第4話
▶第1話のシナリオ
◼️場所(神社/過去/夕方)
狐の仮面をつけた4、5歳の葉月が境内に座っている。
同じ年くらいの近所の子供二人が、その仮面を指差す。
子供A「どうして、お面をつけているの?」
子供B「変なの、外してこっちで遊ぼうよ」
葉月「変じゃないよ。外しちゃいけないの」
子供A「どうして?」
葉月「僕の顔がみんなと違うから」
子供A「どんな風に? どう違うの?」
子供B「見せて! 見せて!」
葉月「ダメだよ。僕の顔を見たら、みんな、僕を好きになっちゃうから」
子供A「ならないよ! いいから見せて!」
子供たちが葉月の仮面を取ろうとする。
葉月「ダメだってば……!」
子供B「見たい見たい! ちょっとくらいいいでしょ?」
葉月「……ちょっとだけ? ちょっとだけなら……でも、ちょっとだけだよ?」
子供A「見せて! 見せて!」
仮面を取って、葉月の顔を見る子供たち。
子供B「うわぁ……」
子供A「すっごく綺麗……」
葉月の美しさに魅了されて、もっと近くで見ようと顔を近づけてくる。
葉月「もう終わり! はなれて」
子供A「嫌だ! もっと見せて!」
子供B「こんなに綺麗なのに、隠さないで」
子供A「ねぇこんなところにいないで、ぼくの家に行こう?」
子供B「何言ってるの! おれの家だよ!!」
子供A「ぼくのだ!」
子供B「おれのだ!!」
取っ組み合いの喧嘩になる二人。
葉月は仮面をつけ直し、仮面の下で泣いていた。
葉月<ああ、まただ。ほんの少しだけでもこの顔を見ると、僕のことを欲しがる。僕の顔がみんなと違うから……>
子供たちが喧嘩をしていることに気づき、母親たちが来る。
母親A「こら! 何を喧嘩しているの!!」
子供A「ママ! ぼくはこの子と遊びたいだけなのに、あいつが邪魔してくるんだ!」
子供B「邪魔をしてるのはお前だろ! おれが遊ぶんだ! おれがこの子と一緒にあそぶんだ!」
母親B「やめなさい! 二人とも!」
母親B、葉月を睨みつける。
母親B「また人を誑かしたのね……この化け物!!」
葉月<そう、僕は人間じゃない>
母親A「この子、まさか例の……?」
母親B「そうよ、狐の子よ。もう何人も、この子の顔を見ただけで気が狂っているのよ!」
母親A「いやだわ、気持ち悪い」
葉月<ほんの少し、目を合わせただけで、みんな僕に魅了されて、僕をどうにかしようとする————>
母親B「それも、みんな男ばっかり。お向かいの長谷川の旦那さんも、こないだ引っ越して行った塩田のおじいさんも……」
母親A「いやだわ……恐ろしい。気持ち悪い。もうここへ近づいちゃだめよ」
子供A「いやだ! いやだ!! あれが欲しい!! あの子が欲しい!!」
子供B「おれのだ!! おれのだ!!」
泣きわめく子供たちを連れて、母親たちは神社からさっていく。
葉月<またか……僕は誰のものでもないのに。何もしてないのに……>
◼️場面転換(神社/現在/昼間)
神社の境内の落ち葉を箒で集めて山を作っている葉月。
仮面ではなく眼鏡をかけている。
葉月「ふー……もう少しかな」
綺麗に片付いて満足気な葉月の前に、祖父・幸之助が現れる。
幸之助「おお、すまんのう、葉月。だいぶ綺麗になったのう」
葉月「じいちゃん、今日くらい休んでてよ。病院行ってきたばかりなんだから」
幸之助「ええんじゃよ。毎日やらんとのぉ、神様のご加護が薄れる気がして不安なんじゃよ」
箒を取ろうとする幸之助。
何もないところを掃こうとする。
葉月「まったくもう……無理しなくていいのに」
葉月<じいちゃんももう歳だし、僕がなんとかしないとな。でも……あやかしの子供って、神職につけるんだろうか……>
葉月「ねぇ、じいちゃん、僕がじいちゃんの後を継ぐにはさ————」
葉月の声を遮り、麟太郎が叫ぶ。
麟太郎「頼もーーーーーーーーう!!」
葉月「!?」
麟太郎、手に弓を持って境内に乗り込む。
葉月<弓!? え、な……なんだこいつ!!>
麟太郎「この神社に、人を惑わす狐の化け物がいると聞いた!!」
葉月が集めた落ち葉の山を踏み荒らしながら葉月に向かって麟太郎歩いてくる。
葉月<あ、ああ、せっかく集めたのに!!>
麟太郎「この陰陽師、安倍麟太郎様が成敗してくれる!!」
葉月「せ……成敗!? 陰陽師!?」
麟太郎「狐はどこだ!? どこにいる!?」
麟太郎じっと葉月を見つめ、葉月の前でピタッと止まる。
