夜明けと暗闇、そして光
「おはよー、起きて、朝だよ」
んん……。柔らかな、鈴のなるような、しかしか細い声で目を覚ます。
「……おはよう、ネイ」
「おはよう、ルタ」
ネイ、と呼ばれた少女は俺を起こしたら満足したらしく、せっせと朝ごはんの準備をしにキッチンへ向かった。俺も慌ててベッドから起き上がる。
時刻は8時。もうすっかり日も昇って辺りを燦々と照らしていた。しまった、少々寝すぎたな。今日はこの街で過ごす最後の日だったのに。
「ごはんできたよ」
奥からネイの呼ぶ声がする。
「ああ、ありがと」
返事をしてさっさと着替え、顔も洗って食卓につく。
ネイとこうして向かい合って飯が食えるのもあと何回だろうか。
俺たちは、もうすぐ国境を越える。
「ネイ、そろそろ行くよ」
「うん、もう少しだけ」
俺が声をかけると、ネイは名残惜しそうに俺たちがさっきまで暮らしていた小屋を一瞥する。
「もういいの?」
「うん」
またしばらく歩かなければならない。
ずんずんずんずん、ずんずんずんずん。
「ルタ、次はどこへ行くの?」
「もうすぐ国境さ、俺たちの旅の終点」
そうだ、あと三日ほど歩けば着くはずなんだ。
国境を越えられれば、どうにかなると思っていた。
とにかく今は、この街からでないと。
「ルタはなんでこの街からでたいの?」
「君を守るためだよ」
紛れもない本心。そうだ、これは君を守るための逃避行なんだ。危険な化け物から。鼻を切り裂くような匂いの爆薬から。耳をつんざくような銃声から。この世界から。
疲れた。終わりにしたい。
幾度となくそう思った。暗い闇が襲ってくる度にそう思った。君と僕の旅は、途方もない孤独の中だった。唯一、君だけが安らげる光だ。
ネイ、君はどこへゆくのだろう?
君が死ぬまでの記録1-0 瀬川 @segawa_99
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