第4話 寝床、婚約

 カインに無視されてしまった。

 俺はそのあと自宅前まで戻ってきた。

 ちなみに俺に親はいない。

 原作からそうだけどザックスの親はモンスターに殺されている。

 しかもザックスの目の前で殺された。

 そんな悲劇をこれ以上産みたくないし、自分と同じ悲劇を他の人に味わって欲しくないという理由でザックスは騎士を目指すようになった、という設定がある。


 ちなみに俺の意識が覚醒した時には親は既に死んでたから、悲劇回避とかはどうしようもなかった。


 家の扉を開けると、


「うわっ。埃まみれ」


 6年間いっさい掃除してないから仕方ないけど埃がすごい。

 こんなところで1日寝るだけで病気になりそうだな。


「ザックスくん、うちに来ない?」


「いいのか?」


「うん。ウチの家客間が空いてるからさ」


「じゃあ、お世話になろうかな」


 ティアの家に向かった。


「ただいまー」


 ティアに続いて家の中に入ると、すぐに玄関にティアの両親が集まってきた。


「おー、ザックスくんじゃないか。他の村人から聞いたがほんとに帰ってきたんだな」

「久しぶりねー。大きくなったわねー」


「お久しぶりですね」


 挨拶をするとティアたちが話し始めた。


「ザックスくんの家、埃がすごくて眠れそうにないからうちに泊めたいんだけどいいよね?」


 ふたりは笑顔で頷いてくれた。

 それから食事もお風呂なんかも全部世話してくれると言う。

 ありがたい話だ。


 でも無料で世話になるのは悪いよな。

 ここは宿泊料くらいは払っておこう。


 騎士団時代はかなり儲けていた。

 そういうのもあって金にはわりと余裕があるので、両親に渡した。


「こんなに?」

「えぇ、とうぜんでしょ?」

「王都の稼ぎばすごいんだなぁ」


 ティアの両親は目配せしてた。


「客間のチェックしてくるわね」


 ティアママは客間の方へ。

 ティアパパの方は俺の耳元に顔を近づけて来た。


「ところで婚約者なんかはいるのかい?」

「いませんよ」

「うちの娘なんかはどう?ティアは君のこと好きみたいだけど」

「いいとは思いますけど、俺にはそういう話は早いかな、とも思ってます」

「ははは、ぜひ一考して欲しいものだな」


 そのとき、母親が帰ってきたんだけど……


「ごめんなさいね。ザックスくん、今客間の調子が悪いらしくて、今日はティアの部屋に泊まってくれない?」


(あっ、了解でーす)


 さっきの目配せの意味を理解してしまった。

 客間は普通に使えると思う。今の発言は嘘だと思う。

 俺とティアをくっつかせたいんだと思う。

 俺が普通の男なら女の子と同じ部屋に一晩入れられたら我慢出来るわけもないからなぁ。


 とは言え俺は元騎士だ。

 異性の主を守るための特訓も騎士団では行っていた。そのためちょっとやそっとのことじゃ欲情することはない。


 ティア本人は今の言葉の真意を分かってないっぽいけど。


「そうなの?客間はこの前掃除したのになー」

「ごめんね、2人とも。そういうわけで今日はティアの部屋でよろしくね」


 ティアは申し訳なさそうな顔をしてた。


「いいかな?ザックスくん」

「別にいいよ」


 先にティアが部屋の方に向かっていった。

 ティアを追おうとしたら父親に話しかけられた。


「ティアと仲良くな、ザックスくん」

「俺はかつて禁欲の鬼と呼ばれた男ですよ?そう簡単に上手くいくとは思わないことですね、くくく」



 ティアの部屋に向かう。


 中に入るとティアは困ってるようだった。


「あっ!そういえばベッドひとつしかないよー。どうしよう、なんでふたりとも気付いてくれなかったんだろ?」


(そりゃ、ひとつのベッドで寝ろってことだからな)


