第5話 敵視の理由
もちろん畑にはバリケードがあった。
今では目も当てられない姿になってるけど、ボアはバリケードを破壊しながら畑に入ったようだ。
ちなみにバリケードには有刺鉄線とか体を傷つけて侵入を拒む仕組みもあるんだが、そんなものお構い無しだ。
(脳筋すぎるだろ、そこまでして畑を荒らしたいのか?)
「この村のことは俺たちで解決する。お前は手を出すな」
スタスタ。
カインは剣を抜いて畑の中に入っていこうとした。
だが、まぁなにを置いても、まずはカインを止めよう。
「まぁ、待てよ。イノシシカインくん」
「はぁ?今やらないでどうするつもりだ?」
「ここであの数匹始末しただけじゃ根本的な解決にはならん」
奴らは腹が減ったからナワバリを出て人里まで飯を食いに来てるだけだ。
普段はナワバリの中にいるだろうし、そのナワバリには今も多くのボアがいるだろう。
つまり、ここに現れているボアは氷山の一角ってわけ。氷山の一角を削っても氷山は消えない。
「今は泳がせて、ナワバリに帰ったところでまとめて全員始末する。仕事は効率的にいこうぜ?」
カインは特に反発することも無く武器をしまった。
「この村を捨ててまで向かった王都での学びは生きているようだな」
「ん?この村を捨てた?」
「お前はこの村がモンスターに襲われやすいのを知っていて王都に向かった。この村を捨てたんだろ?」
あーなるほどな。
こいつが敵意マシマシな理由がようやくはっきりした。
こいつから見た俺は村を捨てた裏切り者ってところか。
(そういうつもりはなかったんだがな)
俺は原作の流れを乱したくなかったから王都に向かっただけなんだが、たしかにそういう風にも見れるか。
「ティアさんは毎日お前の無事と帰りを祈ってた」
「なんでそこでティアの話になるの?」
「俺はティアさんのことが好きだったから、ずっと見てたんだ。何が起きても守れるように」
「うわっ、きっしょ」
カインが目を大きく見開いてた。
「あ、ごめん。うっかり本音出ちゃった」
「何とでも言うといいさ。俺は実際きしょい」
(自覚あるんだな)
「お前に分かるか?毎日好きな人が別の男のことを思ってる姿を見せられる気分。胸が毎日抉られるようだ」
(めっちゃ分かるよ。胸が締め付けられるよね)
俺がどう答えても火に油を注ぎそうだからやめとくか。
でもひとつだけ言いたい。
「嫉妬が重すぎるよ。この村の空気めっちゃ重いよ。ぐえっ、重圧に押しつぶされそうだ」
「ふん。軽口を叩けるのも今のうちだ。俺は嫉妬を武器に強くなった。今じゃこの村の兵団を任される人間だ」
すっと、人差し指で指してきた。
「そして、対するお前は団長の座を下ろされてノコノコと逃げ帰ってきた惨めな負け犬。聞いたところによると素人に負けたらしいな?俺がそんな負け犬に負けるわけが無い」
カインはこう続けた。
「俺はそろそろティアさんに告白しようと思ってた。今の俺とお前、どちらを選ぶと思う?」
「お前の嫉妬深さを見抜かれてドン引きされて終わりに500万」
見なくても分かる。
こいつは重すぎる告白をしてドン引きされて終わる。
ふとカインを見ると、泣きそうになってた。
どうやら口論は俺の勝ちで良さそうだな。
そんな口論が終わるくらいのとき……
「ボアが移動を始めた。尾行するぞ」
カインは気持ちを切り替えたようだ。
頷いた。
ボアは村を抜け出して、特定の方向へと向かっていくのだが、その進行方向は夕方頃にカインがやってきた方向だった。
「ひょっとして今日はあのボアのこと調査してたのか?」
「そうさ。このまま野放しにしてたら生活が成り立たなくなるからな」
なるほどな。
こいつは兵団のリーダーとしてちゃんと働いてたようだ。
「でも今日もボアは畑荒らしに現れたってことはカインの努力は虚しいものだった、と」
「うるさい」
そのとき。
ボアが草むらの中に入っていった。
そして猛ダッシュでこの場を離れていった。
カインはそれを見て顔をしかめる。
「今日は足跡を追って探してみたんだ。でも、ここで途切れてて」
「これ以上追えなかったというわけか」
なるほど。
たしかにこれじゃ足跡を追えなくなるよな。普通は。
「なぜお前はあらかじめこの情報を知ってて俺に話さなかった?」
「ボアの件は俺が解決してティアさんに認めて貰おうと思ったからだ。お前に有利になるようなことするわけないだろ」
カインはニヤニヤしていた。
「ここからどうするつもりだ?もう足跡消えちゃったよー」
【嗅覚強化】
すん。
嗅覚だけを強化した。
そして、必要な情報だけをにおいとして得て。
そうでない情報を切り捨てる。
(あった、この獣臭いにおいだな)
ボアのにおいが続く方向へと歩いていく。
「こっちだ、ついてこい」
草むらの中を歩いていくと、カインは怪訝な顔をする。
「どうして、分かるんだ?」
「足跡がなくても、あの独特な獣臭さまでは消えない。においを辿れるから分かるよ」
そう答えると、カインは破顔した。
「さすがザックス隊長!あのころからそのすごさは何もお変わりないですね!」
それは子供のような無邪気な笑顔だった。
「ん?」
え?なに?いまのは。
幻聴と幻覚が同時に来た?
あまりの出来事に俺はカインのことをジーッと見てた。
それからカインは咳払いしてた。
「なんでもない。」
急にいつもの顔に戻ってた。
「さぁ、早く案内しろよザックス」
二重人格かなにか?
昔のことを思い出してみたが、こいつは二重人格じゃなかったと思うけど。
(お前まさか、男のツンデレか?)
ゲームのエリートキャラに転生した俺、原作主人公にストーリーをぶっ壊されてすべてを失なってしまったので生まれ故郷の田舎に帰ることにした。田舎には俺の帰りを待っていてくれた美少女たちがいた にこん @nicon
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