ココアなのに甘くない

上鳥居 と ネコミュー

第1話




題名。 ココアなのに、甘くない。

       呪の人形



名前。    ネコミュー




人形とは、人の形を模した物、または、

比喩的に、主体性がないさま。









鳥のさえずり、秒針の音、心地よい包丁がまな板を叩くリズム。


朝、目覚まし時計がなる前に、起きてしまう、それはきっと母の毎日同じ朝を作り出してくれる、愛の賜物。

 

清々しい朝、私は伸びをして、ベットから転がるように降りて顔を洗いに洗面台へと向かう。



私はあくびをして、寝ぼけた様子で、母(清水恋人、きよみずこーひー)に声をかける。

「ふぁー、お母さんおはよう。」



「心愛、早起きね。」 

母のいつもと変わらない声のトーンが、私は好きだ、旅に出たことはないが、故郷に帰って来たような温もりを感じる、この母の凄さが大人になって母になってみないとわからない事の一つなのだろう。




何時もと同じ朝を繰り返し、私は高校に向かうのだった。



寝坊助の弟を急かしながら、「ほら、遅刻するよ男子凛(ダージリン)。」


「何だよ、去年までは姉ちゃんにつかまって、通学出来たのに、高校生になちっまてよ。」


「あんたね、中学二年にもなって、お姉ちゃんに、おんぶにだっこしてもらうなんて子いないよ。」



「おんぶもだっこもしてもらってないけど?」


「違うよ、ベタベタしないって事よ。」



ふん、と言いながら男子凛は道を曲がって行った。


「行ってらっしゃいは?」


「はい、はい、じゃあね、姉ちゃん。」



まったく、お姉ちゃん大好き過ぎる弟を持つと苦労するな、と私は微笑んだ。



ホームルーム前の、朝の教室はやけに騒がしかった、入学式後のしばらくは静かで、それはそれで気が滅入ったが、近くの席の人と皆が仲良くなり、うるさい日常が再開されていた。



前の席の花菜ちゃんが振り向く、「心愛、聞いて聞いて。」



うんうんどーしたのと私は頷く、そして花菜は頷く姿も見てないでしゃべり出す。


「去年、この学校飛び降りが、あったみたいだよ。」


「え? みたいなの、あったのどっち?」


「あったの。」


「あったのか、ニュースになってたから知ってるよ。」


「なんだー知ってたか、その飛び降りのせいで、何人か新入生減ったらしいよ、いやー同級生減って寂しいね。」


「まぁー。」



「なーにーその、素っ気ない返事は。」


なんとも言えない表情の私に花菜は、肘で突っついて来た。



ガラガラ、教室のドアが開き、担任の一声で、生徒たちは席につく。



ホームルームの、内容をBGMに私は飛び降りの事を考えていた、やっぱりいじめとかあったのかな?と。




放課後。


私は知り合いの先輩の部室に顔を出した。



「あら、心愛じゃない。」



「先輩。」

山本 茜さんは近所に住む一つ上の女性で、新聞部に入っている。



「茜先輩なら、去年の飛び降りの事、知ってますよね?」


「何よ、藪から棒に、

まぁーちょうどいいかな、それ、新しい七不思議の一つなのよ。」



「新しい?」


「そーなの。音楽室でベントーベンの目が飛び出るとか、人体模型が、タップダンス踊るとか、うち(梅吹雪高校)には、数々の訳のわからない、七不思議がっあって、その飛び降りが新しい七不思議、七夕の飛び降りよ。」



「何で、七夕なんですか?」きっと7月7日に起きたのねと、私はあんちょこに聞いてみた。



「飛び降りたのが、7月7日だから…

ではなくて。」



「違うんですか?」



「そう、織姫と彦星が突き落とした、らしいのよ。」



「らしい、ですか?」


呆れた顔を隠せない私に。

「まぁー、ともかく、目撃者がねいたのよ。」



「本当に飛び降りがあったんですよね?」

もう、ここまで来ると全て嘘なのではと思う内容だ。


「ニュースになったでしょ?」



そーだった‼️

「あまりにも、織姫とか彦星とかが現実離れしていて。」



「そーよね、ちゃんと調べているわよ、その時は9月で学園祭の準備をしていたから、その関係でそんな格好していたのよ。」


「と、言うことは、犯人はカップルですか?」



「さぁー、分からないわ。」



全然調べてない。と、思ったけど口には出せなかった。



「まぁー、本当の話しすると、飛び降りた子は、朝日 夕子さんって、手芸部の当時二年生だったんだけど、学校側はいじめはなく、事故と結論付けてるわ。」



「ちゃんと、調べてるんですね。」


「まぁーね、でも、先輩方の話しもちゃんと聞けてないのよ、その時、3階の手芸部の部室には夕子さん以外に三人の生徒がいたんだけど、三人とも気付いたら夕子さんは居なくなってて、そして、飛び降りたと言ってるの。」



