紙粘土の肉じゃが

ファンラックス

第1話

肉じゃが


 俺は肉じゃがに恋をしている。今も、肉じゃがが食べたくて食べたくてたまらないのだ。

 しかし、困った事に俺は料理ができないのだ。

 どうすれば良いか…試しにお母さんに相談してみると、「紙粘土で肉じゃがを作ってそれを食べればいいんじゃない?」とお母さんは言った。

「成る程、それなら僕でも肉じゃがが作れる!!」


 そうと決まれば善は急げ、小学校の頃にとっておいた紙粘土と水性絵の具で肉じゃがを作る事にした。

 黄色の絵の具をこね、まあるくした後、形を少し崩し、俺はじゃがいもを作った。しかし、まだ何か足りない…


 俺は下の階に行き、お母さんにこう言った。


「肉じゃがって、じゃがいもと、何で作るんだっけ?」


 お母さんはため息をつき、こう返した。

「アンタは挽肉が入っていない肉じゃがを肉じゃがと呼べるのかい?」


 そうか、挽肉が足りなかったのか…


 俺は、2階の自分の部屋に戻った。赤色と茶色のの絵の具を混ぜ、紙粘土によく色をつけ、よくこねた後、挽肉を作った。

 しかし、まだ何かが足りない…


 俺は一階の母にふたたび聞いた。

「肉じゃがって、じゃがいもと挽肉と後何で作るっけ?」


 母は再びため息をつき、俺に言った。

「糸こんにゃくはどうした?肉とじゃがいもだけの肉じゃがなんて物寂しいじゃないか…」


 そうか…糸こんにゃくが足りなかったのか…


 俺は再び部屋に戻った。紙粘土をこね、細長くし、俺は糸こんにゃくを作った。ようやく肉じゃがが完成した!!

 俺はそのまま肉じゃがを頬張る。しかし俺の作った肉じゃがは味がしなかった。


 俺はそのまま一階に行き、母に怒鳴り散らした。

「紙粘土でで肉じゃがを作ってもなんも味しねぇじゃねぇか!!」


 母は俺の方をゆっくりと見た後、こう告げた。

「アンタ…脳みそが、足りとらんのや…」

 そう告げる母の目には涙が浮かんでいた。


「アンタは、いつになったら働きに出るんや…!!」

 俺は小学生の頃から不登校だった。そんな俺の唯一の楽しみは、母の肉じゃがを食べる事…それだけだった。

 しかし、今年で俺も34歳。その間、ずっと俺は母に寄生していた。日に日に弱っていく母の事を考えようともせずに…


「俺はただ肉じゃがが食べたい、それだけなのに、俺ははどうしたらええんや…」

 俺は悲しくもないのに、涙が溢れていきた。


 すると母が、机の前に座る俺にじゃがいもの入った器を用意してくれた。

「これ食べて…元気だしさ。そうしたら、自分の為になるような事をしなさい」


 あぁ…これが愛情という奴か…

 俺は目から溢れる涙を抑え、肉じゃがをかきこんだ。


「アンタが動くにはこれしか無かった…」

 俺はそのまま地面に倒れ、動かなくなった。



 

 

 

 

 

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紙粘土の肉じゃが ファンラックス @fanracx

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