 だけどここはド田舎。

 ティアはほんとに何も知らないのかもしれない。


(清純ですなぁ)


「ねぇ、ところでザックスくん、これから毎日何する予定なの?」

「そりゃまぁ修行だよ」

「え?そうなのっ?!最強なのにこれ以上強くなってなにしちゃうの?神様にでもなるの?」

「何がしたとかっていうのはないけど、最強じゃないと安心できない体にされちゃった」


(それにしてもなぁ)


 まさか一度の敗北で全部失うことになるとは思ってなかったな。


 もうあんな思いは嫌だし、うん。どうせなら最強を目指そうと思う。

 相手はやり込み勢の超廃人だから勝てるかどうか分かんないけど。


 でも才能勝負で言うと俺の方が部があると思う。

 原作主人公って血筋や才能的な話をすると一般人だからね。

 反対にザックスってキャラは才能マシマシの超絶優秀な血筋生まれ。


 差をつけられるところがあるとすればそこが狙い目となる。


「修行って具体的にはどんなことするの?」

「この辺りどうせモンスターがゴロゴロいるでしょ?」


 この村周辺はいろんな事情が絡み合ってモンスターが多い。


 実はこの村は立地の都合でモンスターに襲われやすい地形となっている。それに加えてこの村はいわゆる農村というやつだった。

 普段は農作物なんかを育ててそれを王都に売却して生計を立てている。

 つまり食い物の宝庫ってわけ。その食い物を狙ってモンスターがこの村に襲撃をしてくる。

 そんなわけで村周辺にはモンスターがウヨウヨいる。

 そこで村の人達はそんなモンスターを討伐するための小さな兵団を立ち上げたってわけ。


 だが今回はそんなモンスターに狙われやすいという立地がいい方向に働いてる。

 モンスターが多いということは経験値が多いということだから。

 そいつらを倒して無限に経験値を稼ごうと思う。


 そのとき、ティアは困ったような顔をしてた。


「そういうことなら助けて欲しいかも〜」


「ん?」


「最近ね。朝になると畑が荒らされてるの。でも夜に出歩くのは危険だからみんな困っててさ」


 なるほどな。

 どうやら俺はさっそくお仕事をしにいかないといけないようだな。


「任せなさい。ちょっと行ってくるよ」

「え?いいの?」


 俺は頷いてティアの家を出ていくことにした。


 ティアの家を出てすぐのところでカインとばったり出会った。

 さっきあった時とは一変して少し焦っているような顔をしてる。


「ザックス、なぜお前がこの家から出てきた?変態か?」

「泊めてもらってるだけだが?」


 俺はそこで逆に質問した。


「お前こそここでなにをしてる?夜になるとモンスターが活発化してくるけど」

「お前に答える筋合いは無い」

「俺には答えさせてそれかよ」


 ガン無視される。

 まぁ、無視して畑にでもとりあえず向かってみるか。

 丁度モンスターが荒らしに来てるかもしれないしな。


 俺とカインはだいたい同じタイミング位で歩き出す。

 たまたまだと思うけど、聞いておくか。


「なぜついてくる?」

「俺のセリフだ」


 お互い言い合っていた。

 俺としては畑につくころくらいにはカインもどっかに消えるだろと思ってた。

でも見込みが甘かった。


「カインもここかよ。モンスター退治でもしにきたわけ?」

「お前に答える必要は無い」


 出たよ。いつものやつ。


 はぁ、昔はこんなんじゃなかったのにな。

 昔の兵団時代なんか『ザックス隊長!』とか言ってくれて一番懐いてたのに。

 どうしてこんなにひねくれちまったんだろうなぁ?悲しいよ俺。


 まぁ、そんなことは置いといて問題の畑に目をやる。


「フゴッ」

「ぶひっ」


 数匹のボアが畑の中にいるようだった。


(なるほど畑荒らしはあいつらか)


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