第73話

悠の様子をうかがいながら仕方なく学園の仕事に取り組んでいる理事長の元へバタバタと足音を立て、まるで押入りのように入ってきたのは、考えるまでもない翔達だ。

「理事長悠は・・・」

「ずっと眠っているよ!目が覚めないから心配していたところだけど僕もこの学園の理事長だからやることが多くてね!」

机の上には期限が明日に迫った書類が積まれている。

今それをやるのか!と翔の口からとても言えるはずもなく悠が眠っているソファーの周りを落ち着きなくうろうろとしている

「・・・前回もそうだったが、少しは落ち着いたらどうだ」

伶の言う前回とは、悠と翔が再開した時の話である。

ここだけの話になるのだが翔は女子高に言ったあの日、悠を見て自分が知っている元幼馴染の悠であることに気が付いていた。が、プライドが邪魔をし知らない振りをしてしまったのである。当の本人である悠はすぐに気が付くことはなかったが。


なぜ翔が真っ先に悠に気が付き、有稀や新、伶までもがその存在を知っているか。

それは、またどこかで語る時が来るだろう。


その後倒れた悠を誰にも触れさせず運び、今と同様、それ以上にうろうろそわそわしていたのである。

意外とかわいいところがあるのが翔の魅力の一つなのだろう、と本人以外は思っているがそれに一切気づくことがないのが翔らしい。

「仕方ねーだろ!そもそもこいつ倒れすぎなんだよ!」

それには同感なのはそこにいる誰もが思っている。・・・無理をさせているのは一体誰なのだろうかと問われれば答えは明白ではるが・・・

「僕もぉ心配だけどぉ!・・・翔今凄い不審者みたいで気持ちぃ悪いねぇ!」

「同感だ」

「僕も気持ち悪さに自信はある方だけど今の翔には勝てそうにないよ~」

そう理事長を除くその場にいる全員から同意を受けてしまい翔はわざとらしく咳をし、動きを止め悠をじっと見つめる。それはそう、まるで愛しい者を見るように。

いつも心配させやがって・・・

そしてはたと理事長の存在を思い出し理事長に助けを求めるように視線を送る。書類から目を離し、小さくため息をつくと椅子から降りた理事長は悠の傍まで行くが、翔が悠へ近づかせないような行動をとった。

一番その子藤堂を理解していないのは、翔自身だった。本能というべきだろうか。

・・・勝手に体が動いたような感覚だ。意味わかんねー

そんな翔に薄く笑みを浮かべ何事もなかったかのように話し始める。

「・・・僕も翔たちと同じで良く分からないよ。ただ悠ちゃんは僕らが思ってるよりも闇を多く抱えているようだね」

なんでこいつは自分ですべて抱え込もうとするんだよ!とついいつも通り叫ぼうとし、悠の状態を見てぐっと我慢する。

「闇・・・」

伶のその言葉に理事長以外の全員が言葉をそろえてぼそっとつぶやいた

「「「「マスター・・・」」」」

まるでその言葉が鍵になったかのように、突然悠が起き上がり声を発した。しかしその声は、いつもの悠の声ではなかった。

「・・・・あの」

『!?』

全員が驚き何かを感じ取ったのかいつでも聖杯召喚をできるようにしながら様子をうかがう。

先ほどまで寝ていたはずの悠が突然目を覚まし、それも立っているのだから当たり前だろう。


こいつは・・・誰だ


ホント・・・悠はバカだわ

私と同じ道を確実に歩き始めてる。これも、全ては必然なのかしら、ね

だけど一つだけ違うのは翔や・・・仲間の心の支えがある事

私には・・・居たかもしれないけれど違ったもの。

悠は私の存在をうまく隠してくれているわ。今ここでこの子たちに話したらすぐに目をつけられてしまう。だからまだ私という者が在ることは言わないでおかないとね。

それに・・・・そんな簡単に話せることじゃないからこそ悠は黙っていてくれているのよ。本能で察しているのでしょうね

「お前誰だ。悠じゃねーだろ」

こう言う所も・・・似ているわね。とても・・・

『・・・それを答える前に、仲間たちが来たみたいね』

転移、ではなく理事長室の扉が開き真っ先に春香が部屋に入り後を追うように隆斗がやってきた。

春香は何かを感じ取ったのか悠を見てすぐに

「悠ちゃんじゃ・・・・ない?」

そう言った。

小日向春香・・・ね。私少しだけこの子苦手だわ。

優柔不断なところが、とても似ているから

「急に飛び出していくから何かと思えば・・・どうなってんだ翔?」

「俺も知らねーよ。・・・勝手にこいつが話すんじゃねーのか」

『そうね。・・・私は悠の力そのもの。はじめまして、と言いたいところなのだけど、今悠は精神的に不安定なの。あまり余計なことは言わないようにしてほしいわね。私が出て来るということは、悠の心が乱れている証拠と思ってくれてもいいわ』

「話し方全然似てねーじゃねーか!声は似てるんだけどな・・・やっぱりちげーな。」


・・・この子馬鹿なのかしら。あぁ、こういう子だったわね。呉牙翔。それよりも問題は、あの理事長ね。


「その声・・」

心当たりがあるのは仕方ないけれど、その焦がれた視線にはちょっと困るのよね・・・

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巻き込まれて男子校~♯1 眠れぬ森の悪魔~ 呉条侑 @yuu_gojyo

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