第18話

***


毎日一定の間隔で襲ってくる激痛に私は苦しまされていた。だがこれは決してディオスに見せてはいけない姿。

今晩も夜中に痛みに襲われ、テオを呼んで隣室のソファで痛みに悶えた。


「イルナ様、やはり殿下に相談するべきでは…」


 痛みが幾分か和らいで私の呼吸が正常に戻ってからテオが控えめに発言した。


「それはダメ。これ以上シェーラ派に餌を与えるようなことをしたくないの。本当なら私は身を引いて片田舎でのんびり暮らすべきなのでしょうけど、きっとディオスがそれを許さないわ。私を探すことに余計な労力を割くでしょうから逆に迷惑になるのが目に見えている。それなら最初から覚悟を決めてディオスのそばにいて王太子か王女を出産して私の地位を盤石なものにする必要があるの。テオが心配してくれるのはわかるのよ。でもディオスが私を必要としてくれているうちは側にいる必要があるの」


 そう。ディオスの情の深さは私が一番よく知っている。私に対する執着も。


 本当は今の立場が辛い。いっそ投げ出して国外にでも逃亡して穏やかに暮らしたい。だけどそれをしたらディオスはどうなる?きっと私を求めて不要な労力を割くだろう。そんなことをしたら今までディオスを慕ってついてきていた者たちの心が離れかねない。


「そう。私は頑張るしかないの…こんな痛みに負けていられないわ」


「イルナ様…」


「テオありがとう。あなたの提案。嬉しかったわ。」


「いえ、ですが、逃げたくなったらいつでも私にお申し付けください。イルナ様をどこでもお好きな場所にお連れしますので」


「テオ…」


 彼はおそらく忠誠以上の感情を私に持っている、だが私はテオのためにそれに気づかないふりをしないといけない。

 

 そうして痛みが引いた私をテオは抱き上げて元通りディオスが眠るベッドの上にそっとおろすとその場を去った。


「テオ…ありがとう」


いなくなった彼にそう呟くと私はディオスの寝顔を見る。美しい金髪にそっと触れると私の背中に手を回してディオスは私を抱きしめた。

 その途端幸福感で包まれる。ディオスが私を求めてくれるのと同じくらい私もディオスのことを求めていた。そのことに改めて気付かされる。


***


隣国から返答がかえってきたのは三日後だった。

使者として第3王女と第2王子が視察にくると言うことだった。

しかし首を捻る。第3王女が来ることは予想していたが、なぜ第2王子が一緒に来るのだろうか。不審に思いながらも俺は即座に返答の書簡を送った。


いつものお茶の時間、イルナは背筋を伸ばして優雅にお茶を飲む。あの時の苦しげな姿は全く感じさせないその完璧な所作に俺は彼女の努力に心がギュッと苦しくなった。


「今度隣国の第3王女シェーラ殿と第2王子カイン殿が視察に来ることになった。イルナにも同席して欲しいのだが…」


「もちろんです、せっかくお越しいただくでしたらこの国の美味しい料理を沢山食べていただきましょう」


「ではそれらの用意は任せても良いか?」


「お任せください。きっとお二方を満足さえて差し上げます」


イルナはそう言うとあれこれと美味しい料理やお菓子をディオスに話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙女ゲームの王子に転生しましたので悪役令嬢を救います 南雲葵巴 @aonokiku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