ゲームのエリートキャラに転生した俺、原作主人公にストーリーをぶっ壊されてすべてを失なってしまったので生まれ故郷の田舎に帰ることにした。田舎には俺の帰りを待っていてくれた美少女たちがいた
にこん
第1話 敗北、追放、カオス
【レジェンドサーガ】という王道ファンタジーゲームがあった。
これは初めは何も知らない主人公が一から努力して魔王の討伐をするまでを描く超王道ファンタジーゲーム。
俺は一度だけサラッと流して遊んだ程度のゲームだったんだけど、そんなゲームの世界に転生してしまった。
そんなに詳しいわけじゃないけど、それでも最低限の原作知識はある。
その知識によると俺はサブキャラのザックスというキャラとして転生していた。
こいつは国を代表する【レッドウィング騎士団】という騎士団の団長を務めている。
原作の活躍だけど、チュートリアルで主人公にゲームの遊び方を教える。それからほとんど出番がないようなキャラである。
ちなみにこのチュートリアルは原作では負けイベントとなっており主人公は勝てない。
そして俺は団長という肩書き通りそこそこ強い。
年齢は16。この年で騎士団を任されるなんて、どれだけ優秀かはわかって貰えると思う。
これから先の人生だけどモテにモテまくっていい奥さんをもらってそこそこいい人生を送ると思う。
まぁ、人生勝ち組ってわけ。
(ふん、ちょろいぜ)
なんてことを騎士団の詰所で思っていた。
どんどんどん!
詰所の扉から音が聞こえる。誰かが扉をたたいてるのだろう。
扉が開き、俺の部下が慌てた様子で詰所に入ってきた。
「ザックス騎士団長様!」
「なんだ?」
「騎士団への入団希望者が来ました。入団試験をして欲しいみたいですが」
(お、きたきた)
原作主人公だろう。
意気揚々と立ち上がって詰所を出ていく。
グラウンドに出た。
騎士達が訓練出来るような広い場所。
そこには原作主人公が見える。
(女か)
原作では主人公の性別を選択できた。
男か女。
この世界の原作主人公は女らしい。
なかなか可愛い顔をしている。
入団した後のことが楽しみですなぁ。
「あなたがザックス騎士団長か?」
「そうだ」
「話は聞いていると思う。入団試験をお願いしたい」
俺は女に武器を一本投げ渡した。
「腕前を見よう。好きなタイミングで始めてくれ」
俺も剣を持って向き合う。
「ザックス騎士団長ひとつ言いたいことがある」
「ん?(なんだ?こんなセリフ原作にはなかったが)」
「私の名前はアメリア。私と同じ世界に生まれてしまった不運を嘆くがいい。私は負けイベとストーリーをぶっ壊しにきた」
そのセリフのあと、戦いの火蓋が切って落とされた。
(はやっ!!!!なんだこの速度!!)
弾丸のような速度で迫り来る。
その速度を維持したまま剣を振るわれる。
ギャイン!
間一髪。
剣を受けた。
(もう少し反応が遅れたら確実にやられてた)
驚愕の視線を女に目を向ける。
向こうも驚いていた。
「今のを受けてくれるなんて、さすがザックス♪♪強キャラと言われただけはある。でもおかしいな?今ので沈む予定だったんだけど、原作より強いかな?」
(原作?)
違和感があった。
しかし、それに思考回路を割く余裕は無い。
アメリアが次の行動に入っているから。
「【スラッシュ】」
ギャイン!
キィン!
カァン!
剣と剣が交差する音が何度も響く。
(なんだこの速さ。有り得ない。それになんだこの【スラッシュ】の重さは)
原作はステータスがものをいう世界だった。
この時点では原作主人公の速度はなにをしてもザックスに追いつくことはなかった。
他のパラメータも同じだ。
これは本来百回やっても百回ともザックスが勝つような負けイベ。
しかし
(なぜ、こんなに早い?!チートだろ?!)
俺の体がアメリアの速度にギリギリ追いつくくらいだった。
そんなレベルでアメリアは早い。
はっきり言って今のところ実力は互角かそれ以上だった。
ありえない。
普通に生きてればこの段階でアメリアが俺と互角以上なんてありえないっ!
ところで提案があるんだ、アメリアさん。話を聞いてくれないかな?
