8
誰もいないだろうと思っていた早朝の書庫には、意外にもすでに利用者がいた。
窓際で壁によりかかって本を読んでいた青年は、入ってきた薔崋を見て、驚いたように目を見開いた。
薔崋は青年を見て少し目を細めただけで、さっさと視線をそらす。
そのままどちらから声をかけることもなく沈黙がおちると思われた書庫だったが、思いがけず、青年の方が口を開いた。
「生きてたのか」
修央令六は読んでいた本を目線から下げて、ククッと笑う。
「聞いたぞ。試験要員に死人が出たこと」
まるで自分の他に人などいないかのように、薔崋は無反応だった。動きを止めるどころか、眉を動かすことすらしない。棚から適当に本を四、五冊とると、さっさと出口に向かう。
「……!」
しかし、出口付近で顔の両脇に手がのびてきて、薔崋の頭は壁と令六に挟まれるかたちになってしまう。
令六は冷やかに微笑みながら、薔崋の顔をのぞきこんだ。
「俺を無視するとはさすが姫様、いいご身分だな。――ああ、それとも俺の気を引きたいだけか?」
薔崋は迷惑そうに令六を睨んだ。
「退いてください。自分より馬鹿な人に勉強を邪魔されるのはがまんなりません」
「はっ。さすが才媛は、帰ってきてもお勉強か」
薔想姫人―SousouHimebito @sakuraba_ari
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