第29話

「パパー、おかえりしゃい」


「ただいまー、みちかー」


出迎えた娘を悠将さんが抱き上げる。


「李依もただいま」


「おかえりなさい」


空いた手で私を抱き寄せ、悠将さんはキスをした。


「調子はどうだ?」


「順調ですよ」


今、私のお腹は大きく膨れている。

二人目を妊娠していた。


リビングに向かいながら、後ろから着いてくる運転手をちらり。

彼の手には例のごとく、大量の箱と紙袋が持たれている。


「……また、買ったんですが」


「……いいだろ、別に」


よくない!

とかツッコミたい。

最初は広い家だと思っていたが、今では悠将さんの買ってきた子供用品と私の服で溢れそうだ。


「ほら、満華(みちか)。

お土産だぞー」


「わーい!」


ぴょんぴょん跳びはねる満華の横で、にこにこ笑いながら悠将さんが買ってきたものを開けていく。

それは、この家の下見に来たあの日、見た幻そのものだった。


……ああ、幸せだな。


可愛い娘がいて、素敵な旦那様がいる。

それに、もうすぐ二人目も。

悠将さんは約束どおり、私を幸せにしてくれた。

私も悠将さんも幸せにできていたらいいな。


「うわーっ、おひめしゃまだー!」


悠将さんが取り出したのは、フリルたっぷりのワンピース……というよりも、もはやドレスだった。


「だろー、パパは約束を守るからな」


悠将さんは得意げだが、そういえば今回、日本を立つ前にお姫様もののアニメを満華と一緒に観ていて、満華もお姫様になりたいとかねだられていたな……。


「あとはティアラに……ネックレスに……イヤリングに……」


「……ちょっと待ってください」


次々に取り出されたそれらに、とうとうツッコミを入れた。


「もしかしてそれって、本物とか言いませんよね?」


「ん?

ダイヤとプラチナで作ってもらったが?」


「ああ……」


それを聞いて崩れ落ちてしまったが、仕方ない。

子供のおもちゃに本物を買ってくる人がどこにいる?

ここにいるんだけど。


「イミテーションでいいんですよ、イミテーションで」


それでも子供のおもちゃと思えない、高級なものが出てきそうだが。


「なんだ、李依も欲しかったのか?

心配するな、お揃いで作ってある」


悠将さんが新たに開けた箱の中から、同じデザインのネックレスが出てきた。


「僕のタイピンも作ったんだ」


さらに同じモチーフのタイピンが取り出される。


「男の子はなにがいいのかわからなかったんだが……。

王冠にした!」


じゃーん!と効果音つきで今度は王冠が出てきた。

ちなみに次に生まれる子供は男の子予想だ。


「ちゃんと王子用の衣装も買ってきたぞ!」


……うん。

もういいや。

悠将さん、すっごい嬉しそうだし。


「生まれたら、家族でこれを着けて写真を撮りましょう」


「そうだな」


買ってきてくれたおもちゃでひとり遊びはじめた満華から離れ、悠将さんがソファーにいる私の隣に座る。


「李依がいて、満華がいて、もうすぐ二人目も生まれる。

僕はこの上ないほど幸せだ」


満華を見つめる悠将さんの、眼鏡の奥の目は慈愛に満ちている。


「私もです。

私も今、凄く幸せです……」


こちらを向いた悠将さんの両手が肩に置かれ、目を閉じると同時に唇が重なった。



【終】

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捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~ 霧内杳@めがじょ @kiriuti-haruka

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