第10話



「そろそろ寝ないと、明日眠くなっちゃうよ」


「そうだね」


「歯は磨いた?」


「まだ。一緒に行こう?」



 二人で洗面所に並んで立って歯を磨く。いつでも隣に並んで歩いてくれる彼は、お母さんより口うるさい時もあるけれど、いつだって優しくて、真っ直ぐに私のことを見て考えてくれる人。


 忘れられないと思っていた記憶も物も、彼がゆっくり遠ざけて、忘れられるように助けてくれる。あのオルゴールも、埃をかぶるまで触らなかったのは奏太くんのおかげだ。


 先に口をゆすいで、奏太くんが口をゆすぐのを見守った。



「奏太くん」


「ん?」



 私の声に奏太くんは手を拭きながら顔を上げてくれて、鏡越しに目が合った。



「大好き。奏太くんに一生甘やかされたいです」


「俺も大好き。一生甘やかしたいから、覚悟してね」



 逃がさないとでも言うかのように抱きしめてくれたから、私も負けじと強く抱きついた。



 fin.

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誓いの鐘が鳴る前に こーの新 @Arata-K

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