「部室から、突き落とした、とか、そういう事ですか?」


「なぁーに、物騒ね。」



「え?それを疑っているんじゃないんですか。」



「違うわよ、屋上から落ちたらしいから。



「やっぱり、自殺ですか?」



「うーん?どーかな、あれ?夕子さんは死んでないわよ、両足骨折して、今はまだ車椅子みたいだけど、リハビリすれば、歩ける様になるらしいわよ。」



「え。」



「え。じゃないわよ。」



とんだ、七不思議だ、生きてて良かったけど、ホラーとしては、失格だ。


「じゃあー、本人から話し聞けるじゃないですか~。」



「ちょっと、複雑で事故以来学校に来てないし、転校したみたいなのよ。」



きっと、ただの事故か自殺だったんだ、いじめとかあったかも、だけど、今は他の所で元気に暮らしてくれていれば、それでいいじゃないかと、私は思った、そして、この事件の事は、そっとしておこうと。




朝。

鳥のさえずり、秒針の音、心地よい包丁がまな板を叩くリズム。


私は、目覚まし時計よりも早く起きる。



「ふぁー、お母さん、おはよう。」



「あら、心愛早いわね、男子凛起こして来て。」



「うん。」



何時もの、毎日が始まった。





家を出ると、弟が付いて来る。

「ちょっと、今日は開校記念日休みでしょ、家に居なさいよ。」



「何言ってるんだよ、姉ちゃん、遊びに出掛けてるだけさ。」



「そー、ならい行けど、このまま学校まで付いて来たりしないわよね?」



「何言ってるんだよ、姉ちゃん、遊びに出掛けてるだけさ。」そう言いながら、バスにまで付いて来る。


本当に姉好きの、弟を持つと苦労します、もう、慣れっこだけど。


中学二年生の男の子が、姉の高校まで付いて来るなんて考えられますか?

いいえ、私には、まったくもって理解出来ません。




駅から、梅吹雪高校行きのバスに乗り、私はため息をついた。


「もう、男子凛学校には、入れないからね、一応部外者何だから。」


「何言ってるんだ、姉ちゃん入らないよ、再来年行くことになるかも知れないし、下見だよ、下見。」



「ふーん。」



バスの奥で、女子高生が叫ぶ。


「きゃー、何?なんなの?夕子なの?なんでよ。」



弟が両手を広げて、私の前に立つ、ちょっと私を守ってるつもり?



