思雨
※
どんな雨でも嫌いだが、細く針のような雨が
サァサァという細い雨の音はいつも、蓮の心の中に言葉にしがたい
「実は
それでも最近は、昔ほど雨を毛嫌いすることもなくなった。
それは雨の向こうに失くしたと思っていた『運命』を、紆余曲折の末に抱きしめることができるようになったからなのかもしれない。
「そうなの? 僕が来てから、割と降ってるような気がするんだけども」
「今年は多いって話だな。雨は恵みではあるんだが、これ以上降るなら崖崩れが起きねぇように見張っとかねぇと」
今宵の二人の滞在場所は、二人が初めて出会った日を過ごした
安普請の部屋は、壁が薄い分、降りしきる雨の音がよく聞こえる。寝台の上で
蓮と
あの日、蓮が運に任せて
交戦の音が止んだことを受けて恐る恐る現場に顔を出した『
梅煙曰く、蓮は一時的に仮死状態になったおかげで出血の勢いが弱まり、結果命が助かったのだという。『あなたにしては、いい判断だったんじゃないですか』というお褒めの言葉に、逆に蓮が震え上がったのは言うまでもない。
蓮が五日昏睡していた間に、姻寧を騒がせた事件はほとんど片付けられていた。
『
だがそんな蓮の内省に反して、蓮の行動を咎める人間は誰一人としていない。むしろ状況を知った人間は皆、今でも心の底から蓮を
【いやね?
そんな風に呆れたように口にしたのは
姻寧に入り込んでいたネズミは一掃された。
商会に戦争を仕掛けてきた犯人は
腰を据えた対策が必要だと游稔は言っていたから、まだ戦っていくことになるのだろうが、今は少しだけ息をつける状態だ。
「っ!」
そんなことを考えていたら、チュッと背中に濡れた感触が走った。傷に触らないように控えめに蓮の背中の端を食んだ唇は、蓮が体を跳ねさせたことに気付くと淡く笑みを浮かべる。
「……まだ、痛い?」
「……今日は、そんなに」
その答えを聞いた
それでも蓮は、どうあってもこの小さくてひんやりとした体を引きはがすことができない。
「壁も床も薄いって言ってるだろ?」
「大丈夫」
それが分かっている
寝台の外では常に蓮の外衣に隠されている
蓮だけが見ることを許される、花の
「だって雨の音が、こんなによく響くから」
全部、雨の中に隠れてしまうから。
だから僕の声を聞くのは蓮だけで、蓮の声を聞くのは僕だけだよ。
そう
雨夜の中に、茉莉花の香りを溶かして。
茉莉花の煙の中に、記憶を落として。
それでももう分かたれることはないのだと、雨夜の中に運命の花嫁は囁いた。
【了】
血色の花嫁は雨夜に囁く 安崎依代 @Iyo_Anzaki
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