第3話 原作より良くないか?
「んじゃあな、騎士団長。まさかこんなところでお目にかかれると思わなかったなぁ」
商人は積荷を下ろすと王都の方に帰っていってしまった。
「ザックスくん、この積荷を村の中央まで運びたいんだけど、お願いできるかな?」
「朝飯前よ。任せなさい」
かなりの量の積荷を肩に担ぐ。
「すごーい!さすが男の子!」
「久しぶりだし、案内は頼むよ?」
「任せなさい、ふふん」
ティアに村を案内されながら俺は村中央まで向かってった。
村の中央はちょっとした広場になっている。
その広場が見え始めた。
村人が集まっているようだった。
「みんなーー!ザックスくんが帰ってきたよ!」
タッタッタッ。
ティアは大声を出しながらみんなに報告していた。
その瞬間、全員の視線が集まる。
その場は大盛り上がり。
俺が帰ってきたことがビッグニュースのようらしい。
予想していたよりはかなり好感触で迎え入れられていたようだった。
そんな村人たちの間から1人の少女が姿を現す。
俺の方に走ってきた。
「ザックス様。ちょーお久しぶりでございますね」
「誰だっけ?」
黒い髪の女の子。
名前が思い出せそうで思い出せない。
最後にこの村にいたのが6年前。
そんでもって俺はこの村に帰ってくるつもりがなかったし。
思い出せない村人がいても責めないでほしいものである。
だが、女の子は気を悪くしたような顔もせず女の子は名乗ってくれた。
「あなたの許嫁のルージュでございますよ」
「え?そうだっけ?」
俺許嫁なんていたっけな?
ティアが口を開く。
「ザックスくん、それ嘘だよ、真に受けないでね?」
危ない危ない。
真に受けそうだった。
「ところでザックス様、滞在期間はどれくらいになりますか?お忙しい中帰ってきてくれたのでしょう?」
この子、俺がただ故郷に一時的に帰ってきたって思ってるっぽい。
どうしよ。
クビにされて帰ってきちゃった、って素直に言うの恥ずかしいよな。
でも、いずれバレるし、仕方ない。
素直に話そう。
「滞在期間はこれからずっとだよ。クビにされたんだよね騎士団。だから戻ってきた」
ルージュが驚いてた。
「クビ、ですか?」
「いろいろあってさ」
バカにされたりするかなーって思った。
日本人の感覚だと仕事クビにされて戻ってきたりしたら絶対馬鹿にされるだろうし。
でも、そんなことはなかった。
「いろいろと大変だったみたいですね。この村で私と死ぬまでスローライフと参りましょうか」
「あー、それはどうだろう?(死ぬまでスローライフ出来たらいいけどむりだと思う)」
俺は村人の顔をひとりひとり見た。
さっきから見かけない顔があるので、再確認していたが、やはりいない。
「そういえばカインは?」
カインはこの村を外敵から守っている兵団のリーダーである。
昔は俺も所属してたんだけど王都行きを機に抜けざるを得なかった。
ちなみに、その時は何故かめちゃくちゃ睨まれてた。
でも6年も経ったんなら向こうもそんなこと忘れてそうだけど。どうだろう?
「カインなら村の周りの警備に出てるよ。もう少しで帰ってくるんじゃないかな?カインにも会ってあげて欲しいなー多分喜ぶよー。ふたり、めっちゃ仲良かったもんね」
「もちろん、そのつもりだよ」
そこで考えた。
今カインが村の外にいるんだとしたら門から帰ってくるはずだ。
その門の近くで待って飲み物の差し入れなんかをしてもいいかもな。
「ティア、門のところまで行こうか。カインを迎えよう」
「うん」
ちなみに、当然と言うようにルージュもベッタリ俺に着いてきてた。
門の近くまで歩きながら俺はふたりに聞いてみた。
「ところでふたりは彼氏とかできたの?あれから6年だけど」
ティアは恥ずかしそうにしてた。
「いないよ。彼氏なんて。私はザックスくんが返ってくるのずっと待ってたよ?結婚するって約束したし」
え?
ほんとに俺の事待ってたの?
(一周回ってアメリアさんに負けて良かったんじゃね?これ)
だってアメリアに負けなかったら俺は一生この村に帰ってくることなくて、ティアのこと待たせ続けたってことになるし。
ひょっとして原作のザックスってこんなにかわいい幼なじみを捨てて、自分は王都で何食わぬ顔で暮らしてたクズなのでは?
(アメリアさんがストーリーぶっ壊してくれたお陰で女の子がひとり救われてない?ひょっとして、原作よりよくない?このルート)
アメリアさん、ありがとう。
心の中でお礼を言ってるとルージュも答える。
「私もザックス様の帰りをお待ちしておりましたよ。よく帰ってきてくださいましたね。ザックス様を信じて待った甲斐がありました」
あー、だめだ。
俺の中での原作ザックスのイメージがどんどんクズになっていくぞこれ。
うん、この件について深く考えるのはやめよう。
俺はこれ以上原作ザックスを嫌いになりたくない。
そんなわけで村の内外を繋ぐ門に到着。
門の近くにはちょっとした休憩所があるのでそこに入る。
あとは待つだけだ。
数十分後の事だった。
月が空に登り始めたくらいのころ。
土を踏む音が聞こえ、顔を上げる。
村の外側からこっちに向かってくる人影が見えた。
その人影が月影に照らされる。
はっきりと顔が見えるようになる。
(おっ、あれはカインだな)
カインとの距離はまだあるけど休憩所を出た。
カインはすぐに俺に気付いたようだ。
初めは驚いたような顔をしていたが、やがて真顔に戻る。
互いの距離が3メートルくらいまで縮まった時、カインが口を開いた。
「今更この村になにをしにきた?ザックス」
あれ?なんかあんまり良くなさそうな反応だな。
おかえり、とかじゃないんだな。
「お疲れ様、カイン」
俺はすっと、水を差し出したけど。
「お前からは受け取らないよ」
スッと横を素通りされ、そのまま村の中へと入っていった。
「なんか恨まれるようなことしたかな?」
ふと呟いてみた言葉。
返事を期待したわけじゃなかったんだけど。
「ザックスくんは何も悪くないよ」
「カインはいつもひねくれてますのでお気になさらず」
ふたりからフォローを貰えて気が楽になった。
しかし、どうしたんだろう?カインのやつ。
俺の帰郷は大成功かと思ったが、なんかモヤッとした。
今はあんなんでも、昔は仲良かったんだけどな。
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