熱帯魚と水槽は現実か
沈丁花の大木
第1話
ここで目覚めたのは奇跡かもしれない。
不思議な水中の音。纏わりつく少し重く冷たい水の感覚のおかげで目を覚ました。
『なに、これ...?』
数回瞬きをすると視界がクリアになる。そして目を擦りながら見たのは不思議な景色だった。
足を向けている所には遺跡の様な、でも新しく見える建物。上には何も無い。他の魚は疎か人間もいない水中でポツンと私だけが佇んで居るだけの空間。
そして一見普通だが、よく見れば決定的におかしい部分がある。それは“光と陰が逆になっている事”だった。
上には光が差し込まず、下の遺跡は冷たい様な暖かい様な光を放っている。特に危険は無いが方向感覚が狂いそうで気持ち悪い。
『(こんなに上は暗いんだっけ)』
あの中に入ると戻れないと分かる程に暗い上の海。深海だからじゃない暗さ。見てるだけで本能が危険だと訴えてくる。
『だれか、誰か___』
声で助けを呼んでも泡となって消える。届かないと改めて分かってしまえば、孤独感が増すだけだった。
『上には行けない、よね。さすがにね。』
まぁ、薄々気づいていた。ならば下に行くしか道は無いのだろうか。下が危険かもしれない。下にも誰も居なくて何もこの場から脱出するヒントはないかもしれない。
それでも、もう道は無い。
頬を叩き喝を入れる。呼吸を整えて、手で水を掻き分けながら下に進み始めた。
泳ぎは得意では無い分遅いが、休憩を入れながら方向を確認してると思えば良い。と少しずつだが確実に進んで行った。
『(結構広いんだなぁ。)』
全体が見えるまで近づいてきた。光を放つ建物をよく見ると現代的な施設と遺跡が融合している。
少し好奇心や探究心が刺激され、若干早く水の中を進んでいると、
『え、?』
上の暗い海はこんなに近かったっけ?
目をよく凝らすと理解した。違う。
少しずつだが“暗闇がこの海全体を覆おうとしてる”のだ_____
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます