第5話

▶第2話のシナリオ



◼️場所(学校/教室/昼)


葉月、窓際後ろから二番目の席に座っている。

麟太郎、教室のちょうど真ん中の席にいて、他の生徒たちが麟太郎に話しかけている。


葉月<信じられない……なんで、生きてるんだ!? しかも同じクラスって……!!>


葉月、麟太郎を睨みつけている。

麟太郎、視線に気づき葉月の方を向くが、その前に葉月が窓の方を向く。


葉月<めんどくさいぞ! 絶対めんどくさいぞ! 俺がどんなに目立たないように生活してきたと思ってるんだ……!!>


後ろの席にいる石坂、葉月の肩を軽く叩く。


石坂「ねぇ、葉月くん、聞いてる?」


葉月、石坂の方を向く。


葉月「えっ!? ああ、ごめん、何?」

石坂「やっぱり聞いてない……! この次、理科室に移動するでしょ? 一緒に行こうよ」

葉月「あ、ああ、そうだっけ?」

葉月<やばい……すっかり忘れてた……>

石坂「ん、その顔、もしかしなくても宿題もやってない?」

葉月「よくわかったな……そうなんだよ」

石坂「いいよ、いいよ写させてあげる」

葉月「マジ!? ありがとう、助かる!!」

石坂「その代わりっていうのもなんだけど……今度————」


麟太郎、石坂の言葉を遮り葉月の横に立って言う。


麟太郎「なんだ! やっぱり昨日の化け物じゃないか!!」

葉月「な……っ!?」

葉月<いつの間に!? 気づかれた!!>

石坂「化け物……?」

麟太郎「いやー昨日は助かったよ、ちょっと危なかったけど、まさかあんなにすごい妖怪がいたなんて。やっぱり、妖怪のことは妖怪に聞い————ふがっ」


葉月、勢いよく立ち上がり麟太郎の口をふさぐ。

葉月「いやー、転校生くん!! 次、理科室だから、僕が案内してあげるね!!」


麟太郎の口を塞いだまま、引きづり無理やり廊下に出る。

石坂、置いていかれてぽかんとしている。



◼️場面転換(学校/誰もいない空き教室)



葉月「お前、一体どう言うつもりだよ!!」

麟太郎「どうって、お前こそこんなところに俺を連れ込むなんて、積極的だな」

葉月「はぁ!?」

麟太郎「いやぁ……本当に、美しい。可愛い、なんなんだお前————って、狐の化け物だったか」

葉月「それをやめろ!! 学校で変なこと言わないでくれ!!」

麟太郎「変……? もしかして、学校では隠してるのか? お前が狐の化け物だってこと」

葉月「当たり前だろう!! それに、もし話したとしてもだれも信じないし、ただの厨二病こじらせた痛いやつだと思われるだけだ」


麟太郎、葉月を抱きしめる。


葉月「っちょっと!! 何するんだよ!! 離せよ!!」

麟太郎「ああ、すまない、可愛くてつい……」

葉月「いい加減にしろよ、このクソ陰陽師!!」


葉月、思いっきり麟太郎の足を踏む。


麟太郎「痛い! 謝ってるだろう! それに、そんな魅力的な姿で俺を惑わせているお前が悪い」

葉月「惑わせてねーし!! ただの学生服だろうが!! なんども言わせんな!! 僕は何もしてないんだよ!! 困ってるのは僕の方なんだ。何もしてないのに、みんな勝手に僕のことを綺麗だの美しいだの言って……勝手に興奮して、欲情して……僕は普通に過ごしたいんだ。普通に、人間として」

葉月<確かに僕の母親は狐だけど、父親は人間だ。半分は人間なんだ。僕は人間として生きたいんだ>


泣きそうな葉月を見て少し慌てる麟太郎。

降参したように両手を上げる。


麟太郎「わかったわかった。お前に惚れた俺が悪い」

葉月「わかればいいよ。とにかく、僕が狐の子だってことは、絶対誰にも言わないでくれ。僕も、お前が陰陽師だなんて痛い発言をするようなやつだってことは、言わないで置いてやるから」