「そろそろ諦めた方がいいんじゃないか?」
「はっ……はっ……」
どうやらアメリアもギリギリなのだろう。
どう見ても最初からフルパワーで攻めに来てるし。
肩で息をしてる。
「合格だ。ここで試験を切り上げよう」
これ以上続けたら負けるかもしれない。
そう考えた俺が出した苦肉の策。
勝負を流そう。
俺はそう思ったのだが……
「一度始めた決闘。最後までやるのが礼儀だろう?私があなたを倒すか、あなたが私に膝をつかせるか。それがこのチュートリアルの終着点だろう?」
「俺は強いぞ?君じゃ勝てない。もう諦めるんだ(諦めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)」
魂の叫び。
しかし、そこでアメリアはニヤッと笑った。
「私が諦めるのを諦めろ」
ギャイン!
次のアメリアの攻撃で決着はついた。
俺の剣は空中にあった。
クルクルと回って剣は俺の後方で落ちた。
(負けた)
力が抜けた。
膝を着く。
(なんだ?この結末。知らないぞこんな展開)
スッ。
アメリアが俺の首筋に剣を向けてきた。
「むふふ。どう見ても私の勝ちだ、騎士団長」
周りから声が上がる。
「う、そだろ?」
「団長?!」
「あの百戦錬磨のザックス騎士団長が負けただとーーーー?!!!!」
アメリアはバンザイして喜んでた。
「やったぁぁあぁぁぁぁ!!!負けイベ勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」
めっちゃ嬉しそうな声。
(うそ、だろ?俺が、負けた……?)
負けるわけないと思っていた戦いに負けた。
ショックで頭が真っ白になってる。
でも、負けたせいでやっと脳のメモリに余裕ができた。
さっきから感じていた違和感の正体について考える。
(こいつ、ひょっとして転生者か?)
ずっと前から違和感があった。
謎に自信たっぷりの言動。
俺の事を最初から知っているかのような言動。
どこをどう見ても転生者のそれだった。
(しかもこいつ。ただの転生者じゃないな)
アメリア。
聞いたことある気がする。
たしか
(極限やり込み勢だったか?)
俺はそこまでやり込んでなかったけど、ゲーマーって人達は低レベルクリアとか色々な遊び方をしてた。そのプレイングを動画投稿サイトにアップしていたので、俺も何人かは名前を知ってる。
で、そんなやり込み勢の中にアメリアという名前の人がいたのを覚えてる。
動画をたまーに見てたから。
で、そんなアメリアだけど名言がある。
それが、『私が諦めるのを諦めろ』だ。
俺はどうしようもなくて小さく笑った。
(そりゃ勝てねぇよー。そんなガチ勢には)
俺が小さく笑ってるとアメリアは手を差し伸べてくれた。
手を貸してくれるってことだろうけど。
「おい、ザックス」
別の方角から声が聞こえた。
嫌な予感。
声の聞こえた方に目を向けると、そこにいたのは金髪の騎士。
我が騎士団の副団長ローエンだった。
そいつが近付いてきた。
「おまえクビな。理由は分かるよな?素人に負けやがってこの雑魚が。追放だ。弱いやつは騎士団から出ていけ」
ぺっ。
ローエンが俺の髪に向かって唾を吐き捨ててきた。
なんとなく察してしまった。
アメリアがストーリーをぶっ壊したせいで俺の人生も盛大にもぶっ壊されたのだと。
「へっ?」
アメリアは目をまん丸にして呆然としていた。
こんなことになるとは思わなかったのだろう。
だが、アメリアを責める気にもなれなかった。
極論を言えば負けた俺が悪い。
俺が弱かったのが悪い。
勝てなかった俺が悪い。
世の中弱肉強食。
勝利こそが全て。
弱者に救いなし。
だから俺は胸中で己に誓った。
(もっと強くならないと)
すべてを蹂躙できるくらいに。
強く胸に誓ったそのときだった。
「ザックスを馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!!」
いきなりの声でビクッとした。
でもすぐに状況を理解した。
(えーっと、アメリアさん?)
パーンチ!!!
アメリアは助走をつけた右ストレートをローエンに食らわしていた。
目の前ではカオスが広がっていた。
誰もが展開を知ってるはずのチュートリアルは、俺が一ミリも知らない展開になっていた。
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