最後の「月見」

星見守灯也

最後の「月見」

「もう『月見』の季節か……」

「ああ、今年も派手にいこうぜ」

 彼らは笑って頷き合い、彼らの『武器』を取った。

 手触りを感じながら弾薬をこめ、スムーズな動作を確認する。

「準備はいいな。いくぞ」

 さあ、年に一度のお祭りだ。



 夜中、紺色の天には金色の月が静かにのぼる。

 まんまるの月、今日は月の可視面積が一年で一番大きくなる日だった。

 光学迷彩が施され、肉眼では見えないが月には月人の都がある。

 目を凝らして月を睨む。凹凸の影もはっきりと見えた。

「いた」

 まばゆい月と暗い空の境に、何かが見えた気がした。

 その点は近づいてきている。

 来る。そう思った瞬間、ひゅうと月光を横切ったのはU-sagi型支援機だ。

 月人の兵器。宇宙空間をあっという間に飛来したそれは、白いもやをまき始めた。

 通称をMoCHiという迷彩雲は、機体どころか月まで覆い隠して見えなくしてしまう。

 このもやに紛れて攻撃するのが、いつもの月のやり方だった。

 しかしこちらも一歩的にやられているわけではない。

「撃て!」

 合図にしたがい、彼らは砲に張り付いて弾を放つ。

 このSuSuki弾は金色の尻尾をひいて放物線を描き、もやに当たって散らす。

 迷彩雲が吹き飛び、隙間からまた月が姿を現した。

「く……近づかれたな」

 頭上をHikiGa-L型攻撃機が飛んでいくのが見えた。

 攻撃機は小さな球形のgun-Yaku爆弾をばら撒いていく。

「あち!」

 当たるとなんだか臭い。苦くて渋いような、変な匂いだ。

「何やってんだ、すぐO-Dango撃て!」

「おー!!」

 こちらも小さな球形の弾をポンポンと撃ち出す。

 ちょうどよく当たれば、それは攻撃機を大きく揺らした。

「SaToimo用意!」

「完了!」

「撃て!」

 ドンと打ち出された歪な形の弾。

 レーダーの探知を逸らすためこんな形になっているらしい。

 それはまっすぐ月に届き、そして。

 8つの小さい光に別れ、キラキラとして消えて行った。

 それは古い母星でいう、花火のようだと彼らは思ったかもしれない。

「……終わりだな」

「ああ、今年も無事に『月見』が終わった」



 ここは第182恒星系の第6惑星テン・テー。

 対する月は衛星ジョウガ。

 植民されたのは400年前、この2者間で戦争が起こったのはその36年後のことだ。

 初めは殺し合っていたものが、惰性に変わるのにそう時間はかからなかった。

 人死にが出なくなり、交易も普通になされるようになってから早200年。

 年に一度、互いに威嚇を行うだけが「戦争」の名目を保っていた。

 この行事は15演練、通称「月見」とテン・テー方では呼称されている。






 しかし、その翌年の「月見」は様子が違った。

 殺傷力の高い光弾の飛び交う中、彼らは右往左往するばかりだ。

「なんで攻撃してくるんだよ!?」

「知らねえ! なんだあいつら!?」

 惑星テン・テーは衛星ジョウガの総攻撃を受けていた。

 まわりで人が倒れていく。動かなくなる。

 臭いどころではない。血しぶきが飛んだのを見るのは初めてだ。

 迷彩雲に紛れて数百のミサイルが飛んできた。

 それを知覚した時は、撃墜、防御するにはもう遅すぎた。

「まさか油断させて……! いったい、いつから……!」

 爆発は一瞬。パッと光り、すぐにそこに何があったのかわからなくなった。



 こうして惑星テン・テーは衛星ジョウガの勢力下に入った。

 俗に月見奇襲としてよく知られている事件である。

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最後の「月見」 星見守灯也 @hoshimi_motoya

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