第16話

「ディオス様、お気持ちはわかりますが第一王妃になられる方はシェーラ様にされて、イルナ様は外交の必要のない第二王妃に据えてはいかがでしょうか」


シェーラ派のカイゼル侯爵が会食の際に俺にそう進言してきた。要はイルナは愛玩用にしてシェーラを外交用に使い分けろということなのだ。そんなことシェーラにも申し訳ないし、そんなことになったらイルナは身を引いてしまう可能性だってある。

それでは誰も幸せになれない最悪の状態だ。それで得するのはシェーラをおす一派のみ。


「くどいぞ。俺はイルナ以外の妻は娶らない。父上もそうだったではないか」


父上も母上をこよなく愛していたが馬車の事故で亡くなってから、どんなに後妻をと勧められても頑なに首を振らなかった。

俺が父上を尊敬しているのはそういうところも関係しているのだ。


「カイゼル、そなたたしか隣国との貿易で財をなしておるな?その関係でシェーラ殿をおしているのではないか?」


現国王の父上が厳しい声でカイゼルに問いかける。それだけでカイゼルは震え上がる。父上は賢王と名高く、愚鈍な人間をひどく嫌うからだ。国に害すると判断すれば相手が公爵だろうが、迷いなく爵位を剥奪する。


「いえいえ、シェーラ様はお美しいだけでなく所作や学に優れたお方と聞き及んでおりますゆえ、妃として最適かと思いおしたのでございます。決して私の利益のためでは」


「ではその口を閉じよ。イルナのことは余も認めておる。あれほど王妃に相応しい娘はなかなかおらん。次期王妃はイルナだけだ。これから余計なことをするものには罰を与える。よいな?」


今回の会食は父上が主催され、名だたる侯爵、伯爵などが集められて開催された。どうもその目的はイルナの妃就任の認知が目的だったようなのだ。


俺は心の中で父上に礼をのべた。


会食を終えてイルナのもとに戻ろうとすると父上に止められた。


「イルナの状態を聞き及んでいる。頑張っているようだな。だが身体は完全には戻らないということだ。特に出産に関しては命がけで挑まなければならないという。ディオス、そこは覚悟しておるのか?」


どきりとした。そこはなるべく考えないようにしていたところだったからだ。


「この王国の存続のために王太子か王女は必須。イルナの状態に関係なくそれは避けて通れない。お前はイルナを失う覚悟をもっておるのか?」


「それは正直考えないようにしておりました。ですが王太子ないし王女が必要なのは理解しております。」


「イルナを失ってもか?」


「正直そこまで覚悟は出来ておりません。ですが…いずれは…とかんがえております」


「ならば良い。愛するものを失う苦しみは余が身をもって知ってあるからな」


「父上…」


「余は2人の味方であるということを忘れぬように。よいな」


「ありがたき幸せです!いずれは必ず可愛い孫を抱いていただきます」


「楽しみにしておるぞ」


そう言って父上は退出していった

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