背は私と同じ…いや、最近少しだけ大きくなってきたかもだけど、まだまだ私の方が強いんだからね。


叫んだ、女子高生は何かを蹴ってバスを降りてしまった。



「姉ちゃん。」


弟はそれを拾い上げた。



小さな、人形だった、毛糸で作られた手作りの人形、青い髪のサーカー選手ぽいユニホームの人形。



「それ、ちょうだい。」



私は、放課後その人形を持って、また、先輩の部室に向かった。


朝あった事を話すと、先輩は私の手を掴んで、走り出した。



「ちょっと、茜先輩?」



三年生の教室を前にして、茜先輩は振り返った。


「行くよ。」



「え?」



ガラガラ。



星宮 京子さん、今朝のバスで叫んで降りた女子高生だ。


茜先輩と私が前に立つと、星宮 京子は、のけ反りおののいた。


「なんなの、あなたたちは。」



「私は、新聞部の山本です、この人形について、教えて下さい。」


きゃっと、悲鳴を上げると人形をはらわれて、床を転がった。


「なんなのよ、あなたたちは、そんな不気味なもん、持って来ないでよね。」



「あの人形なんなんですか?」



「知らないわよ。」



「知らないのに、そんなに怖がりますか?」



「うるさい。」そう言うと、走って教室を出ていってしまった。



私は茜先輩のひじを引っ張った。

そして、鋭く刺さる視線に負けて、教室を逃げ出した。



廊下の端っこで、丸くなる私たち。


「人形を見て、夕子って言ったのよね?」


「はい、確かに聞きました。」


「なんなのかしら、この人形。」


三年生の教室から、一人の生徒がこちらに、向かってくる。


私たちの前に、立ちはだかる一人の男子生徒、無表情の顔なのに、やけに強ばって見えた。



「どうも、星宮たちなんだけどさ。」


たち?私たちは首を傾げる。



「…今、星宮の友だち学校に来てないんだよ、星宮今一人なんだ。」


「一人とは?」茜先輩が質問する。


「1ヶ月前くらいから、笹木と前田が学校に来てなくて、あ、二人とも星宮の友だちなんだけど、噂だと、人形がどーのこーのって、で、夕子がどーのこーのって。」





的を得ない話しだったけど、ここは二人に会いに行くことにするべきだと私は考えた。



市内の病院。


「で、何であんたまで来んのよ。」



「何だよ、姉ちゃん。」



本当に、姉好きの、弟を持つと苦労する。



「いいじゃない、男子凛くん久しぶり。」


何故か、茜先輩は嬉しそうだ、何故かは考えない事にした。



受付で、笹木さんの病室を聞き、お見舞いのふりをして潜入する。


笹木さんの、病室の前につき入ろうとした時、言い争う声が聞こえた。



「夕子よ、あの人形は夕子なのよ。」


「バカなの?あんなの何でもないただの人形よ、私もバスの中にあったから、蹴っ飛ばしてやったわ。」


「京子、私燃やされたのよ。」


覗くと、手に焦げた何かを持っていた。


きゃー、と叫ぶと星宮はその何かを窓の外に投げて、私たちに気付くことなく病室を飛び出した。


突然。笹木が狂ったように笑い出す。

「あはは、あはは、あはは、あはは、あはは、ぎゃはは、ぎゃはは。」



「姉ちゃん、話し聞ける状態じゃないよ。」弟の引きつった顔を見て、こんな所に居てはいけないと、弟の耳を塞ぎ病室を後にした。




笹木の回想 


私の両親は共働きで、家に帰っても誰もいない、暗い玄関を開けて、これから帰ってくる両親の為に電気を付けといてあげる。 


冷蔵庫に晩ごはんがある時は、出来るだけ食べるようにしている、残して文句言われるより食べて片付けてある方が、母も疲れないからだ、私は小さな気づかいで疲れるのだが、正解なんてわからない、その方がいいかなってしてるだけ。


友達の京子にも合わせている、ただ一緒になって笑ってあげてるだけ、何をしてるかなんて関係ない、それが正しいとかなんて関係ない、ちょっと大人しい夕子をからかっているだけ、私は何も考えず一緒に笑ってあげるの。


でもね、こんな事にはなるなんて。 


 

夕飯をレンジで温めていると、音がしたの、疲れて椅子に座っていて、面倒だからそのままにしてたら、何かが袖を引っ張るのよ、なんなのってなるじゃない。


振り払ったらそれが結構飛んでコンロのところに落ちたの、火なんて使ってないから気にしないけど、母が見つけたら、燃えて危ないって怒らちゃうって、ゆっくりと取りに行ったの。


あれ? 


ってなるじゃない、だって夕子が付けてたマスコットがそこにあるんだもん、マスコットって袖引っ張るとか、出来ないじゃない、気持ち悪かったけど、コンロにそれがあったら、怒られるから取ろうとしたの。



ガシッ。 



掴まれたのよ、私が掴むんじゃなくて、あの軽いマスコットが私の腕を掴んだのよ。  

「え、何?なんなの。」  



そこからはもう、よく覚えてないけど燃えたよね、よく、燃えたよね、私の腕とマスコットがさ。 





「あはは、あはは、あはは、あはは、あはは、ぎゃはは、ぎゃはは。」






帰り道。

「茜先輩ごめんなさい。」



「いいのよ、私もあれは近付けないわ、男子凛くんは、大丈夫?」


「お、おう、あれくらい平気さ。」顔がまた、引きつっていた。




前田さんの家の前に着いてしばらく、家を眺めていた。



笹木さんのあの様子を見て、前田さんに会うのをためらっていた。



ガチャ。玄関の戸が開き、四十代の女性が顔を覗かせる。「何か、ご用ですか?娘と同じ学校の子でしょ?制服で分かるわよ、うちに来てくれてる子じゃないみたいだけど。」



茜先輩が前に一歩踏み出し、力強く頼んだ。「お話しをお聞きしたいです。」




女性はしばらく、止まって考えていたが、深く頷いてくれた。



リビングに通されて、お茶を出してくれた。


おぼんをひざに抱えて、話をしてくれた。



「初めわね、ただ、人形があっただけなんですって…そう、初めわね。」



ごくり、弟の唾を飲む音が聞こえた。



「娘は、怖くなかったって、ただの嫌がらせ、きっと誰かの悪ふざけ、あの人形は、夕子さんって子が、手芸部で作って、親しい人にあげていたから、沢山作ってあって、どこにでもあるんだって。」



