第6話
▶第3話のシナリオ
◼️場所(学校/第二音楽室)
合唱部の女子たちが練習している。
隣接している準備室の中から、ドアの窓越しに中を覗き込む葉月と麟太郎。
葉月はドアと麟太郎に挟まれていて、身動きが取れない。
麟太郎「早川の話だと、放課後の練習中に妙な声が聞こえるそうだ……」
葉月「は……早川って、あの早川さんか!?」
葉月<うちのクラスじゃ一番可愛いって有名だぞ!?>
麟太郎「ん? 合唱部以外にも早川っているのか?」
葉月「いや、いないと思うけど……いつのまにそんな話を聞いたんだ!?」
葉月<僕なんて一年の時から同じクラスなのに、一度も話したことないぞ!?>
麟太郎「なに、早川の方から相談してきたんだ。あのポスターを見たって言ってな……まぁ、ついでにデートにも誘われたんだが、それは葉月がいるからって断った」
葉月「はぁっ!?」
葉月<何を余計なことを!! 変な誤解されただろう、それ!!>
麟太郎「それは置いておいて、とにかくだ。早川は困ってるんだ。その妙な声が聞こえるせいで、練習に集中できないし……」
麟太郎、葉月の首を触る。
葉月「なっ! 何するんだよ!」
麟太郎「声だ……」
葉月「!?」
麟太郎「妙な声が聞こえるようになった他の部員が、二人、突然声が出なくなって、歌えなくなったそうだ」
葉月「え……?」
麟太郎「なんでも、喉を噛まれたような痛みが突然襲ってきて……声が出なくなった部員は、病院に行ったが原因不明。早川もいつ自分がそうなるか……」
葉月「そ、それは……確かに、困るな」
葉月<妖怪の仕業……の可能性は確かに高いな>
葉月、練習中の合唱部をもう一度見る。
みな歌っている中、早川だけとても不安そうな表情。
合唱部たち「ラーララララ♪」
霊「ねぇ……ねぇ……」
合唱部たち「ララ♪ ラーラララー♪」
霊「ねぇ……ねぇ……」
葉月声に気づいて目を見開く。
葉月「あれ……なんか今……」
麟太郎「ああ、お前にも聞こえているか。さすがだな……」
霊「ねぇ……ねぇ……聞こえてるでしょ?」
伴奏しているピアノの下から、すっと女の霊(長髪、顔は崩れ、ボロボロの制服を着ている)が姿を現し、早川に近づく。
霊が早川の喉元に噛みつこうと口を大きく開ける。
麟太郎「葉月!! ドアを開けろ!!」
葉月「えっ!?」
麟太郎、真言を唱えながら弓を引く。
矢には護符が縛ってある。
麟太郎「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん……」
葉月<マジかよ!!>
葉月、急いでドアを開けて、しゃがむ。
合唱部、開いたドアの方を見て、弓を構えている麟太郎に注目が集まる。
麟太郎「人の声を食らう悪霊め! この俺が退治してやる!!」
早川めがけて弓が飛ぶ。
合唱部たち「きゃーーっ!!」
霊に弓が当たり、床に落ちる。
霊「うっ!!」
合唱部たち「きゃああああああ!!」
早川、弓が当たった霊を見て、真っ青になりながら後ずさる。
早川「な、何よこれ!!」
麟太郎「はっはっは!! 倒したぞ!! 悪霊を倒した!!」
麟太郎、誇らしげに笑う。
早川、麟太郎が悪霊を退治してくれたことに気づき、麟太郎に近づく。
早川「ありがとう、安倍くん!! これで、私の声はもう無事なのね?」
麟太郎「ああ、もう大丈夫だ。みんな安心しろ! これで声を失った他の部員たちも、みんな元にもどるだろう」
合唱部たち「やったー!!」
合唱部員たちに囲まれる麟太郎。
葉月は麟太郎から離れる。
葉月<よくわかんないけど……解決したなら、僕、ここにいる意味ないよね? 帰っていいよね? ていうか、手伝ってくれって……ただドア開けただけじゃん。一人でできるなら、僕必要ないだろうが……!!>
音楽室を出ようとする葉月。
床に落ちた霊がピクリと動く。
霊「く……っ! 貴様、陰陽師か!?」
霊、再び飛び上がって麟太郎に襲いかかろうとする。
合唱部も麟太郎も気づいていない。
葉月<ま、まずい!!>
葉月「陰陽師!!」
麟太郎、葉月の声で霊に気づきハッとする。
葉月、やに刺さっていた護符が外れていることに気づく。
葉月<ちゃんとつけとけよ!! 絶対これのせいだ!!>
葉月、護符を拾い上げるとバッチっと電光が走り、顔を歪めるがそのまま護符を霊に投げつける。
霊「うがっ!!」
霊、護符に触れて麟太郎に手が届く前に消滅。
麟太郎、嬉しそうに葉月の方を見る。
麟太郎「すげぇ!! さすが葉月!! 俺が助手と認めただけのことはある!!」
葉月「何が助手だ!! 勝手に決めるな!!」
◼️場面転換(学校/保健室)
葉月手のひらを怪我して、保健室の先生・玉山が手当てを受けている。
麟太郎、葉月の後ろでその様子を見ている。
羽織っている白衣の下、大きく開いている胸元に視線がいく葉月。
