第2話 退団、故郷

 俺は立ち上がると騎士団の詰所に向かうことにした。


 アメリアは俺に着いてこようとした。

 でもアメリアだけはローエンに呼び止められる。


「レッドウィング騎士団へようこそ。雑魚とはいえ一応団長だった男を倒すなんて歓迎するよ。殴られたことは忘れる」


 すっ。

 ローエンは手を差し出していたが。


 パン!

 その手をアメリアは振り払った。


「ザックスをバカにする騎士団なんて入らない」

「馬鹿じゃないのか?騎士団に入れば未来は保証されると言うのに」

「そんな未来なら私はいらない。お断りだ」


(ストーリーぶっ壊しまくってんなぁ)


 この後原作主人公は騎士団に入り修行を積んでいくことになるんだけど、アメリアさんはそんなものいっさい知らないというような顔をしてらっしゃる。


 俺が詰所に入るとやはりアメリアまで着いてきていた。


「ご、ごめんね、ザックス。負かしちゃって。こんなことになるなんて知らなかった」


(まぁ、それは仕方ないだろうな)


 そもそもの話原作では俺が負けるなんて有り得ないことだったからな。

 負けたあとのことなんて知らないのも仕方ないし、ゲーマーなら誰だって1度くらいは思うだろう。負けイベに勝ったらどうなるんだろうって。

 これはそんな誰もが持つ好奇心の結果だ。

 その好奇心を攻める気にはなれなかった。


「別に気にしてない」


 この件でこれ以上話し合うつもりもない。

 アメリアの顔を見て気にするなという視線を送りながら告げる。


「今日のことは気にする必要は無いよ。負けたヤツが悪い」


 アメリアの顔が明るくなった気がしたけど。


「でも今は君の顔見たくないからさ。部外者がここにいるのもあんまり良くないし帰ってくれないか?」

「そ、そうだよね」


 だが、帰る様子は無い。まだなにか話したいことがあるようだ。

 もう少し言葉を待ちながら俺は鎧を脱いだ。

 騎士団で使っているのは国からの借り物だ。

 持ち去る訳にはいけないから返す。


 鎧を脱いで私服に着替えてるとアメリアが口を開いた。


「明日からどうするの?」


 この場所にはもう俺の居場所は無い。

 団長だった男が負けて追放されたのだ。

 そのことはすぐに王都中に知れ渡り肩身は狭くなるだろう。


 だから田舎に帰ろうと思うけど。

 それを伝える気にはなれなかった。

 俺の行動でアメリアの行動が変わったりしそうだし。


「君には教えないよ。ただ覚えておいて欲しい。俺が諦めるのを諦めろ」


「えっ?その言葉は……」


 もちろん。さっきアメリアが言った言葉だ。


「今はすべてを失った」


 立場も職も未来も、全てを失った。

 今の俺には何も残っていない。


「でもいつかは必ず取り戻す」


 俺は諦めない。

 そして……


「次に会う時は君をボコる。いつまでも勝てると思うなよ。この屈辱9999倍にして返す。これが最初で最後の勝利の味だ。よーく覚えておけ」


「言うじゃない。再戦、楽しみにしてる」


 それ以降はアメリアと会話することは無かった。


 俺は詰所を後にした。

 もうこの場に戻ってくることは無いだろう。



 馬車を捕まえて俺は生まれ故郷の村に向かっていた。

 もう既に王都を出て今は草原を走ってた。

 予約不要の荷物搬送用の馬車の荷車の空きスペースに乗っているだけなので乗り心地はよくない。

 御者が口を開く。


「運がよかったな。あんな辺境の村なんて普段は行かないんだが今日は荷物を運ぶ用事があったからな」


 その言葉の通り、俺の生まれ故郷は王都からそこそこ離れた場所にある小さな村だ。

 王都からだいたい半日程度はかかるくらいの距離にある。


 そんな場所にあるから交通の便は悪い。

 今回は本当に運が良かったようだ。


「帰郷ってやつか?」

「まぁそんな感じ。6年ぶりくらいかな」

「幼なじみとかいたりしたのか?それなら見違えるほど変わってたりするかもなー」


(幼なじみか)


 俺には幼なじみがいた。

 名前はティアと言うんだけど、かわいい女の子だった。


 俺にはすごい懐いててくれたし、なんなら


 『将来の夢はザックスくんのお嫁さん』とか言ってくれるような女の子だった。

 とはいえ子供の頃の会話だ。


(そろそろ彼氏とかできてたりしてな、だとしたら残念だけど)


 でも幼なじみとしては祝うべきだよな。

 うん。



 そうして馬車に運ばれること数時間。

 草原ばかりで代わり映えしなかった景色にチラホラと人工物が見えるようになってきた。

 しばらくして完全に馬車が止まる。


「よう着いたぜ、兄ちゃん」


 荷車にかかっていた布を外してくれる御者。

 ばっちりと外の景色が見えるようになった。

 目の前には懐かしい景色が広がっていた。

 王都に移ってからは帰ってきたこと無かったからな。

 多分、帰ってきたのは6年ぶりくらいか。


 10歳くらいの時には俺は才能を認められて王都の騎士団にいたから。


「商人さ〜ん、こっちです〜」


 女の子の声が聞こえた。

 荷車から降りずに顔だけ覗かせてそっちを見てみた。


 金色の髪の毛、小さな胸。

 そして、丁寧な言葉遣い。

 覚えがあると思って顔を見たんだけど、やはり俺の知っている人物だった。


(ティアか。まさか帰ってきて一人目に会うとは思わなかったな)


 6年前から何も変わっていないためすぐに分かった。


 しかし、向こうはどうだろう?


 俺なんかのことは忘れてしまってるかもしれないな。


「今日は変わった品を持ってきたぜ?」

「変わった品?」


 俺がひとりで悶々としてると、商人とティアの会話が聞こえた。


「おい、降りてこいよ」


 商人にそう言われて俺は荷車を降りた。

 完全にティアからも見える位置に移動すると、目が合った。


 ティアの方は俺に釘付けって感じだった。

 いっさい目を逸らそうとしない。


「え?ザックスくん?」


 俺の名前を呼んでから、ティアは思いっきり破顔した。


「ザックスくん?!!!!ほんとに?!帰ってきたんですね!」


 俺は頷いた。すると反応を示したのは商人の方だった。


「え?ザックス?」


 俺は商人に名前を名乗ってない。

 そのため俺がどこの誰か知らなかったんだろう。


 だが、ティアの言葉で気付いたようだ。


「ザックスってあんたまさか、あのザックスか?」

「商人さん、ザックスくんがどうかしたんですか?」

「知らねぇのか?嬢ちゃん。ザックスって言うと歴代最年少で騎士団長に任命されて、王都最強と呼ばれた天才剣士だぜ?華々しい経歴の持ち主なんだよっ!」


 ぱちぱち。

 ティアは瞬きしてた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!すごーーーい!!!!」


 やれやれ。

 胃が痛い。


 俺は今から。

 騎士団をクビにされて、故郷に逃げ帰ってきた惨めな負け犬だということを伝えないといけないんだから。

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ゲームのエリートキャラに転生した俺、原作主人公にストーリーをぶっ壊されてすべてを失なってしまったので生まれ故郷の田舎に帰ることにした。田舎には俺の帰りを待っていてくれた美少女たちがいた にこん @nicon

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