そのダンサーは、寂しがり屋!

崔 梨遙(再)

1話完結:1900字

 僕が30代の前半だった頃のお話。僕は、夜の街で真理亜という年上の女性と知り合った……。



 真理亜はダンサーだった。


 

 元々、真理亜は裕福な家庭に生まれ、何1つ不自由なく育った。学生時代は普通に恋愛し、他の女子と同様、男性を知った。留学をしたこともあった。留学先では日本人以外の男性も知った。真理亜は、それが普通だと思っていた。友人も同じ様な人生を辿っていたから、自分の人生に間違いは無いと思っていたのだ。大学もお嬢様大学、誰もが認める美人、小柄(156~157センチ)で小顔、スタイルも良かった。ずっとモテてきたので、ちょっと天狗になっていたのかもしれない。



 真理亜が大学の3年生の時、お見合いをすすめられた。相手は開業医、真理亜は恋愛結婚が出来るとは思っていなかった。結婚相手は親が決める。それは仕方が無いと思っていた。親がその開業医を気に入っていて、真理亜から見ても特に文句のつけようがない相手だったのでお見合いすることになった。


 お見合いは上手くいった。相手の開業医が真理亜のことを気に入ったようだ。トントン拍子に話は進み、真理亜の大学卒業を待って結婚することになった。


 問題はそこから。結婚式の招待状を送ってから、婚前旅行を楽しむことになった。だが、そこで婚約者の開業医はひどく落ち込むことになった。理由は、真理亜が処女じゃなかった、ただそれだけのこと。


「俺は君が処女だと思っていたのに」

「私、“自分が処女だ”なんて言ってなかったでしょう? 今時、この歳で留学までしていて処女なわけがないやんか」

「妻にするなら処女が良かった」

「ほな、婚約破棄する? 私はそれでもええで」

「いや、もう式の招待状を送ってしまった。婚約破棄はカッコ悪いからできない」


 それから、なんとか無事に結婚。結婚した翌年、24歳で最初の子を授かった。2年後、また1人子供を授かった。問題はそれからだった。2人目の子を出産してから、開業医の旦那が真理亜を抱こうとしなくなったのだ。夜の営みが完全に無くなった。だが、真理亜は若かった。性欲もある。


 真理亜は、あの手この手で旦那を誘った。色気のある下着を着たこともある。ピルを飲んだ。そして豊胸手術もした。CカップがEカップになったらしい。それでも、旦那は頑として真理亜を抱かなかった。それもスゴイと思う。旦那は浮気をしていたのだろうか? 旦那にも性欲はあるはずなのに。


 で、30歳を過ぎた頃に、真理亜は“趣味を持とう”と思った。趣味に没頭できれば、性欲を忘れられるかもしれない。真理亜が選んだ趣味は社交ダンスだった。


 それは、真理亜の人生の転機だった。真理亜は年下のパートナーと深い関係になったのだ。真理亜はパートナーの男性にのめり込んだ。のめり込んだ結果、浮気が旦那にバレて離婚。ただ、何年も夜の営みを拒否した負い目が旦那にあったので、まあ、円満離婚が成立したという。


 真理亜は自分の親に高級マンションを買ってもらい、生活費だけ稼げばいい状態になった。だが、普通のOLをやっていたのではダンスの費用が足りない。真理亜はホステスの仕事をするようになった。


 真理亜はダンサーとして認められるようになったが、そこで問題が発生した。パートナーの男性に飽きられたのだ。もしかしたら、飽きたということ以外の理由があったのかもしれないが、パートナーは真理亜と別れて違う女性と組むらしい。


 パートナーに捨てられたくない真理亜は、一時期、パートナーの言うことに全て従った。最も真理亜が嫌だったのはスワ〇ピング(パートナー交換)を強要されたことだという。自分のパートナーが他の女性と営んでいるのを見ながら、好きでもない男性に抱かれなければいけなかった。涙が出るくらい苦痛だったらしい。


 そこで、真理亜は崔と出会ったのだ。崔と出会い、パートナーに対する執着心が薄くなり、やがてパートナーと別れた。そして、今はパートナー募集中。



「……というわけで、今、崔君に抱かれてるねん」

「ふーん、そうやったんや」


 真理亜のマンション、僕は連日、真理亜の部屋に泊まっていた。僕は、布団の中、全裸の真理亜を抱き寄せてキスをした。真理亜の心の傷が早く癒えるように、抱き締めるだけ、ただ抱き締めるだけだった。真理亜の心をどれだけ癒やせているのか? わからないのだけれど。とにかく真理亜は寂しがり屋なので、僕は真理亜が少しでも寂しくならないように気を遣った。大会の動画を見せられたとき、真理亜は赤いドレスで鮮やかに舞い踊っていた。僕は、早くまた舞い踊ってほしいと思ったのだった。







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そのダンサーは、寂しがり屋! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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