麟太郎「いや、それは言ってくれて構わない。むしろ、俺が陰陽師であることは言いふらして欲しいくらいだ」

葉月「は!? なんで!?」

葉月<そんなことしたら、あの転校生頭おかしいって、イジメられないか!? 友達もできないぞ!?>


葉月、驚いて麟太郎を見上げるが、麟太郎は本気の顔。


麟太郎「その方が都合がいい。妖怪や悪霊の話が俺に集まりやすくなるだろう? 俺はとにかく多くの妖怪を退治して、一人前の陰陽師になりたいんだ」

葉月「いやいや、一人前の陰陽師って……」

麟太郎「俺は本気だ。それは俺のガキの頃からの夢だからな。やっとここまできたんだ、諦めるわけにはいかない。ああ、でも、お前のように何も悪いことをしていない妖怪は退治しないぞ。それは誓おう……お前のこの美しい瞳に誓う」

葉月「瞳って……」

葉月<こいつ……やっぱり頭おかしい。どうかしてる。レンズを通してだと、僕のこのやっかいな妖力は効かないはずなのに……>


麟太郎、葉月の頬に手を添え、顔を近づけようとする。

葉月、それに気づいて麟太郎の口を手でふさいで押し返す。


葉月「だから、やめろって言ってるだろ!! この変態!! 二度と僕に話しかけるな!!」





◼️場面転換(神社/境内/夕方)


幸之助が箒で落ち葉を集めている。

葉月、疲れた表情で帰ってくる。


幸之助「おお、葉月おかえり」

葉月「ただいま、じいちゃん」

幸之助「なんじゃ? 今日はやけに疲れているようじゃのう? 学校で何かあったか?」

葉月「それが……聞いてくれよ、じいちゃん」


葉月、拝殿の石段に座りあったことを話す。


葉月「かくかくしかじか……で、昨日のあれが……」

幸之助「ほうほう……それはまた大変じゃったのう」

葉月「眼鏡かけてるのに、やっぱりなんか口説いてくるし……なんでなんだ? どうせモテるなら、女子から好かれたいのに……!! なんで必ず男なんだ!!」

幸之助「仕方ないじゃろう……そういう妖力なんじゃ」

葉月「いらないよ、こんな妖力!! どうせならもっと別の妖力が欲しかったよ!!」

幸之助「別のとは……?」

葉月「例えば……その、あれだ。どうせなら、悪霊を祓ったり、人に呪いをかけたりとか、式神を使えるとか、そういうのかっこよくて、人の役に立ち方なやつ……!!」

葉月<それこそ、陰陽師みたいだけど……>

幸之助「ふむ……なるほど。まぁ、別にできなくはないが……」

葉月「え、そうなの?」

幸之助「お前は狐の子じゃし、それにわしの孫じゃ。修行をすればなれないこともないじゃろう」

葉月<そうなのか……知らなかった>

幸之助「それにしても……その陰陽師————安倍麟太郎といったか」


幸之助、廃校があった方の空を見上げて言う。


幸之助「よく生きて帰ってこられたのう……もしかしたら、まだ若いが、そうとうな才能を持っているかもしれんぞ?」

葉月「相当な才能?」

幸之助「あまり近づかん方がいい。本人はお前に惚れて、見逃してくれておるが、あいつの背後にいるやつがどんなやつかわからんからな。何も悪いことはしていなくても、お前は半妖といえど狐の子。祓われてしまうことも、なくはないからのう」

葉月「…………そうだね」

葉月<もう絶対、関わらないようにしよう……うん>


葉月、深くうなづく。





◼️場面転換(学校/校内掲示板の前/翌日放課後)


『妖怪、幽霊、怪奇現象その他なんでも情報求む』と書かれたポスターの前に立ち、同じ内容のビラを葉月に見せる麟太郎。

葉月、真っ青な顔でそれを手に取る。


麟太郎「————というわけで、手伝ってくれ!! 葉月」

葉月「なんで!?」

麟太郎「うちの師匠に聞いたら、妖怪退治には妖怪を連れて行くのが一番いいって話でな……!」


にかっと笑う麟太郎。


麟太郎「あと、ついでに俺と交際してくれると助かる」


葉月<なんでええええええ!?>



(第2話 終わり)

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