茜先輩が手に持つ人形をそっと見つめた。



「そう、その人形、でもね、下駄箱、家のポスト至るところに置いてあって、さすがに変だって思ったら、部屋をノックするって言うのよ、娘が。」



女性は無表情のまま、話を続ける。



「でね、娘変になっちゃったのよ。」


顔を両手で塞ぎ泣き出した。


「う、う、娘ね、おかしく、おお、おかしくなったのよ、居るって、居るって言うのよ、人形じゃなくて、夕子さんが。」



私は、弟を掴んで、お邪魔しましたと言って、走り出した。

「ご、ごめんなさい。」



どうやって、家を出たのか覚えていない、必死にリビングから、廊下に出て玄関まで走った、ドタバタと大きな音を立てて、迷惑も考えず、でも、見てはいけない、聞いてはいけない話をされているようで、とても気味が悪かったのだ。


「ゴホッ、ゴホッ。」

三人ともむせていた。



「なんなんだよ、姉ちゃん、こえーよ、病室の人も、あのおばさんも、どーなってんだよ。」



「帰ろう、心愛、早く帰ろう、今日心愛の家泊めてね。」

何でだー?

と、言えなかった、私も怖かった。



「いいですけど、茜先輩、人形持ってますよね?」


「はい、持ってます、このまま心愛の家に置いていきます。」



「おーい。」




夕方。

我が家に着く。



母が向かえてくれた。

「山本さん、お久しぶりね。」


茜先輩が、深々と頭を下げる。

「お久しぶりです、心愛ちゃんが一緒の高校に来てくれて嬉しいです。」


「あら、二年後は息子の男子凛も行くと思うから、よろしくね。」


「はい、その頃には、卒業してますけど。」


「あら、私ったら、あはは。」



母の、清水 恋人(きよみずこーひー)は少し天然の様だ。


「ただいま~。」



父の、清水 茶太郎(きよみずちゃたろう)がかえって来た。


「おお、山本さんお久しぶり。」



「お久しぶりです。」



「茜先輩、めんどくさい家族だと思わないで下さいね。」


「そんなこと、ないじゃない、じゃあ私は帰るわね。」



「え?茜先輩泊まるんじゃないんですか?」


「あれは、冗談よ。」


「そっか、心配してくれたんですね、茜先輩だって怖くないんですか、居てくださいよ。」


「いいのよ、帰るわ。」



母も何かを察してか声をかける。 

「待って、山本さん、ココア飲んでいって。」



そっと、マグカップが置かれた、優しい湯気が上がっている、うちの母が淹れてくれるココアは美味しい。



大丈夫、この美味しいココアが飲めたら、元気だからと言って、茜先輩は帰って行った。



とても、心配だと悩みながら私は、部屋でゴロゴロし始めた。



コンコン。

「姉ちゃん。」



コンコン。

しばらく無視をしていたが、弟が入って来た。


「ちょっと、返事してないぞ。」


「そーだよ、逆に心配だから開けたよ。」



これだから、お姉ちゃんを大好き過ぎる弟を持つと苦労する。


「怖いの?」



「な、なに言ってんだよ平気だよ。」



久しぶりに、弟と一緒に寝ることになった、これでお化けが出ても安心ねって、なるかーい。




その夜、私は目を覚ました、薄暗い部屋を見渡し何故か一緒に寝ていた弟はいなかった。

 

あれ? 

