返せ

女神なウサギ

第1話

 それはかつて人形作家が住んでいた古い家だった。家主が亡くなってから年月が経ち解体することになった。

俺は部屋を片付けながら隣のお坊さんに話しかけた

「それにしてもあきらと一緒に仕事をする日がくるなんてな」

「妙な縁だよな」

彰は俺の高校時代からの友人で住職として働いている。なんでも、人形には霊が宿りやすくしかも今回のような精巧な人形には特に注意が必要とのことで除霊のために来てもらった。

「除霊を始めるぞー」

お祓いが無事に終わり、片付けを始めた

「おっ、こいつは力作だなあ」

それは紺色の着物を着た美しい女性の人形だった。

彰もうなずく

「捨てるのがもったいないな」

「お前が引き取ったらどうだ?」

「置き場が無いよ」

「俺の家も置けないな。仕方ない、処分しよう」

 それからしばらくして部屋の片付けが終わった

「よし、こんなものかな」

その日は特に何事もなく1日が終わった。だがー

 1週間後。夜寝ていると何かがいる気配がした。

恐る恐る部屋を見回すとあの紺色の着物を着た人形の霊がそばに立っていた。

「体を返せ」

「体? なんのことだ?」

「この人形は私の身体だったのだ。除霊されて離れているうちになくなってしまった。返せ、今すぐ返せ」

「そんなこと言われても・・・」

「返せないならお前の体をもらう」

「まっ、待ってくれ。きっと体を取り返すからされまで待っていてくれ」

霊は頷き静かに消えていった

それからさらに1週間後。再び霊が現れた

霊は「いつまで、いつまで」と悲痛な声で恨みを呟く。さらに恐ろしいことに家の前にある田んぼから

「返せ!、返せ!」と叫び声が聞こえるようになった。

俺はたまらず彰に相談することにした

「ーという話なんだが、解決法か何か知らないか? お前は妖怪とかに詳しいだろ」

「そうだなーいつまでと呟く霊は以津真天いつまでんだな。飢え死にした死者を放っておくと生まれる妖怪だ。いつまで待たせるのかと怒っているんだろう」

「返せと叫ぶのは?」

「返せと叫ぶのは泥田坊どろたぼうだな。本来は奪われた田んぼを返せと叫ぶ妖怪だ。体を返せと叫んでいるのだろう」

「俺はどうすれば良い」

「あの紺色の着物を着た人形を取り戻すしかないだろうな。リサイクル業者のところへ行くと良い」

「分かった、ありがとう」

 だが、現実は残酷だった。

「もうない?」

「買い手がいてね。売り払ってしまったよ」

買い手の住所を聞いたが、個人情報だからと教えてもらえなかった。食い下がったが警察を呼ぶと言われて仕方なく諦めた。

 「俺はどうすれば良いんだ」

夜になった。あの霊が今夜も現れる

「申し訳ない、あの人形はもう手に入らないんだ。代わりの人形を用意するから許して欲しい」

霊は鬼の形相になり、静かに消えていった。

 それからさらに1週間後、恨みの声が聞こえなくなっていた頃。俺は金縛りにあった。身体が全く動かせない。そうしているうちに意識が消えて何かが入ってくる感覚に襲われた。

「俺はここまでか」

後には今の今まで人だった人形だけが残された

END


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