第3話 帰宅

程なくして俺は家の扉を開けた。


明かりが付いていたので既に誰かいる事は分かっていたが、扉が開いた時はホッとした。鍵を持ってなかったので閉め出されていたら野宿確定だったからだ。


扉を開けるとちょうど玄関の前に居た妹と鉢合わせる。


「あ、おかえり」


「ただいま。」


茶色い長い毛を靡かせる妹、そしてそれを立ち尽くして見つめる。


ふと玄関にある秒針の音が鳴り響いている事に気がつき、自分がボーッと立ち尽くしていた事に気がつく。


「え、何?なんかあった?」


妹が怪訝な顔でこちらを見ていた。急に黙ったもんだから何か俺が言い出すのかと少し待っていたようだ。


「いいや、何でもない」


「変なの」


そう言って妹は2階の自室に上がっていった。


「あ、お風呂の栓抜いといてよね。あとご飯置いてあるからお皿洗っといて」


階段から顔を覗かした妹はそう言い残し上がって行った。


その後お風呂と食事を済ませ、少しリビングを漁っていた。

テレビ台に置いてある写真には俺と妹、そして父と母が映っているがその影はこの家には見当たらない。


そしてその後は自室に戻る。スマホが机の上に置いてあったので急いで確認する。今日の日付は5月11日 そしてLINEを見るとナズナから


「何か分からないこととかあったらここにメッセージ送ってね」


という文章が送られてきていた。


「ありがとう」


とだけ返信して、他を確認すると


「お前、記憶喪失ってマジ?」


という文章が何人からか送られてきていた。どうやらナズナが俺の友人に事情を伝えたようだ。


全員に返信を終え、ベッドに横になる。今日2時間も歩いたせいか徐々に意識が薄れ、目が覚めると目の前に妹が仁王立ちしていた。これは夢だな。


「どうした千咲。お兄ちゃんの寝込みを襲いに来たのか?」


明晰夢というのだろうか。体が思い通りに動く、そして思った通りに喋れる夢らしく少し調子に乗ってみた。


「あ?」


千咲の返事は「は?」ではなく「あ?」 ブチギレているようだ。しかし夢なので問題な・・・


グハッ


何かが俺の脳天を直撃し一気に意識が戻る。それと同時に頭がフル回転して現状を把握しようとする。


どうやら脳天に直撃したのは俺の筆箱。柔らかい素材で出来ているが中身がペンなので殺傷能力は意外と高い。一瞬狙撃されたかと思う衝撃が伝わった。

そしてもう一つ明らかになったことがある


さっきのは夢ではなかった


仁王立ちする千咲はゴミを見る目でこっちを見ている。部屋を確認したがゴミ箱は俺のいる方ではなく千咲が立っている扉側にあるのでゴミを見る目は俺を見ていることになる。


「ヘンタイクソ兄貴」


ヘンタイという字にクソを組み合わせた罵倒のフルコースが今日の朝食のようだ。豪華すぎるぜ。


「ナズナさんが迎えに来てるよ」


そういえば昨日7時10分に迎えに行くと言われていた。時計を確認すると今は7時20分。10分遅刻のようだ。


「後、昨日お風呂の栓抜いといてって言ったよね」


やっべ、すっかり忘れていた。朝からやらかしすぎている。しかし法には触れてない。ここは法治国家日本である。刑務所に入るレベルではない。よって俺は無罪。閉廷


その後、急いで支度をして家を出たのは7時35分。


なぜかナズナと千咲と朝食を共にとり3人で学校に向かうことになった。

行き先は皆同じ山間高校。朝から女の子2人に囲まれ、側から見ればハーレムだと羨ましがられるだろう。


「ヘンタイクソ兄貴はお昼どうする?」


千咲から例のあだ名を聞いたナズナが早速その名前で呼んできた。


遅刻、妹へのセクハラ、お風呂の栓の抜き忘れ


以上3つの罪により学校までひたすら説教とヘンタイ呼ばわりされて散々な1日の幕開けとなった。


学校に着いたのは8時丁度。結局学校見学はお預けとなった。


通学路から薄々感じていたが何やら今日は視線を感じる。それは俺がハーレム状態でみんな羨ましがってる・・・訳ではなく同級生を中心に俺が記憶喪失だと言う噂が広まったらしい。教室に入ると8割近くの生徒が登校しており、皆それぞれに話していたが俺が教室に入った途端、全員がこっちを向き会話がピタッと止まった。


時間にして3秒 しかし永遠にも感じられる時が流れた後


「なあ勇、記憶喪失ってホントか?」


沈黙を破るように1人が話しかけてきた。

そしてそれに続き皆が口々に俺を心配してくれた。


「勇、席はこっち。あのね、みんなにとってはいつもの勇でもコイツからしたら全員初対面みたいなもんなんだから、落ち着いて」


ナズナがこの場を収めてくれた。その後俺は席につき、友人だったという男子5人組を中心としてみんなから押し問答にあった。


「俺のこと覚えてる?」


「昨日学校休んだのはそれで?」


「ドッキリじゃないよね」


この押し問答はショートホームルームが始まるまでの15分間続いた。俺にとっては地獄のような時間だった。


「ゔぁぁぁぁ」


先生が来てみんなが席に着いた時には疲れのあまり地獄のようなため息を付いていた。


「今日の昼休み、生徒会室行くから。例の件、詳細話すね」


隣の席のナズナが先生が話している最中に手紙を投げつけてきた。

イタズラな笑みを浮かべるナズナに紙屑を投げ返したら


「ヘンタイクソ兄貴」


と書かれた手紙が投げ返されたので負けを認めた。このあだ名を明美台の生徒に見られたらヘンタイ生徒会長と罵られるだろう。どんなプレイだよ


待ちに待った誕生日会妨害の決行は今日の放課後


何より記憶喪失後初の登校である。果たして無事に乗り切れるのだろうか

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