と、横に手を伸ばし軽く叩いて見る、やはり誰もいない一人だ。

「もう、怖いって言いいながら部屋に戻ったのね。」  



ボトッ。


何かの落ちた音がしたドアの方を咄嗟に見てしまった。 


ドアノブが回る。


いつもなら鳴らない、ぎーっという音を立ててドアが開く。 



目をそらせられない、瞑る事も動く事も出来ない、ただ開くドアを見せられている。 


そして、ドアの上部から、何かが落ちる。 


ボトッ。 



あの、マスコットだ。 



ボトッ。ボトッ。ボトッ。 


何度も、何個も落ちて床に転がっている、目がそらせない、動けない。 




「姉ちゃん、朝だよ起きて。」   


「うわー。」

私叫びながら目覚めた、夢?夢だったのよね。


「大丈夫か姉ちゃん?」   



「うん、起こしてくれてありがとう、変な夢見た。」   


「良かった、ほら姉ちゃんこっち向いてよ。」 



振り向くと、血だらけの弟がいた。 



「きゃー。」  



私は、飛び起きた。 


横にいる弟は血だらけではなく、今までの事が夢だったと気付く。 


息がまだ上がっている、胸が苦しい。 


「う〜、どうしたの姉ちゃん、もう、朝?」  



「うん、ごめん変な夢見て、叫んじゃった。」  



「まだ、4時じゃん、僕もう少し寝るね。」  

弟はすぐさま眠りについた。 



私は、眠れそうにないけど、朝までこのまま、弟の隣でじっとしている事にした、ジトッとした汗をパジャマを掴みパタパタ動かし、乾かしながら。 





朝を向かえて、家を出る。「姉ちゃん、学校まで送るよ。」



「いやいや、過保護の彼氏か?大丈夫だから。」



「わかった。」

弟は、道を曲がって行った。


やけに、素直な感じだったけど、こっちが心配になるよ。


バスに乗ると、奥の席に星宮先輩がいた、昨日の笹木先輩と前田先輩、正確には前田先輩のお母さんには、とても話が聞けなかった、今まともなのは、星宮先輩だけな気がする、ここは思いきって話を聞くしかない。



