第7話 夜明け前 ~第七の章~
「下手な抵抗さえしなければ、危ない目には遭わせませんよ。大切な人質なのでね」
俺の目の前に立った男が、剣を片手に丁寧ながら不遜な態度で言葉を発した。その周りに十数人程の男と何人かの亜人と思わしき若い女性。そんな彼等と俺の間に入ったソキーラが鋭い目付きで連中を睨みつけた。
「貴方方の行いは国家に対する反逆行為と同等である事を理解しているのですか ! ? 」
「こうでもしないと貴方達は我々の言葉に耳を貸してくれないのでね」不遜男が太々しい態度を崩さずに「王子の身柄を確保して対話に持ち込む。まぁ、その為には致し方ない事だと思って下さい」
そういう男の風貌にはどこか見覚えがあった。元のカイエル王子の記憶を掘り起こした俺は男に声を掛けた。
「お前、確かワサイという名だったな。元王宮の役人だったが、不祥事で追放された…」
「フン、覚えていましたか」男─ワサイ─は少し憎しみの籠もった目で俺を見た「あの後国王が各所に私が要注意人物である事を伝達した事で、私はどこに行っても滞在を拒否され、完全に世間から干された状態になって居場所を失った。その時受け入れてくれたのが亜人の人達でね、そこで長らく御世話になっていた…」
「その時の逆恨みという訳ですか」ソキーラが厳しい口調で「何を要求しようというのですか?やり方が卑劣ですよ!」
「逆恨みではない!」ワサイは声を若干荒げて「亜人の区域で生活する内に彼等のこの国での境遇を改めたい気持ちになったのだ!具体的な事までは言わないが、王にとにかく聞いて貰いたかった。しかし私の要求は尽く無視された」
追放処分を受けた人間の要求なんて聞いて貰える訳が無いだろう。
「だから、この手段を取った。王が我々の要求を飲んでくれれば、王子の身は国側に返す。それまでは大人しくしていて貰う」
「そんな事が上手く行くとでも思っているのか?」俺はその拙い計画に呆れた「俺を取り戻せば、国側はアッという間にお前らを制圧して処分するぞ。結んだ協定なんて無かった事にされて、お前達はただの反逆者として葬り去られるだけだ」
「武力行使の大嫌いな貴方の父上にそんな血生臭い行いが出来ますか?」ワサイは不敵な笑みを見せた「人質の命さえ無事であるなら、どんな要求でも承諾する。そして、今回の事は水に流して、これからまた仲良くやって行きましょう、と。今までもずっとそういうやり方だったではありませんか。それに」意地の悪い視線を俺に向けた「平和主義を掲げ、それを国内外に言い広めているチサトーゴの中でそんな乱暴な事をしたというのが知れたら、諸外国からの信用も失われて今後の外交にも支障をきたす。我々を武力で制圧するなんて絶対出来ません」
非暴力主義の弊害がこんな所にまで及んで来ている。ここまで話をしたワサイの側に荒縄を持った数人の男達が寄って来た。
「そういう事でカイエル王子、ここは大人しく我々に身を預けて頂きたい!」
その言葉を合図に一本の縄が飛んで来て、アッという間に俺の体に巻き付き、両手の自由を奪った。だが、すぐにソキーラがその縄を掴み、力を込めて引き千切った。
「クソッ、先にあの女を拘束しろ!」
ワサイが他の男達に指示を飛ばすと、今度は数本の縄がシュルシュルッと放たれ、ソキーラの美しく整った豊かな肢体をグルグル巻きにした。しかしソキーラは慌てる事なく力を溜め込むと、両手を思い切り広げ、上から巻き付いていた縄をたちまちの内に四散させた。
呆然とするワサイに亜人の女が近寄り
「アンタ達じゃ無理だよ。ここは私達に任して」
と言って俺達に向かい、戦闘の構えを見せた。それを見たソキーラが
「王子、危険ですので、巻き込まれない様に離れていて下さい」
と俺に忠告し、亜人達と向かい合った。
「容赦はしないからね!」
亜人女の一人がそう叫ぶと、両掌をソキーラに向けそこから勢い良く熱波を発射した。さっき、馬車を止めた波動の正体はこれだったのか。モロに食らったソキーラは大きく吹っ飛び仰向けに倒れた。
「もらった!」
亜人女が高々と舞い上がると膝を直角に曲げ、倒れたソキーラ目掛けて一気に落下した。
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第七王子に転生したので、やりたい事をやらせてもらうぜよ! 紫葉瀬塚紀 @rcyo
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