古文の訳文に近い文体ですらすらと入ってくる良作。古典を適度な伏線としつつ、終盤の秀逸な台詞で全てを纏める、短編として美しい構成。可能なら星をもっと足したいと思うくらいにオススメ。
姫君が唯一愛したのは、自分と瓜二つの兄であった。己の姿を映し出す鏡、玉をことごとく破砕する彼女は、鏡の中に自分の鏡像たる兄の姿を見ていたのだろうか。鏡に映る自分の姿は、同じ容貌の兄との禁忌の血を否が応でも突き付けてくる。彼女にとって、兄と自分とを繋ぐ血は何よりも苦く嫌悪すべきものであるが、また同時に何よりも魅かれ離れがたいものであり、それが彼女の執着なのであろう。究極のナルシシズム、彼女はこぼたれた破片の裏の本来の兄を愛しただろうか。