玉山「ダメじゃない、こんな綺麗な手に怪我なんかして」
葉月「す、すみません」
玉山「傷は残らないと思うけど、こんなに色が白くて綺麗なんだから、大事にしないと」
葉月<あぁ、玉山先生……いい匂い……>
葉月、頬を染め、耳まで赤くなっている。
麟太郎、その耳を後ろから人指で撫でる。
麟太郎「本当、葉月は色が白くて綺麗だな。それに、可愛い。何を照れてるんだ?」
葉月「うわっ! ちょっと、やめろよ!! 触んな!!」
玉山「あらあら、もしかして二人、そういう関係?」
葉月「そ、そういう関係って……!?」
麟太郎、葉月を後ろから覆いかぶさるように抱きしめながら言う。
麟太郎「ええ、そういう関係です」
葉月「いや、どういう関係だよ!! 離せ!! このクソ陰陽師!! 下手くそ!! お前のせいでこうなったんだぞ!?」
玉山「陰陽師……?」
玉山、麟太郎の顔を見る。
麟太郎「だから、手伝ってくれって言っただろう? 俺はまだ一人前の陰陽師じゃないんだ。ちょっとそういうミスをたまにやらかす。そこを補ってもらおうとだなぁ……」
葉月「勝手なことばかり言うな!! なんで僕が、お前を手伝わなきゃならないんだ!!」
葉月、麟太郎の腕を振りほどいて睨みつける。
麟太郎「だって、葉月可愛いし。ずっとそばにいるんだから、好きなやつの方がいいに決まってるだろ?」
葉月「す、好き!?」
葉月<た……玉山先生の前でなんてことを!!>
葉月、玉山の方を見るが、玉山はくすくす笑っている。
葉月<ああ、綺麗だ。いつ見ても、先生は美しい……>
玉山「まったく、仲がいいのはとってもいいことだけど、ほどほどにね。ああ、それと、安倍くん」
麟太郎「はい?」
玉山「あまり危険なことはしないようにね。その幽霊だとか妖怪がどうとか、先生よく知らないけど……あまり首を突っ込みすぎるのはよくないわ」
麟太郎「え……?」
玉山「あなたたち、まだ子供なんだから、危険なことはせずに、授業が終わったらまっすぐ家に帰りなさい」
玉山の瞳の色が一瞬変わるが、すぐに目を細めて見えなくなる。
麟太郎「……わかりました。できるだけ、気をつけます」
◼️場面転換(通学路/帰宅中/夜)
葉月の後ろを麟太郎がついて歩く。
葉月「まったく、お前のせいで無駄に遅くなったじゃないか!」
麟太郎「悪かったよ。だからこうして、家まで送ってやってるじゃないか」
葉月「送らなくていいし、ついてこなくていいって言ってるだろ!?」
麟太郎「夜道は危ないだろう!! 葉月、お前は可愛いのだから、気をつけないと変な男に襲われるかもしれないんだぞ?」
葉月「お前が一番変な男だよ!! 直接目を見られなきゃ、男は僕を襲って来たりしないんだから」
麟太郎「そうなのか? おかしいなぁ……じゃぁなんでこんなに、俺はお前を愛しく思うのだろうか?」
葉月「知るか!!」
葉月<お前なんて、強い妖怪にでも食われて死ね!!>
麟太郎、葉月の横に並んで、葉月の顔を覗き込む。
葉月「な……なんだよ」
麟太郎「その目を直接見たらって、お前の意思じゃどうにもできないものなのか?」
葉月「そーだよ。僕は狐の子だから……きっと、母さんの血のせいだと思うけど……どうやってコントロールしたらいいか、教えてもらったこともないし」
麟太郎「お前の母親は? 今どこにいるんだ?」
葉月「さぁね。知らないよ。僕を産んで、すぐにいなくなったらしいから。父さんも、行方不明だし」
麟太郎「……そうか。あ……」
麟太郎のスマホが鳴り、麟太郎電話に出る。
麟太郎「なんです、お師匠。……いや、そんなに心配しなくても一人でやっていけますよ。今日もね、1匹倒しましたから……」
葉月<何が一匹倒しましただ……危なかったくせに>
葉月、麟太郎を置いて先を行こうとするが、電信柱のそばに小さな雑鬼たちがいることに気づく。
雑鬼A「なぁ、聞いたか? 狐が出たそうだ」
雑鬼B「ああ、俺も聞いたそのせいで、この町の妖怪や悪霊たちが暴れ始めてるってぇ話だろう?」
雑鬼A「ああ、そうだ。俺たちの居場所をあいつら奪う気かな?」
雑鬼B「いやだいやだ。大人しく出ていってくれねぇかな」
雑鬼C「まぁ、落ち着けよ。たかが狐だろう?」
雑鬼A「いやいやそれがよ! 普通の狐じゃねぇんだわ」
雑鬼C「どんな狐だい?」
雑鬼A「あの大妖怪……玉藻前だよ。息子を探してるらしい」
雑鬼C「へぇ、この町に、あいつの息子がいるのか」
葉月、雑鬼たちの会話に驚いて、足を止める。
麟太郎「大丈夫、この町の妖怪も悪霊も、全部俺が退治してみせますから!」
(第3話 終わり)
その陰陽師、狐憑き?〜自称・陰陽師が、僕に勝手についてくる〜 星来 香文子 @eru_melon
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