俺もだ。でも、その結果が今になるんだ」
「私との運命の出会い?」
「……ある意味、そうかもな」
確かに、俺の運命は大きく変わった。
「それでまあ、問題が色々あってな。……向こうにいる三人の助けた勇者たちが、皆凄い落ち込んじゃっててな……俺が身代わりになったと思っちゃってるわけんで、皆精神的に不安定になってるんだよ」
「……うーん、なるほどね。状況はわかったよ」
「それでまあ、さっきみたいに魔法の力を使えば一応会うこともできるかもしれなくてな。だから、今夜会ってきてとりあえず元気にやってることを伝えようかと思ったんだ」
「それはいいんじゃないかな? ……たぶん、私もその勇者の人たちと同じ立場だった気にしちゃうと思うし」
「……だよな。ただ、どうやって声をかけようか迷っててな」
「そこはまあ……今の素直な気持ちを伝えればいいんじゃないかな? あとは、相手の気持ちをちゃんと聞いてあげれば、大丈夫だと思うよ?」
柚香が笑顔とともにそう言ってきた。
……相談してよかったな。
「……ありがとな、柚香」
「うん、気にしないで。頑張ってね」
「……ああ、分かってる」
柚香が笑顔とともに背中を押してくれた。
よし、今夜……レティシアとまずは話をしてみようか。
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生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病んでるみたいです 木嶋隆太 @nakajinn
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