「先輩おはようございます。」


「また、あんた。」


昨日の話をした、病室の話し、前田先輩のお母さんの話し。



「何が、起きてるんですか?教えてくれませんか?」



「ふん、良いわよ、でも、全部夕子の仕業よ、夕子がみんなの、前に人形置いて、脅かしているだけよ。」



「でも、聞いた話だと、まだ車椅子でリハビリ中って。」



「ひー。」星宮の顔が

恐怖に、歪む。

「何、言ってるのよ、じゃ、じゃあ誰よ、こんなもの、鞄や机にいれたのは。」


あの、人形をバスの中に放り投げる。



青い髪でサーカー選手のユニホームの人形。



キー、キー、言いながら星宮先輩はまた、学校に着く前にバスを降りて行った。




学校に着くと、前の席の花菜ちゃんが振り向く。

「ねー、ねー、心愛聞いた?」



「何を?」正直私はそれどころではない、人形の呪いにかかりそうだ。



「人形の呪い。」



「え?」



「なんか、最近流行ってるんだって、この前の人身事故で、電車止まってた時、飛び込んだ人が変なマスコット人形握りしめてたらしいよ。」



「何それ?」



「川で上がった、水死体がね、人形飲み込んでたとか。」


「川…電車…一体何が起きてるの?」



もう、めちゃくちゃだ、どれだけ沢山の人が死んだりおかしくなってると思ってるんだ。



人形を作った、本人に会おう、多分それしかない。




「で、何でまた、あんたまで付いて来るのよ。」



「酷いなー姉ちゃん、茜さんにそんなこと言う。」



「あんたよ~、男子凛。」



「うふふ、仲良しね。」



「笑ってないでくださいよ、この事件にもう、弟巻き込みたくないんですよ。」



「分かってる、つもりだけど、きっと、誰よりもあなたを守りたいのよ。」



「二人とも何話してるの?ここみたいだよ?」



私たちは、朝日 夕子さんの家に着いた。


「茜先輩、とうとう決着ですよね?」


「そうね、私たちは生きてここにたどり着いたわ。」


「ラスボス。」


ピンポーン。インターホンを押した。

何か詰まったような、曇った音の様に聞こえた。



留守かと思った、その時、玄関の戸が開いた。



小柄のすごく、疲れた顔の女性が出迎えてくれた。「何のご用ですか?」



「私たちは、梅吹雪高校の生徒です、娘さんとお話しをさせて下さい。」



「…どうぞ、話せるか分かりませんけど、会ってやって下さい。」




二階に上がると、ぼんやりと空を見ている、車椅子の少女がいた。


「夕子さんですか?」



少女は無反応だった。



でも、お母さんは、少し話をしてください、もしかしたら何か反応があるかも知れないので、と、言ってくれた。



どうやら、事故の後遺症か、まったく話をしないし、感情もなくしたようで、丸で人形の様だと、お母さんが教えてくれた。



私たちは、しばらく少女の部屋で過ごした、話しかけたり、寄り添い空を見つめたり、同じときを過ごした。


この少女、そして、お母さんから、人形の恐怖は感じなかった。



少女の、部屋で、寂しく、悲しい時間を過ごした。



「姉ちゃんあれ。」



あの人形、が鞄に付いていた。



「あの~すいません、この人形は、夕子さんが作った物ですか?」



「はい、多分、私が作り方を教えて作ってあげたので、今付いてるのは私が作った物です、髪が青いでしょ?」



「はい、じゃあ、夕子さんが作ったのは?」



「娘が作ったのは、髪が赤い人形です、なんか好きな人がどーとかいって、恋してたんですかね、今となっては分かりませんけど。」

うつむき、手を強く握っていた。




弟は何かを熱心に読んでいた。

「ちょっと、あんた何してるの?それ、日記でしょう?」



「うん、姉ちゃんこれ。」



「大丈夫ですよ、私も読みました、星宮って人たちに、いじめられてた、様ですね、私は、悔しくて、悔しくて、でも、何も出来なくて…ただ、藁人形の代わりに、私の憎しみがこもった、人形を送りつけてやったんです。」



これか、これが呪いの人形か、随分と効果絶大な。



茜先輩がこの部屋に、着いてから、初めて口を開く。「貴女が、娘さんの復習のために、人形 を送り付けて、危害を加えたんですね?」



「はい、悔しくて人形を送り付けて、娘の事を忘れないようにと、何日も憎しみで作った人形を送りました、だって、いいでしょう、それぐらい、娘の悔しさ、苦しさ、悲しさを分かるべきなんです。」



「それでも、燃やしたり、怪我をさせるのは、違うと思います。」




「はい?燃やす?怪我?何を言ってるんです、私は、ただ人形を送っただけですよ。」



茜先輩が、ビシッと人差し指で差し叫ぶ。「その、人形が悪さをしてるんです。」



ぽかーんとした、空気が漂い、しーんと静まりかえる。



「呪いなんて、あるわけないじゃないですか、もし本当なら、本当に呪いがあるなら、呪い殺してやりたいですよ、もう、出ていって下さい。」




私たちは、追い出されてしまった、きっと塩も撒かれただろう。



人形を怖がらせる為に送ったり、した人物は、夕子さんのお母さんで間違いないだろう?


じゃあ、怪我を負わせているのは、誰なのか?



「茜先輩、呪いじゃあないんですかね?」



「さあ、呪いじゃないならなんなのかしら?」




「姉ちゃん、もう、一冊の日記が、あって持って来ちゃったよ。」



「バカ、返しに行かなきゃ、いや、ポストに入れて起きましょう、呪い殺されるかもだから。」



「でもね、姉ちゃん、赤い髪の人形は赤木さんっているの?」



茜先輩が驚く。「赤木先生のこと?日記見せて…これって。」




理科室。



「なんなんです、いきなり、今実験の準備中何ですよ。」

めんどくさそうに赤木先生が、答える。



心愛が、日記を実験室の机に叩きつける。

「赤木先生、東野 明美さんと付き合ってますね。」



「な、な、なにバカな事を言ってるんだっ君は。」



「この、日記に書いてありましたよ、赤木先生を好きな、夕子さんが半ばストーカー的に先生を、追いかけていたから、見付けてしまった真実です。」




「バカな、その子の勘違いだ。」



理科室の扉が突然閉まり、鍵がかかる音がする。


「いいじゃない、また、突き落とせば。」



「明美、もうやめてくれ、誰も僕たちの事に気付いてない、知られてないよ。」



「何言ってるのよ、その女、今ハッキリ言ってたじゃない。」



「もう、誰も傷つけたくないのに、君が悪いんだよ、大人しくしてくれよ。」



赤木先生と、明美の二人がかりで、心愛を押さえ付けて、窓の外に落とそうとしている。


「く。」何故一人できてしまったの私。



「早く、落としなさいよ、夕子は簡単だったでしょ。」



夕子?夕子さんは好きな人に殺されかけて心を閉ざして閉まったってこと?


もう、そんなこと、どーでもいいから、誰か助けて。



ガッシャーン。

「姉ちゃ~~~ん。」


理科室のドアを蹴破り、男子凛と茜先輩とお父さんが入ってくる。



え?お父さんまで、どーしてよ?



「こーこーあーから離れろー。」

茶太郎のソバットが、赤木先生に決まる。




茜先輩の、肘鉄が、明美のみぞおちにヒットする。



私は、助かったのだった。




本当に、お姉ちゃんのことを大好き過ぎる弟と父を持つと苦労する。











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