第28話
私の予感は的中し。
「李依、ただいま!」
一週間ぶりに帰ってきた悠将さんの後ろには、いくつも積み重なった箱を抱えている運転手が見える。
それにはぁーっとため息をついてしまった私に罪はない。
だって。
「……また、買ってきたんですか?」
「だって可愛いのがあったからさー」
あったからさー、じゃないです。
そうやっていつもいつも買ってくるから、家の中は子供用品であふれかえっていますが?
買ってきたものは仕方ないので運び込んでもらう。
今日はおままごとセットに、お姫様セット、あとは洋服や靴だった。
性別がわかる前はどちらにもOKなぬいぐるみやユニセックスなデザインの服。
女の子らしいとわかってからは拍車がかかり、可愛らしいお洋服を山ほど買ってくる。
そういえば、ハワイでも私に死ぬほど服を買ってくれたなー。
これは、悠将さんの仕様なんだろうか。
夕食を食べたあと、リビングのソファーでまったり過ごす。
「お腹、大きくなったな」
「そうですね、もういつ生まれてもおかしくないです」
とうとう臨月に入った。
会社も少し前に産休に突入。
私としては子育てが落ち着いたら復帰したいところだが、ハイシェランドホテルとの契約が決まってからというもの軽く役員待遇で居心地が悪いので、こちらはちょっと考えている。
それにその頃には、アメリカに渡っているかもしれないし。
後ろから私を抱き締めて座り、悠将さんがいつものように口付けの雨を降らしてくる。
「そうだ。
エステサロンを買ったんだ。
マタニティエステもやる予定らしいから、李依も利用したらいい」
……まさか、私のために買ったりしてないですよね?
悠将さんならやりそうだから怖い。
「べ、別に李依のために買ったわけじゃないぞ?」
私の疑惑の視線に気づいたのか悠将さんは慌てて否定したけれど、眼鏡の奥で目がきょときょとと忙しなく動き、視線も合わせないとなると疑わしい。
「ジャニスが心機一転、新しい事業を立ち上げると言うから、出資したんだ。
アイツのホテルでやっていた、ジャニスプロデュースのエステは評判よかったからな。
きっといいエステサロンになると思うんだ」
これってあんな厳しいことを言っていながら、ジャニスさんを救済したんだろうか。
「評判が上がればうちのホテルに導入してもいい。
先行投資というヤツだ」
まだ私のため疑惑は拭えないが、とりあえず他の理由があって安心した。
「悠将さんって、優しいですね」
「……僕は優しくなんかない、優しいのは李依だろ。
これからジャニスはどうなるんだろうって、あんなに嫌な思いをさせられたの心配して」
「それは……」
あんなに打ちひしがれた彼女を見たら、気になると思うんだけれど?
「だから、まだジャニスにやり直す気があるのなら、手を貸してやろうと思った。
それだけだ」
ぽりぽりと人差し指で、彼が頬を掻く。
悠将さんは自分が気づいていないだけで、凄く優しい。
こんなに優しい人が私の旦那様で、そして子供の父親でよかったと思う。
「それにしてもアイツ、僕に『和家様!』とか言って過剰な接待をしてくるのはなんでだろうな?」
悠将さんは不思議そうだが、私に聞かれてもわからない。
「あ、そうだ」
立ち上がった悠将さんが荷物の中からなにかを探し、戻ってくる。
「ジャニスが李依に、って。
妊婦も大丈夫なリラックスできるアロマスプレーだって言ってた」
「へー」
軽く空間に向かってスプレーしてみたら、ラベンダーのいい匂いが広がった。
「好きな香りだし、いいかもです。
お礼を言っておいてください」
「わかった。
というか、エステに来るときはぜひ連絡くれ、私自身がお相手をしたいので、とか言っていたぞ」
「はい……?」
まだ私に敵対心を燃やしている……とかないと思いたい。
「李依様は和家様の大事な奥様で、和家様の御子を産む大事な身体なのですから、大事にせねばなりません……とかなんとか言っていた。
聞き流していたが、あらためて思い出すと、気持ち悪いな」
不快そうに眼鏡の下で悠将さんの眉が寄る。
これってもしかして、尊敬がすぎて崇拝になっていないかな……?
ちょっと心配だ。
「……ん?」
「李依、どうした?」
私が微妙な声を出し、怪訝そうに悠将さんが顔をのぞき込む。
「なんか今ちょっと……」
……ズキッとしたような?
「もしかして陣痛じゃないのか?」
「そうなんですかね……?」
なにせ、初めてなのでわからない。
「病院、今すぐ病院に行こう!」
「えっと、そこまで慌てないでいいので……」
「今すぐ生まれたらどうするんだ!?」
らしくなく慌てふためいている悠将さんを見ていたら、反対に冷静になってきた。
でも、ちょうどいいタイミングでよかったな。
出産予定日にあわせて帰ってはきたけれど、少しズレていたら立ち会えなかったもんね。
深呼吸したら落ち着いたらしく、病院に向かう車の中でも、着いてからもずっと、悠将さんはどっしりとかまえて手を握っていてくれた。
そして――。
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