第17話

会食の後無性にイルナに会いたくなっていつもと違う時間に部屋に行くと、低い唸り声が室内から聞こえてきた。

どうしたのかと慌てて入るとイルナが脇を抱えてベッドに横になり、ぜいぜいと息をしながらうなっていたのだ。


「イルナ!」


慌てて駆け出して咄嗟にイルナを抱きしめようとしてメルルにたちはだかれる。


「どうかお引き取り下さい。今の姿は殿下に見せたく無いと常々おっしゃられておりますので、イルナ様が気付く前にお早く」


そう言ってメルルに無理矢理部屋を出されてしまった。


イルナの怪我は完治していなかった。だがそれでも俺のために平気なふりをして演技していたのだ。

いつも決まった時間に来て欲しいと言っていたのはこのためだったのかとようやく納得がいった。

先程のイルナはあまりの痛みでおれの存在に気付かないくらいだったから。


「イルナ…」


おれは自分の不甲斐なさに腹を立てた。

何も出来ずにすごすご部屋を出ることしかできない自分に。

俺にできることは良き王になってイルナを安心させることだけ。

そう決意して執務室にもどった。


「アベル、仕事を回せ、イルナのためにも一件でも多く国のためになることをしたい」


「ああ、ご覧になったのですね。承知いたしました」


「アベルは知っていたのか?」


「私は雑務でイルナ様の元を訪れる機会が多いですから。口止めされておりましたので…」


「いい。イルナが望んだことだ。アベルに非はない」


そう。イルナは俺の負担をできる限り減らしたかったのだろう。優しくて強い。だが、もう少し頼ってほしいという気持ちもあった。


「仕方ないですよ。今はシェーラ派も台頭してきていて微妙な時期ですので、自身の体調の悪さを殿下に知られる訳にはいかないと思われたのでしょうね」


「物分かりが良すぎるのも問題だ…」


「夜中も痛みが出るとテオに警護させて別室に移動して痛みが引くのをまたれておりますしね」


そこまで徹底して俺に気取られないようにしていたのか。


イルナの強い意思に俺は驚いた。


「俺が、イルナにたいして不安をもたないため…だな。そういうものは隠しても勘の鋭い貴族連中は勘づいてつついてくる」


アベルは静かに頷く。

今回の怪我で1番の問題は妊娠の際にどう影響がでるのかわからないために最悪母子とも死亡する危険があるからだ。それを貴族連中は言い訳にして、自分たちの利になるシェーラ王女を推してきている。

もちろんイルナをおす一派もいるが、最近ではシェーラ派の方が力をつけている。


だがいくら貴族連中が言っても俺はイルナ以外求める気はない。


「アベル、確か近々シェーラ王女が我が国に視察に来たいと打診があったな。そこで正式に縁談を断ろうと思っている。どう思う?」


「良いんじゃないですか?その方があちらも諦めて別の嫁ぎ先を決められるでしょうからね」


俺はその旨を書類にしたためるとアベルに渡した。


「ではこれを間違いなく隣国に」


「承知いたしました」


アベルはそう言うと部屋から去っていった。

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