麟太郎「あと、お前、美しいな。いや、可愛くないか?」
葉月「へっ!?」
葉月<な、なんだこいつ!! ナンパ!? 成敗ついでにナンパ!?>
麟太郎「めちゃくちゃタイプなんだが……お名前は?」
葉月「か……葛西葉月です」
麟太郎「葉月……うん、いい名前だ」
麟太郎、葉月の手を取る。
麟太郎「それで、狐の化け物はどこに?」
葉月「え……」
幸之助「陰陽師とやら、目の前のそれがそうじゃが?」
麟太郎「な、なんだと!?」
麟太郎、葉月から離れて矢を向ける。
葉月「ちょっと、じいちゃん余計なこと言わないで!!」
幸之助「何をいってるんじゃ。お前が狐の子なのは本当のことじゃろうが。それで、陰陽師とやら……」
麟太郎「な、なんだ!!」
幸之助「この子が、うちの孫がお前さんに何かしたかのう?」
麟太郎「え!? いや、俺は何もされてはいないが……」
幸之助「では、なぜ成敗しにきた? なぜ矢を向けておる?」
麟太郎「だって、化け物なんだろう!? 妖怪なんだろう!? 人を惑わす狐の妖怪だって……————今だって、その妖術で俺の心を鷲掴みに……」
麟太郎、もう一度まじまじと葉月を見る。
麟太郎「いや、お前本当に可愛いな。なんなんだ。やめろ、変な妖術使うの!」
葉月「つ、使ってないよ!! 僕は何もしてない!!」
葉月<お、おかしいだろう!! 直接目を合わせなければ、何も起きないはずなのに…………なんで!?>
幸之助「そうじゃ。この子は何もしとらんぞ? 眼鏡も外しておらんし……お前さんは妖術にかかってなんておらん」
麟太郎「そ、そうなのか!? いや、でも、それじゃぁこの胸の高鳴りはなんだ!?」
葉月「じ、じいちゃん、どうなってるんだ? 僕の妖力強くなってるのか!?」
幸之助「いやいや、そんなことはない。なっていたとしても、五秒が三秒に縮んだくらいじゃ。その特殊な眼鏡が封じているからな、直接じゃないと無理じゃ」
葉月「じゃぁ、なんで!?」
幸之助「そりゃぁ、あの陰陽師とやらがお前に一目惚れでもしたんじゃろう」
葉月「はぁっ!?」
葉月<この眼鏡のおかげで、僕の妖気でおかしくなる男はいなくなったのに……なんで!? なんで、なんで僕に惚れる!?>
麟太郎「と、とにかく!! 何かしたんだろう!? そうなんだろう!? 俺は早く妖怪をたくさん退治して、一人前の陰陽師にならなければならないんだ!! 悪いが、ここで死んでもらうぞ!!」
葉月「ふ、ふざけるな!!!」
葉月<何もしてないのに、勝手に惚れられて、退治されるとか意味がわからない!!>
葉月、箒を刀がわりに構えながら怒る。
葉月「何もしてないのに、ただそこにいるだけでどうして退治されなきゃならない!! おかしいだろう!! 退治するなら、悪いことをした妖怪とか悪霊にしろよ!!」
麟太郎「……確かにそうだな」
葉月「……へっ?」
麟太郎、弓を下ろし、自分の顎に手を当て考える。
麟太郎「確かに俺もおかしいと思っていた。妖怪だって、悪いことをしてないなら退治する必要ないよな。うーん、でもそうなると、妖怪退治をしてお師匠に一人前の陰陽師として認められるという俺の目標はどうしよう……」
葉月<な……なんだこいつ>
麟太郎「すまないが、他に退治しても良さそうな妖怪や悪霊を知らないだろうか?」
葉月「それだったら、橋を越えてすぐの廃校に人を食う妖怪が出るって話があるけど……」
麟太郎「なに、本当か!? では、そっちに行くことにしよう!! ありがとうな!!」
にかっと笑って麟太郎、去って行く。
葉月「な、なんなんだあいつ!!」
幸之助「まぁまぁ、そんなに怒るな葉月。若気の至りじゃ」
葉月「でも!」
幸之助「もう二度と会うこともないだろう……あの廃校にいる妖怪は、相当な手練れでないと祓えんし」
葉月「そ……そう、そうだよね!!」
葉月<そうだ、妖怪に食われて死んでしまえ!! 何が陰陽師だ!! バカめ!!>
◼️場面転換(学校/教室/翌朝)
黒板の前で転入生として紹介され、鼻の頭に絆創膏を貼った麟太郎が教師の隣に立っている。
教師「えー、今日からこのクラスの一員になる安倍麟太郎君だ。みんな、仲良くするように」
葉月<…………嘘だろ!?>
(第1話 終わり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます