第2話
怖い。その感情が私を支配した。
暗闇の速度は増すばかり。私が頑張っても逃げ切れそうにない。実感して確信すれば私の心に残るのは強い恐怖だけだった。
体から体温が抜けていく感覚。
どうしよう、どうすれば。
焦燥感が私から離れない。近くで見ると敵わない事を再認識させられて、無力さで心臓が押し潰れそうなぐらい痛くて堪らない。
「おiデ..オイで....」
暗闇は聞き取りずらいが、私に来て欲しいと願っていた。
目の前まで来た暗闇。手の形をした暗闇が私の体を掴んで離さない。水中のせいで力も入らないし抵抗も出来ない。
『(...あぁ、もうどうでもいいや)』
あまりの恐怖で私は何も考えれなくなり、目を閉じて、抵抗をやめた。
気持ち悪いのに、嫌に優しい手つき。触られる度に苦しくて仕方ない。
私はこのまま連れ去られるのか。いっその事殺されるのが分かれば覚悟はできたのになぁ。と、何をされるか分からない未知への恐怖にそんな事を考えてしまう。
そんな現実逃避も無意味なもので、手が私の顔に伸びた。目を塞がれて視界が使い物にならなくなる。意識も朦朧としてきて連れ去られる一歩手前だったその時。
突然ぐらんと体の重心が後ろに傾いた。
急な事でパニックになる。私のではない早鐘を打つ心臓の音に、暗闇とは真逆で暖かく安心する雰囲気を持つ後ろの誰か。
「まだ連れてけないよ。」と誰かが呟く。
優しい声なのにどこか怖いというか、もやもやした感情が籠っている。その感情は何に向けているのか分からない。
何で助けてくれたんだ。どうしてここに居るんだ。何を知っているんだ。色んな事を聞きたくて喉が詰まる。でも、
「目を瞑ってて。」
そう言われると心が落ち着いて冷静になる。
冷静になった頭で、せめて意識が無くなる前に顔を見たい。誰なのか知りたいと考える。
誰かの手を上手くすり抜け、その人と対面する姿勢になる。
そこに居たのは、
『(綺麗...)』
目を奪われそうなぐらい綺麗で。不思議な目をもつ少年。私より少し年上だろうか。
私がずっと見ていると、大丈夫。そう言う様に手を繋がれる。恐怖から逃れた安心した私は意識は薄らいでゆく。
どぽん。
そして私が目を閉じ眠ったのと同時に二人は水の底にゆっくりと落ちていった。
熱帯魚と水槽は現実か 沈丁花の大木 @Pippi_8989
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